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西の壊滅

「……ん?」


 魔将トドロキが覚醒したのは、運が良かったのか悪かったのか。

 目覚めたのはベッドの上であり、彼がいつも使っている自室にいることに気付いた。

 はて、自分は何をしていたか?


 働かない頭で考える。

 確か港の方で何かを指揮していたはずだ。そして敵に……

 そう、敵だ!


 慌てて立ち上がるトドロキ。

 部屋から飛び出すとドスドスと巨体を揺らして外へと向かう。

 既にネンフィアス帝国軍がそこかしこにいて何やら忙しなく動いている。


「こ、これは……」


 思わず占拠されたかと思ったが、何やら様子がおかしい。

 魔王軍までが一緒になって瓦礫をどかしたり、けが人を運んだりしている姿が目に映る。


「これは……どうなって?」


「トドロキ将軍、お目覚めですか!」


「う、うむ? おお、お前か、何がどうなっている!?」


 魔王軍の一人が近づいて来たので早速理由を聞いてみる。


「はい。ネンフィアス軍の方々が魔王軍の救出作業をなさってくださっているんです。先程の攻撃は勇者の独断だったそうで、あと数名の兵士が救出されれば全員生還の可能性もありますよ!」


「なんと!? ネンフィアス軍は人族を裏切るとでもいうのか?」


「彼らにとっては女神こそが憎き敵だそうで、トドロキ将軍はいかがなさいます? 手伝ってくださってもいいですし。なんでしたら向こうの代表者とお会いしますか?」


「いや、いい。それより……」


 トドロキが動き出そうとした瞬間だった。

 西の海の彼方から、それらは群れを成して現れた。


「最後の兵士を見付けたぞーッ」


 歓声が上がる。しかし、トドロキだけは歓声を上げることなど出来なかった。


「か、鐘を鳴らせッ! 敵襲っ! 敵襲だ!!」


「え、あ、はい。え? な、何ですかアレはっ!?」


 駆けだそうとした兵士も思わず驚く。

 見付けてしまった空を埋め尽すディアリッチオ人形に、兵士は腰を抜かしそうな勢いで驚いていた。


「ええい速く行け! 撤退だ! 魔王城辺りまで下がって陛下にお知らせせねば!」


「は、はいっ、直ちに!」


 兵士が走りだしたのを振り向きもせず、トドロキはネンフィアス帝国軍本営と思しき場所へと走る。

 港を見渡せる場所に陣を敷いていた彼らを見付け、怒鳴り込む。


「何をしておるか貴様等ッ!」


 賑やかに談笑しながら救出を喜んでいた兵士たちが一斉に鎮まる。


「おお、そなたはトドロキ将軍か。どうした? そなたの兵は勇者の一撃で死亡したもの以外全員救出できたが……」


「そのことではないっ! 急ぎ撤退準備をしろ! 女神の軍勢が来るぞ! 死にたいのかっ!!」


「女神の軍勢っ!?」


 ラスレンティスが驚き慌てて幕舎を飛び出す。

 遥か彼方からやって来るそれらを見て即座に戻ってきた。


「ネンフィアス帝国全軍に告ぐ、撤退準備! 撤退戦ではない。総退避準備だ! 急げ!!」


 まさに蜂の巣を突いたような慌てようだった。

 動き出した兵士達が一人、また一人と幕舎を出て行くのを尻目に、ラスレンティスはトドロキの元へとやって来る。


「知らせてくれなければおそらく全滅していた。礼を言う」


「ふん。こちらこそ我が軍兵を救ってくれた礼をしたまでよ」


「今は、同盟と行きたいのだが?」


「魔王城、あるいはその先の街に撤退となる。着いて来ると良い」


 二人は握手を交わし、足早に幕舎を飛び出す。


「ネンフィアス軍は準備を終え次第街門前に集合!」


「魔王軍西門防衛部隊は負傷者を抱えて全員逃走準備。街門前に集合せよ! せっかく助かったのだ全員生還するぞ!!」


 大声張り上げるラスレンティスとトドロキ。

 彼らが準備を終えて街を脱出したのは、既に港にディアリッチオ人形が迫っていた時だった。

 駆け抜ける彼らの背で、ディアリッチオ人形による総攻撃が開始され、西の港町が跡形もなく消えて行く。


 破壊されて行く故郷を振り向きながら、トドロキは悔しげに唇を噛んだ。

 それでも、生存者は全員を逃せたのだ。

 ネンフィアスに感謝すべきだろう。あまりにも大きな借りを作ってしまった気分である。


「逃げるのはいいがトドロキ殿、アレをどうにかする術はあるのか? 魔王城まで破壊されてはどうにもならんぞ?」


「分かっている。しかし我々では飛行するあの軍団に手も足もでん。魔王陛下に判断を仰ぐしかあるまい。犬死にするよりは幾分マシだ!」


「敵を連れてきた罪なら私も一緒に謝ってやるさ」


「陛下に逆らった時の罰は生きながら内臓を取りだされてから復活の繰り返しらしいぞ」


「え゛!?」


 ジャスティスセイバーの狂気を知らされ、思わず声を濁すラスレンティス。一緒に謝るのは止めておこうか。思わず思ってしまったそんな考えを被りを振るって吹き散らした。

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