さようなら、魔王軍
「迎えに来たぞー」
手塚の奴がやってきた。
昨日の終末戦争から一夜。修羅場を終えた俺はハーレムの恐ろしさを痛感しながら、初めて武藤を凄い奴なんだと認めてしまった。
後で人魚の血を分けて貰おう。奴程デッドフラグはないとは思うが、ラオルゥの眼見ただけで爆死しそうだし、まさしくリア充爆発の危機だ。
「戻るのはいいんだけどさ、若萌はどうなるんだ?」
「未来に戻るわ。その辺りは神様とかいうのが何とかしてくれるでしょ」
と、自分のことはどうでもいいといった顔で告げる若萌。今はとりあえず魔王軍の立て直しを手伝っておくらしい。
「ンで? 一緒に向こう行くのがこんだけ居んのかよ? 河上、お前言いたかないけどよ……ロクデナシだよな」
「うぐっ」
手塚の言葉に俺は思わず胸を押さえる。
否定、できない……
なぜならシシルシはともかく、ユクリ、ラオルゥ、マイツミーア、ペリカ、テーラが地球に付いて来るといいだしたのだから。萌葱合わせて六人の嫁候補である。稀良螺とチキサニがあっちに付いてくれていて良かったと喜ぶべきなのだろうか? いや、それより萌葱の視線が氷点下以下になってるのが辛い。
俺だって理由があるんだ。萌葱との結婚は無理だと思ってたし、魔王になるためにユクリと結婚は確定だと思ってたし、ラオルゥともなんやかんやでってのはありそうだと思ってたし。あとはまぁ魔王権限でどうとでもなるかなと、地球に戻ることになることすら当時は思ってもみなかったし。
「で、でもよ手塚、それだったら武藤の奴もロクデナシに……」
「あいつ地球出禁になったからって正妻の世界にヤッカイになりやがってな、今国王やってんだ。王様だからな、養うだけの財力あるんだわ」
「ぐはっ!?」
アレが、怪人が国王陛下……だと?
魔王から一般正義の味方に戻る俺とは月とスッポンじゃないか。
「手塚だったか、これからヤッカイになる。ラオルゥだ」
「おう。つってもあたしはアンゴルモア探しでまた異世界放浪だけどな。ついでに薬藻のいる世界が本拠地になってっから地球には時たま顔出す程度だぞ?」
「それでも転移とやらで手数を掛けるからな」
「そりゃそうか。まぁ向こうに付いたらあたしのクラスメイト紹介すっからよ、そっちの奴等に日本の常識とかやっちゃダメなこと聞いてくれや」
「了解した。立派に日本の人間となりセイバーと添い遂げるとしよう」
ラオルゥの言葉に過剰反応したのは若萌と別れを惜しんでいた萌葱、あとギュンターに別れを言っていたユクリ。
二人とも別れの言葉を放置してラオルゥの元へとやって来ると、再び口論が始まった。
誰か、あいつら止めてくれ……
「ん? おい、しれっとこの場に居たからスルーしそうになったけど、エルジーじゃないか」
ふいに、俺の隣に自然に立っていた女に気付いて俺は振り向いた。
気付かれたと気付いたエルジーはこくりと頷く。
「ルトバニア国王陛下とソルティアラ様がお亡くなりになってしまったせいでルトバニアが滅んでしまいまして、雇い先を探し中です。運のいい事にギュンター様が召し抱えてくださるそうなので」
「そ、そっか。その、ラオルゥが悪かったな」
「いえ、私は別に。ルトバニア自体も宰相以下が政務を行っておりますので指示を出す上が居なくなっただけで問題はありません。幸い国王という存在ならばムーラン国王とその娘が居ましたので臨時で彼らを国王と王女に据えて問題も無く国家運営できているそうです。私は、ムーラン王に忠誠は誓っておりませんので暇をさせていただきました」
宰相さんが苦肉の策を使ったのかもしれないな。
シシルシの御蔭でムーランの姫様は手つかずになって……ああ、いや、玲人に手籠にされた後だっけか? まぁ、適当に隣国の王子に嫁ぐくらいだろ。ルトバニア改め新生ムーラン王国に幸あれってか。
「元魔王陛下」
「何だよエルジー」
「あなたの御蔭と言えばいいのでしょうか。私も影を卒業できそうです」
「そりゃよかった。といった方がいいのかね」
「お元気で」
告げて、エルジーが霞みのように消える。影卒業とか言ったのにスキルは普通に使うのな。
その後はホルステン、コルデラ、サイモン、トドロキ、アウグルティースなどなど、関わり合った魔将達と別れを済ませる。
「姉さん、ギーエンさんと幸せに」
「ペリカも、向こうで幸せになってね」
「嬢ちゃん。元気でな! メロニカは俺が責任持って幸せにしてやるからよ!」
俺が手塚の元へと向かうと、丁度ペリカとメロニカ、ギーエンが別れの挨拶を済ませているところだった。
下がるメロニカとギーエンと入れ替わるように、俺が手塚の元へ辿りつく。
「っし、これで全員だな。んじゃ、地球に帰るぞ。ムーブ」
ルトラもギュンターも、他の魔将達も俺達を笑顔で見送ってくれる。
最後に皆に手を振って、俺たちは異世界を後にした。
召喚から始まった俺の赤い魔王としての闘いは、ついに終わりを向かえたのだった。




