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300話突破特別編・女神の悪足掻き

突破記念どうするか考えたんですが、結局周辺の話に違和感のない女神の話にしときました。

 北の勇者である信也の様子を見に行った女神は、憤慨しながらアバターを抜け、上位世界へと移行した。

 女神としての権能を顕わした瞬間、知識として入って来る各地の現状。

 そのおかしな状況に思わず顔を顰めた。


 東。カードの勇者が受け持つ筈の軍団は魔王軍と闘うことなく人族国側から動いておらず、勇者永遠、そして大悟は既に死亡。ソルティアラも、そしてルトバニア王も暗殺されたらしい。

 東軍は知らない間に壊滅していた。


 南。こちらもすでに決着がついていた。

 逃げ出していた猊下が討たれ、永遠が死んだせいでルトラが裏切り、そして青い失敗面が死亡している。

 それだけではない。各地に向かい、認識外の生物が跳梁跋扈している。


 見覚えのない管理外の存在が四人。

 一人は南から北に向け、若萌と共に疾走中。

 一人は西に向け、物凄い速度で加速中。


 西はネンフィアス軍がなぜか魔王軍を救っており、今、魔将のトドロキが救出されて救護を受けている所だった。

 意味が分からない。人族と魔族が敵対するようにしておいたはずだ。

 なぜ人族が魔族を助けている?


 フラージャ洞窟は崩落して、生存者不明状態。いや、女神としての権能で全員の生存は確認できているが、正直、何がどうなってこんなことになっているのか理解できない。

 和美がチキサニを追って向かった事くらいは分かるが、そこに出現している謎の女は何者だ?


「どうなってるの? 北はあの人形が暴走してたし、折角アレしたというのに、何あの女? 勇者シホウ? 誰よ?」


 思わず唸る。

 一体、自分の箱庭にいつの間に紛れこんだのだろう?

 いつの間にか自分が選んだ勇者達が追い詰められている。


 ジャスティスセイバーに付けておいたナビゲーターが現状報告に来た。

 黒の聖女とかいう存在が何者かを知ることが出来たが、もはやどうでもいい。

 この状況を事細かに説明していたが、今頃知らされても手の打ちようがない。

 なんという不幸。もう少し早く女神状態に戻れば何かしらの手立てがあったのに。


「……不幸?」


 まさか? 信じたくないと思ったが、しかし、納得できてしまう。

 あのクソ神アンゴルモアが言っていた。特大の不幸がお前に振りかかると。

 それが、コレなのではないか?

 思わずそんな思いが湧き起こる。


「ふざけるなッ、あの自称神を名乗る男は、死んでからも私の邪魔をしているのっ!?」


 地団駄踏んで悔しがる。

 だが、まだフォローはできる。充分魔族を追い詰められる状況だ。

 女神としての権能を使えば……


「アンゴルモアっちなら、生きてるよー」


 ゾクリ。本来、聞こえるはずのない場所で、自分以外の声が聞こえた。

 まさか。まさかまさかまさかっ。

 索敵を行う。この世界で敵対するような存在が居るなどと思わず高をくくっていたが、女神サンニ・ヤカーは最悪の結末を思い描きながら索敵を行った。


「お、ようやく気付かれちったぜぃ」


 人間の姿をした女がいた。メガネに三つ編みおさげのやぼったい格好の女。なぜかドテラを着ている。

 その横には銀色の肌に大きなアーモンド形の瞳。メガネを掛けた男と思しき生物が一人。

 他にも姿は見せていないが、五体程何かが存在しているのが分かる。


「な、なんだお前達は!?」


「あちし? あちしはアンゴルモアっちとジャスティスセイバーっちの元クラスメイト、女神マロン。で、こっちが別世界を管理してるグーレイ神。検察官もやってるよ」


 女、マロンの言葉で察する。

 自分の行いを他の神々が気付いたのだ。

 そして、彼らの眷族を送りこんだ。現状は彼らの遣わした異世界人のせいでかき回されている状態だった。


「もはや逃げ場はありません。といっても今貴女を捕まえたところでこの世界をどうにかする事も出来ませんしね。まずは決着を見届けさせていただきましょう。もちろん、これ以上手を加えようとするならば、最高裁判所の一員としてあなたの権能全てを剥奪せねばなりませんが」


 女神は思わず唇を噛む。最悪だ。

 もっと早くにこの世界に戻っていれば、彼らが来る気配くらいは気付けたかもしれないし、ここまで押されることもなかっただろう。

 まさに不幸不幸不幸。脳内であのムカツク神が小踊りしている。


「っ? 待て、待って。アンゴルモアが、生きている?」


「ん? 今更反応かい。まぁいいか。あんたが離れた後にウチの勇者様が見付けてにゃー。セイバー探しで各異世界に行ってた彼女が運良く回収できたんだよねー。その御蔭でセイバーがこの世界に居ることもわかったからこうして来たんだにゃー」


「またか……また、あのアンゴルモアが私の邪魔をっ」


 ぐっと握り込んだ拳から血が滴る。

 だが、次の瞬間、女神は壊れた笑みを浮かべた。

 確かに自分はもう、絶望的かもしれない。だが、この神々は自分を断罪することしか考えていないのだろう。

 ならば。ならば……

 女神サンニ・ヤカーは誰にも悟られることなく、心の中で盛大に笑いだした。

 絶望するのは私じゃない。お前達であるのだと。

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