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勇者VS魔神2

「なんとっ!?」


 幾度目の近接戦闘になるだろう?

 爪を硬質化したディアリッチオの一撃を弾く至宝にディアリッチオは思わず呻く。

 今のは完全に隙をついた一撃だった。

 攻撃を避けるために飛んだ至宝に合わせて突き出した回避不能の一撃だった。


 なのに至宝は上半身に力を入れて身体を捻り、剣で弾き返したのである。

 想定外の動きに思わずディアリッチオの称賛が漏れる。

 宙返りを披露した至宝が地面に着地する。


「あっぶな。ミルユと戦闘訓練しといてよかった……」


 ぎりぎり一撃を避けた至宝も今のは肝を冷やした。

 まさかあの瞬間を狙われるとは思わなかった。完全に死角外からの一撃だったし、反撃すらも出来ない無防備な状態だった。

 前に知り合いと行った戦闘訓練に似たような攻撃をされてなければ今ので死んでいたかもしれない。


「その調子だ。素晴らしい。私を越える存在が今、ここに居ること。それこそが最も素晴らしいっ」


 爪撃と魔法を織り交ぜながら攻撃を再開するディアリッチオ。

 剣で弾き魔法で応戦し、蹴りで距離を取る。至宝もディアリッチオの攻撃に引けを取らず、防戦しながら相手の隙を探しては攻撃を仕掛けていた。


 ユーリリスで魔法を弾き、ライトニングで反撃。魔法障壁が魔法を弾き、爪の反撃をレーヴァテインで受け止める。

 空いたユーリリスの一撃を叩き込むが、ディアリッチオはこれを避けるとともにクロスカウンターの火炎弾。


 右腕を引いてレーヴァテインの腹で弾いた至宝は、蹴りを行いディアリッチオの物理結界を足場に飛び退く。

 伸身宙返りを披露しながら魔剣二つにライトニングを滞留させる。

 ディアリッチオもそれに気付いて魔法障壁を厚くする。


「フレアライトクロスッ!」


「ぬぐぅっ!?」


 両手を前にして防御姿勢のディアリッチオに襲いかかる空中からの必殺の一撃。

 先程耐えきったのは極大の魔法を突き抜けることで威力が押さえられていたからだ。

 直撃を受ければどれ程のダメージになるか想像もつかない。

 だが、ディアリッチオは逃げなかった。逃げる気もなかった。


 これで死ねるか? 思いながらも身体は必死に防御を行う。

 障壁が一瞬で消し飛んだ。

 未だかつて味わったことのない激痛がディアリッチオに襲いかかる。

 だが、死ぬほどではなかった。


「ぐぅ……これはキツい」


「直撃したんだがな……耐えやがったよ」


 呆れた声を出しながら着地した至宝だったが、その顔には焦りがあった。

 自慢の一撃が相手を倒せないのだから彼女の心情も理解はできる。ディアリッチオはそう苦笑しながらも溜息を吐く。


「残念だったな。だが、このままでは私を倒すことはムリだと告げておくぞ?」


「だろうな。ったく、別世界じゃ神巨人さえ二撃で倒せる一撃だっつーの」


 即時再生を始めるディアリッチオの身体を見て、一撃で倒せなければ千日手であると確信する至宝。確かにこのままでは彼を倒すことはできないだろう。

 それは至宝も認めるところである。


「しゃーねぇ。ぶっつけ本番だがやるっきゃねーか」


「ほう? まだ何かあるか。本当に、すばらしいな勇者。お前ほどの実力者が異世界に居ると知れただけでも充分過ぎる人生だ」


「そりゃどうも。次は全力も全力。どうなるかあたしも想像付かなくってな、構想はしてたが一度も実戦にゃ使ってねー技なんだ」


「ほぅ、何故か聞いても?」


「異世界での闘いが終わった後でライトニングの上位魔法覚えたんだがよ。使う機会ねーし、下手に使えばどうなるか想像つかねーし、ジャスティスセイバー探しでヤベー島には行ってなかったからな」


 思わず、期待してしまう。

 自分を倒せる可能性。女神の人形から解き放たれる可能性。

 終わりなき生を終わらせ、自分を自由にしてくれる存在が目の前に居るかもしれないという渇望にも似た期待。


「やって見せよ勇者。魔神ディアリッチオを破り伝説となれるのならば!」


「とか言って避けんなよ?」


「真正面から受け取ってやろう。ただし、こちらの魔法が邪魔するがな」


 こればかりはどうしようもない。

 とディアリッチオは再び魔法を唱える。

 それはジェノサイドイグニス。しかも先程の比ではない。


「さぁ、いつでも来い」


「くっそ、なんか上から目線なのがイラッと来るな」


 もともと二人の想いは一つ。ディアリッチオを倒すことだ。

 ならばディアリッチオとしても避ける気はない。

 女神からの勅令は魔王に味方する者を倒すことだが、彼らの攻撃を避けろとは言われていない。その辺りの戦闘センスはディアリッチオ次第でどうにでもなるのだ。


「ンじゃ。あんたを止めるぜディアリッチオ」


「ふふ。自分を殺す為に勇者を頼るか……何をやってるのだろうな私は」


 自嘲するディアリッチオ、その頭上には赤々と灯る巨大な火炎球がその姿をさらに大きく膨らませていた。

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