魔王軍南方防衛線7
「ぐあぁっ!?」
ジャスティスアイゼンの一撃を受け、名偉斗は思わず声を漏らす。
そこまでのダメージではない。既に再生も始まっている。
ダメージ自体は直ぐに回復できるくらいだ。
問題は再生が追い付くより先に次のダメージが襲いかかって来ることと、名偉斗自身が痛みになれていないせいでいちいち痛みに呻いてしまうことだろう。
「ずっしりとした霞」
「クソがッ」
「暴力的な闇」
「グガァ!? 痛でぇぇぇぇっ」
腕に喰らった切り傷に思わず槍を手落としてしまう。
名偉斗の武器が無くなったせいでさらに有利になった若萌の一撃が名偉斗を穿つ。
さきほどまでとくらべると、防戦一方、否、防戦すらままならず名偉斗だけがダメージを喰らっていた。
大ピンチだ。
しかもピンチの時に予備人員として連れてきたルトラは永遠が死んだせいで自由に動き出し、完全に敵に回っている。
自分の危機を救わせる為だったのに、自分の危機を助長するために動いているルトラに思わず殺意を覚えるのだが、テイム状態でなければ敵対するのは当然だった。
「ええい、エルダーマイアの勇者! テメェーらさっさとそっち終わらしてこっちの雑魚共引き受けろやァッ!」
「ふざけんな! 誰がお前なんかの、チクショウ、身体が反応しやがるっ」
「十三、真名命令なんかに負け……っ!?」
突然、エルダーマイア勇者の二人がつんのめる。
自動操縦から手動に切り替わったような動きに、慌てて二人は戦場を転がった。
「ちょ、ちょっとタンマ!」
琢磨は即座に自分に起こった事を悟り、武器を手放し両手を上げる。
闘っていたメイクラブの攻撃が彼の脳天に突き刺さる直前に止まる。
「うおおっ! 身体が動く。どうしたこれ!? 自由に動くぞ!」
「なに余所見してんだお前は?」
突然余所見して叫び出した十三の首筋に斧を寸止めし、ホルステンは呆れた声を出す。
数秒の差で気付いたのだ。さっきまでと動きが変わったことに。
もしもホルステンが気付かなければ、十三の首は宙を舞っていただろう。
「どうやら、猊下が死んだっぽいな。真名が戻ってきた」
「っし。投降だ投降! これ以上エルダーマイアの為に働けるか!」
勇者二人が即座に魔王軍に投降する。
魔将達に連れられ戦線を離脱していく勇者達に、名偉斗はただただ呆然と見送るしかできなかった。
「どうしたどうしたぁ? 余所見してる暇なんか無いだろ女神の勇者!」
「っ!?」
ルトラの爪撃が襲いかかる。咄嗟に避けてから気付く。こいつの攻撃は受けても問題無かったと。
だが、避けた先に来た若萌の一撃は致命的だった。
喉が切り裂かれる。焼けつく痛みに思わず転がる。
「ふぎぃぃぃぃぃっ!?」
「ルトラと協力したらもう楽勝すぎて弱い者いじめになってるわね」
「ふ、ふざけるな! クソ女がぁぁぁっ」
アイテムボックスから槍を取り出し投げる。
咄嗟に避けた若萌に、次の槍が突撃。
「リフレクトシールド!」
ルトラが魔法を紡ぐ。
槍の一つが跳ね返るが、魔法が切れた場所に次の槍。
無数の槍を連続で飛ばして来る名偉斗。
もはや反射されることを気にせずひたすらに攻撃して来る。
「くっ」
なりふり構わず槍を投げだした名偉斗に、思わず距離を取る若萌。
ルトラも巻き添えを喰らうのを恐れて少し距離を取った。
それが、失策だった。
「ははっ。そうだそうだっ。槍ってのは投げれンだよな! そらそらそらッ!!」
剣で弾いて受け流す若萌と魔法で弾くルトラ。
反射の盾で数本戻ってくるものの、距離が出来たせいで名偉斗はなんなく避ける。あるいは槍を使って弾き、数十数百と槍を投げて来る。
「マジか!? おまえどれだけ槍持ってんだよ!?」
「はっ。各街の槍をありったけ集めてんだよ! そら、次は鉄の槍シリーズだ!」
赤い槍は尽きたらしい。普通に鉄の槍を投げ始めた名偉斗に思わず舌打ちする。
撃ち尽くすまで打てる手立てがない。
若萌もルトラもやぶれかぶれの名偉斗に思わず戦慄を覚えた。
ずっと、千日手が続くのかと辟易した瞬間だった。
「青ざめし秘密の花園」
それは、若萌にとっても寝耳に水の攻撃だった。
若萌とルトラの真下を何かが走る。
背後から来た攻撃に、二人が反応するより先に、対象へとたどり着いたそのスキルが発芽する。
「ぎ、ぎゃあああああああああああああああああああああああっ!!?」
真下から現れた茨に絡め取られた名偉斗が汚い悲鳴を轟かす。
肉に食い込む茨の棘。流れ出た血を吸って、茨が咲かせる青い花。
自己再生を行うが為に悲鳴が止まることなく名偉斗が絶死の痛みに叫び続ける。
「こ、これは……」
「なんつー非道な一撃だよ」
「非道とか言わないでくれる? 一応これ、救世主としての力なのよね」
戦慄する二人の背後から、その女はやってきた。
矢沢萌葱。ジャスティスセイバーによりジャスティスレンジャーの一員となった異世界の救世主。
「かあ……さん?」
思わぬ邂逅に、若萌は呆然と彼女を見つめていた。




