対決女神3
「あはは。見なよジャスティスセイバー。ついに勇者の魔力が切れたぞ。ルトラも魔力切れ、残ったメンバーじゃ人形の群れを倒しきれてない、あはは。もう終わりね! あ、見えないんだったわね」
女神の笑い声だけが響く。
目の前にいると思いたいのだが、声が聞こえる場所が全体に響くような状況なので相手の居場所が特定できない。
どうすればいい? 既に魔王軍も詰み掛けてるみたいだし、悠長にしている訳には……
『よぉ相棒』
!? ナビゲーター?
『随分苦労してんなぁ。女神様は目の前だぜ? 躊躇する事なんてまだあんのかよ?』
お前、戻って来たのか? 女神は目の前に居るんだぞ、いや、待てこいつがここにいるってことは女神の策略か? 既に目の前から撤退して俺がアホみたいに攻撃する姿を遠くで見ているのか?
『ああ、いや。女神は知らねぇよ。つかすでに俺に指示するような力も残っちゃいねーんだ。戻って来たのは最後のナビのためだっつの』
どういう……どっちだ? こいつは本当に自分の意思でナビしに来たのか、それとも女神の策略か? いや、そもそも、女神の力が、残ってない?
『それについちゃ俺からは何も言えねぇ。だがなセイバー、俺は裏切り者かもしれんが一つだけ確かなことは、あんたをナビするために存在するナビゲーターだっつーことだ。あんたのスキルだよ俺は。スキルが嘘教える訳ねーだろ。だから、俺らしくねーこと言うぞセイバー』
姿は見えずとも、武藤と同じ声で告げられる。
クソ、なんでまだ武藤なんだよ。お前の声なんて、声、なんて……
『迷うな正義の味方。自分を信じろ。お前を信じる皆を信じろ。正義を成せ、ただ剣を振る。それだけでいい。道は俺が……指し示してやる』
ああもう、クソッ!
身体の感覚が無いのにどうしろと?
それでも、信じる。自分を? ナビを? いや、自分が女神に打ち勝つと言ってくれた萌葱を若萌を、皆が信じた俺を信じる。
「ロード、セイバー!」
感覚はない。それでも、今までひたすらに振るった剣を振るうように、自分の姿を思い描く。
両手で持って剣を頭上に。
正義力を極限まで高める。
「行くぜ、ジャスティス。応えろ、セイバー!」
「っ!?」
『セイバー、右に逃げた! 45度、そこだっ!』
「絶技・ギルティーセイバーッ!!」
「なっ!? 感覚はないはずっ、なんでっ!?」
焦った女神の声が響く。演技かどうかが一瞬疑問に掠めるが、直ぐに討ち捨てる。
今思うべきは不安じゃない。ただただ倒すべき悪を断罪する正義を成す思いだけでいい。
「くっ!? 無駄な足掻きをっ。そんなもの打ち消せ……え?」
刹那、今まで無くなっていた感覚が一瞬で戻った。
疑問が浮かんだが直ぐに塗りつぶす。
考える必要はない。ただ正義を、自分の正義をっ!
「ありえない、なんでっ!? なんでよっ!?」
目の前では光に呑まれながらも何か叫んでいる女神が見えた。
おそらくパニック状態で俺の感覚を奪う余裕すらないのだろう。
『行けセイバー。躊躇うな。お前の正義はこの程度じゃないはずだ!』
無茶言うな、これが限界だって……
『無意識に認めたくないのは理解してる。でも、認めちまえよ。お前の中にあるドロドロとした狂った思いの根源を』
そう言って、ナビが指差すのはモニター。
視界に映ったのは魔王城。
既に魔力回復薬は尽きたルトラに代わり人形の群れ相手に地獄の細胞が空を駆け肉弾戦を行っている姿が目に入った。
何度も殺されながらもその度に蘇り、時折人魚の血を飲んで、死神はひたすらに人形達に毒を打ち込み踊り狂わせ殺している。
ラオルゥの爆殺と、別の世界から来たパルティの無尽蔵の魔力から繰り出される魔法。そして参戦しているシシルシと手塚が魔王軍達と共同で北の防衛を行い、四方の戦線を維持し、未だに均衡を保っているのが見えた。
南を、あいつが一人で引き受けてやがるのだ。広範囲の魔法もスキルもないくせに、一撃受ければ死ぬくせに、それでもそいつは皆の為に、身体を張って闘ってやがった。
やっぱりあいつは、最後の最後で活躍してしまうんだな。
そう思いながら、奮起する自分がいた。
あいつが宿敵だといえるなら、自分がここで女神に勝てないはずがない。あいつは向こうの世界の神を退治して生き残ったのだから、そして今も、あんな無謀な数のディアリッチオ相手に闘っているのだから。
ならば、俺が、俺がこいつ程度に負けていられる訳が無い。
お前にだけは……負けられないッ。
「迸れジャスティスッ、正義を成せセイバーッ!」
「な、何、まだ威力が……」
俺の正義、それを認めよう。
本当は最初から分かっていた。
それは自分にとっての正義でありながら、他人には絶対に理解されない正義だと自覚していたから信じたくなかった。でも、それを、認めてしまおう。醜い自分を認め、それが己の正義だと確信しよう。
それはあいつに勝つことだ。
あいつよりも活躍して、あいつよりも多くの人を助けて、あいつが心の底から屈服して俺が正義だと認める。それが俺の正義だ。
人助けしたいとか、悪を挫きたいとか、そんなのは二の次だ。
俺はあの時からずっと。ずっとお前に勝ちたかった。ただ実力で勝つだけじゃ無く、正義だと自他ともに認めさせて、正義なのだと言われたかった。
これは絶対に正義の心根じゃない。ずっと否定していた。
だけど、これを認める。
俺は多分、他の正義とは違う。絶対的な何かがずれてる。それを認める。
だから、これは正義じゃない。大衆の思う正義ではないんだ。
だけど、そうだけど、俺にとっては、お前に勝ちたい。その思いこそが、正義になってたんだ。
今回だって、魔族を救うとか、女神を倒すとか、そんなことはどうでもよかった。
俺の本音はいつだって、悔しいけれど……お前に俺が正義であると認めさせる。それだけが俺の正義なんだ。それを今、認めるっ。
だから、その為に……お前は邪魔だ、女神ッ!!
「ゴッド……バスタァァァ――――ッ」




