対決女神2
「やってくれたな……女神」
「あら、随分と余裕そうね。もっと焦ると思ったけれど」
俺、ジャスティスセイバーと女神は、巨大な半透明モニター越しに会話をしていた。
モニター以外何も無い黒い世界で、互いの姿だけを認識しながらモニターを見る。
モニターには今たった一つの景色だけが映っている。
すなわち魔王城の周囲で抵抗を続ける魔王軍とネンフィアス軍の連合軍。
対するはディアリッチオと同じ容姿をした人形の群れ。
その数はもはや数えるのも億劫になる。
数千数万程度ではない、もっと多い、下手すれば無限に湧き出ているんじゃないかと思えるほどだ。
女神はニヤニヤとしている。
おそらく自慢のディアリッチオ人形が駆逐される未来など微塵も考えてないんだろう。
それ程に圧倒的物量があるはずだ。
「設定値を下げて私の力を少し分けるだけで無限に出せるの。時間が過ぎれば過ぎる程、消耗するのは魔王軍。ねぇセイバー。この闘いは既に結果が分かり切った闘いなのよ? ただいつ飲み込まれるか、その時間が伸びているだけのこと。その時間も有限。刻一刻と近づいているわ。さぁ、決断の時は近いわよ。屈して土下座でもしてくれるのかしら? 正義が折れる瞬間、絶望に染まる瞬間を見るのが今から楽しみだわ」
「お前……既に詰んでるのはお前の方だろ。他の神々とやらも来てるらしいじゃねーか!」
「そうね。きっと私はここから出た瞬間に終わる。でもセイバー。その道連れに自分の世界を完全に破壊することだってできるのよ? 今いるこの世界の住人も、異世界から来た助っ人も全て纏めて世界ごと破壊できるの。それが神と呼ばれる上位存在。この世界なんて私の玩具箱でしかないのよ」
絶対的優位を誇る女神がニタリと笑みを浮かべる。彼女は既に敗北を受け入れている。
あとはどれ程の被害を確定させ、敗北する前に愉悦を得られるか。それのみに固執しているのだ。
だから、こいつが求めているのは、俺の屈服、そして、おそらくそのうえで世界をリセットするつもりだ。
俺が泣いて許しを請う姿を見ながら、許すわけねーだろ。とかいいながら世界を破壊する。そして俺達が絶望するのを笑いながら個室から出て神々に投降するのだろう。
それはつまり、彼女にとっての最善手にして俺達への勝利だ。
神々にとっては女神の暴走を止めれれば勝利だが、俺たちは自分たちが死ぬ訳にはいかない。
屈服しなければ世界が人形に滅ぼされ、屈服すれば絶望と共に世界が滅ぶ。
どっちを選んでも俺達を敗北させる。それがこの女神が求めた最善手。
その結果を自分の目で見届ける。その為だけに個室に籠って俺だけが此処に来れる状態にしやがったのだ。
つまりは、俺の絶望を間近で観察して勝利者気分を味わう為だけに。
ならば、俺は絶対に折れてはならない。正義を信じ、奴を倒す。それだけを考える。
他の事は皆に任せればいい。
簡単なことだ。言われただろう、ラナリアの首領に、俺はただ正義を成す剣で有ればいいのだと。
ならば他の感情は不要。
研ぎ澄ませ。
正義か悪か。そういう禅問答は要らない。
皆の安否を気遣うような心配もする必要はない。
信頼も今はいい。他の何も考えるな。
ただ、悪を斬る。そのことだけを、今!
「そう、つまりは下る気はない。そういうことね?」
「そう言うことだ。さぁ、闘いを始めよう矢鵺歌。俺はお前を断罪する」
「神に対し不遜だわ赤き魔王さん。人の身で神を殺せると勘違いした不遜な男は滅ぼして上げるわ。絶望に沈みなさいジャスティスセイバーっ」
刹那、俺の視界が消えた。
意味が分からず周囲を探る。
「ふふ。あなた何を相手にしてるか本当にわかっていないのね。上位存在と下位存在の隔絶した差というモノを。残念な思考回路のあなたに教えてあげる。私が力を込めて死ね。と告げればあなたの人生はそこで終わる。これは防御不能の絶対的な能力よ。あまり差のない上位と下位であれば防ぐこともできるかもしれない。でもあなた程度の下位存在が私のような上位存在に抗おうなど無謀でしかないのよ」
暗い。視界が消されたのか、自身が殺されたのか。
それすらも分からない。
心の目で見れば相手がどこにいるかわかる。なんてこともない。
完全に女神の姿を見失った。
動かれていたら終わりだ。目の前にいることを願って攻撃するしかないか?
そもそも何をされたかすら分からないし、自分の体の感覚も消えてしまったのだ。これでは剣すら振れないじゃないか。
これが……神? こんな意味不明な攻撃をして来る存在に打ち勝てってのか!?
武藤、お前生きてるってことはあっちの神を倒したんだろ。どうやってこんな存在に勝てたんだ?
俺じゃやっぱり……
いや、弱気になるな。元来俺は考え足らずで正義の味方っぽくないんだ。
あれこれ考える前に、やるべき事だけを考えろ。




