赤き正義VS女神の正義
「赤き魔王ぉぉぉぉぉッ!!」
両手で剣を握った信也が走る。
もはや彼と俺の合間には誰もおらず、戦闘も既に行われていない。
何しろ頂上決戦が今、行われているのだ。
勇者が勝つか、魔王が勝つか。
追い込まれた人族も、勝利目前の魔族軍も、この勝敗によっては全体の勝敗が逆転しかねないのだ。
皆が固唾を飲んで見守り始めていた。
人族と魔族に別れ、魔王と勇者の左右から二人に声援を送りだす。
ユクリ、サイモン、ペリカ、メロニカ、ブルータース、それとギーエン。魔族軍はディアリッチオの御蔭で魔将が誰一人欠けることはなかったらしい。
そのディアリッチオはすでに遠くで俺陣営の勇者様と闘っているのだ。どちらが勝つにしてもしばらくはちょっかいを掛けられることはない。
だから俺は、こいつを倒す事だけを考えればいいんだ。
既にセイバーは覚醒している。
信じる正義が正義であると、今回俺が信じているのだ。
間違いのない一本の柱がそこにあると、女神を断罪すべし悪であり、俺は正義なのであると、確信できているのだ。
迷いはない。
負ける気もない。
ならば、正義力で強くなるスーツも、硬度を増すセイバーも、限界まで強化されている。
「消え去れ赤い魔王ッ」
気合い一閃信也の剣閃が走る。
「行くぜ、ジャスティス。打ち砕け、セイバー!」
セイバーが眩しいくらいに赤く輝く。
溢れそうな正義力。正義を成せと轟き叫ぶ。
信也の剣閃を身を屈め懐に潜り込むことで回避する。
「秘奥義・ギルティースマッシャ――――ッ!!」
溜めこんだ正義力をセイバーに押し留め、インパクトの瞬間一気に解放する打撃型の必殺。
溢れるほどの力が、信也の脇腹に触れた瞬間吹き飛ばす。
「ぐ、があああああああああああああああああああああっ!?」
くの字に折れ曲がった信也が唾を飛ばしながら叫ぶ。
吹き飛ばされた彼はもんどり打って地面を転がった。
「がはっ。テメェ……ッ」
血反吐を吐き散らし、上半身を起こして四つん這い。
膝に腕を置いて立ち上がると、直ぐに再生が始まった。
「再生能力か。しかも随分と強力らしいな」
「はっ。だったらどうした? 女神の力がテメーなんぞに負けると思うなよ魔王ッ」
立ち上がった信也が正眼に剣を構える。
何か来るな。風が渦巻き始めた。
「行くぜ、ジャスティス。貫け、セイバー!」
「クタバレ魔王ッ、トルネードバスターッ」
「必殺! ギルティーペネトレイト――――ッ!」
信也の剣から竜巻が迸る。
俺を巻き込み、吹き飛ばすつもりだったのだろう。
だが、俺は正義力を推進力へと変え、自分共々剣を突撃させる。
眼を見開き驚く信也の喉へと、セイバーが突き刺さった。
否、その容量の大きさにより、セイバーが信也の喉を突き刺し、それでは足らじと首を吹き飛ばす。
「行くぜ、ジャスティス。斬り裂け、セイバー!」
信也の背後で突撃を止め、振り返りざまに剣を振りあげる。
傾ぐ信也の身体に、ダメ押しの一撃。
「ギルティーッ、ザンバ――――ッ!!」
溢れる正義の奔流が信也の身体を二つに切り裂き消し飛ばす。
まさに勝利と言える一撃だった。
本来であれば、首を刎ね、身体を消し飛ばした瞬間、俺の勝利が確定する筈だった。
だが、信也は首だけになっても再生しやがった。
見る間に全身が復活し、全裸に、さらに服まで完全再生という徹底ぶりだ。やってくれるぜ女神……
流石に今のは力を使い過ぎたのだろう。荒い息を吐いて剣を地面に突き刺し休みだす。
俺を睨みつける信也は、直ぐに剣を引き抜き構え直した。
「見たか赤い魔王? 俺を殺すにはテメーは役不足だ」
「そうかよ? ずいぶん消耗してるみたいだが、今の再生、後何回出来そうだ?」
「黙れッ! テメーをぶっ殺して女神と結婚するんだッ」
「あんな性格ブスの女神に惚れこんでこの世界来ちまったのか。可哀想な奴め」
怒り心頭の信也が全力の一撃を溜めだす。
これは俺も対応すべきか。
「消え去れ、魔王ォォォォッ」
「行くぜ、ジャスティス。応えろ、セイバー!」
正眼に構えていたセイバーを頭上に掲げる。
立ち昇る赤き光が天を切り裂く。
トドメと行こうか勇者。これで決め……
「そこで、どーんっ」
必殺の一撃を打ち放とうとした信也に、そいつが突然体当たりして割り込んできた。
思わず正義力が霧散する。
吹き飛ばされた信也から「おぶろばっ」と声が漏れていた。
「やーやー、面白いことしてんなー赤いおぢちゃん」
「シシー?」
現れたのはシシルシ。本来ならばルトバニアで大人しくしている筈の魔神少女であった。
三つ目に深淵を宿し、少女はニタリと笑みを浮かべた。
「魔神シシルシ……何しに来やがった?」
「信也ちゃんにねー、永遠ちゃん殺したこと伝えに来てやったんだよッ。優しーだろォオレ様はよぉ?」
「お前が、お前が弟を殺したのかアァァァァッ!!」
クケケと笑う邪悪な魔神に、信也がブチ切れた。




