表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

303/337

絶望を打ち消す希望

「ハイストラッシュ!」


 信也の一撃を空中に逃げて魔術で応戦。

 風の魔法で信也を押しつぶそうとするが、信也は気力で魔法を弾き返す。

 一撃受ければさすがにユクリといっても大ダメージ、下手すれば即死もありうる。


 ゆえに大きく避けるしかできず、決定的瞬間にクロスカウンターで魔法を叩き込む訳にも行かない。

 さらに気になるのはディアリッチオだ。今は脂汗を流しながら必死に抗っているが女神の勅令からは逃れられそうにない。


 勇者を自分が相手取る間は他のメンバーで人族を倒せはするのだが、ディアリッチオが相手となると敵う存在が居なくなってしまう。

 幸いなのは女神が居なくなったことだろう。

 どうやら女神としての権能を存分に振るのだとかで、一瞬で消え去ってしまった。


「ははっ。形勢逆転だな。魔王軍は滅びるぞ?」


「ぬかせ! 女神の人形め。貴様などに負けるものかよ」


 爪撃を叩き込むが剣で弾かれる。

 必殺の一撃が反撃として叩き込まれるが、ぎりぎり躱す。

 躱しきれなかった髪が数本ぱらりと風に流れる。


「メロニカさん、ペリカさんはそのまま、ブルータース左の敵を相手取りなさい。弓矢隊、空いたあそこのスペースに矢を! 右翼槍隊あのスペースに敵を押しこみなさい!」


 サイモンの声が響く。

 魔将達は勇者とディアリッチオを放置して出来るだけ敵を減らす作戦に出たようだ。

 ディアリッチオが動き出すまでの短い間だが、その短い間でどれだけできるかが勝負の鍵だとでも言うかのように彼らは必死に動く。


 だが、魔法陣が消える。

 ディアリッチオが魔族の為に作っていた常時回復も復活も、状態異常の回復ももう受けられない。

 そして、ゆらり、動き出すディアリッチオ。

 その人形のような動きに、思わず全軍が止まって彼を見つめた。

 はたして、どっちだ?


 魔王側か、女神側か。

 誰かが喉をゴクリと鳴らす。

 ディアリッチオの掌に魔法が灯る。

 小さいながら、当れば消し飛ぶ絶死の一撃。

 それを……


「ぎゃああああああああっ!?」


 魔族に向けて打ち放つ。


「ははははははははっ。なんだよあの人形、結局女神に抗えてねぇじゃねぇか!!」


 信也の下卑た笑みが癪に障る。しかし、現状、ディアリッチオを止める術は無く、信也を放置してディアリッチオの行為を足止めすることすらも出来ない。

 打つ手がないな。ユクリは絶望的な状況をどうする事も出来ない思いを思考の隅に押しやり、なんとか少しでも多く魔王軍を救う術を考える。


「吹き飛べやっ」


 だが、タイミングが悪かった。

 考えを巡らそうとした矢先、信也の一撃がユクリを吹き飛ばす。

 風圧だけの一撃だったが、不意を突かれた彼女は空へと吹き飛び、放物線を描いて地面に落下する。


 マズい。

 思ったところですでに遅い。

 彼女が落下のダメージで呻く隙に信也は必殺の一撃を叩き込んで来るだろう。

 信也の足止めすらままならなくなる。

 思わず舌打ちしそうになった。その身体を、誰かが抱きとめる。


「……え?」


 見れば、赤いスーツの男が、ユクリを抱き止めていた。

 あまりにもタイミングのいい出現。自分を倒し、自分が認め、自分の伴侶だと宣言した男がそこに居た。


「セイ……バー?」


「待たせたユクリ。もう、大丈夫だ」


 呆然とするユクリを起たせ、そいつはゆっくりと勇者に立ち向かう。

 その横で、一人の女が肩を並べる。

 地面に下ろされたユクリはただただ呆然とその二人を見ていた。


「ディアリッチオは女神にやられたらしいな」


「グーレイだったか、あいつの話じゃディアリッチオの命令を解く方法は現状無いらしいぜ。あの実力だし手加減も出来る気はしない。覚悟してくれ河上」


「……わかった。ディアリッチオは任せるぞ手塚」


「任せな。魔神退治は勇者の仕事だ」


 赤い髪が風に流れる。

 ユクリを、そして魔族を守るため、勇者手塚至宝がディアリッチオへと対峙した。

 魔族を壊滅させようと放った魔法を、自慢の剣で叩っ切る。


「さぁ、始めようぜ最強の魔神さんよ」


 異世界の勇者手塚至宝がディアリッチオと対峙する横で、ユクリを背にして赤きスーツの男もまた、勇者信也に対峙していた。

 手塚が勇者対魔神であるならば、こちらは魔王対勇者である。

 本来ならば彼の方が敗北必死なはずなのだが、魔王ジャスティスセイバーは今、全く負ける気がしない。


「ロードセイバー」


 ブォンと振り切るセイバーを正眼に構える。

 対戦相手がどんどんと変わる事にイラつきながら、信也もまた剣を構えた。


「出やがったな魔王。だが、気付いているのか? 既にテメェは一度俺に敗北してんだよ!」


「ああ。そうだな。お前の力は強い。認めるよ。そのチートを喰らえば俺は死ぬだろう。だがな勇者、お前にその役職に見合った勇気は存在するか? 自分より強い存在に、死ぬと分かっていても達向かう、勇気はあるか?」


「はぁ? 勇気? テメェーだってンなもん持ってねーだろ魔王っ」


「俺? 俺にはあるさ。俺の正義を信じる心が。仲間を信じる心が。断罪すべき悪を挫く為の正義の煌めきが!」


 そう告げて、ジャスティスセイバーはセイバーを天高く突き上げる。


「輝けセイバー。俺の正義を見るがいいっ。我が名はジャスティスセイバー! この輝きこそ、我が正義の証であるっ」


 赤き決意の光が、天へと立ち昇った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ