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魔王軍南方防衛線6

 レレアはゲドを抱きしめ、名偉斗を睨む。

 名偉斗は二人を貫かんと赤き槍を思い切り突き出した。

 本来であれば、二人は共に貫かれ、息絶えていたことだろう。


「リフレクトシールド!」


 ガインッ

 懇親の一撃で突きだした赤い槍が、中空で変な音を立てた。

 なんだ? 思った瞬間、名偉斗の腹に突き入れられる謎の痛み。


「ぎゃあぁぁっ!? 痛ってぇ!?」


 何が起こったのか理解できない。

 真下を見れば、自分の突き出した槍が中空で不自然に折りまげられ、自身を穿っていた。


「な、なん?」


「ククク、ハーッハッハッハ!! 動く、自由に動くぞ! 待っていたぜシシーッ」


 突然、笑い声が起こった。なんだ? と見れば、今まで沈黙を貫いていた魔神ルトラが笑っていた。

 今まで存在を忘れていたが、あいつも居たのである。名偉斗はどうでもいいと放置しかけたが、よくよく考えれば、先程、リフレクトシールドと言った声が、こいつのものだったことに気付く。


「ルトラッ! テメェ、今何しやがった!?」


「ああん? 僕様を操ろうとしくさったクソ野郎に最高のタイミングで反撃してやったんだよ! 僕様たちの力で傷付かなくとも、自分の一撃なら充分ダメージになるだろう?」


「テメェ……下僕になったんじゃなかったのか!」


「ふざけるなよ人間。僕様が貴様等に媚び諂う訳がないだろう。待っていたのさ。シシルシがカードの勇者を殺してくれるのを。カードの呪縛から解放されるこの時を!!」


 一瞬、彼の言葉が理解できなかった。

 名偉斗は腹の痛みを忘れるほどに呆然として、確認するように尋ねる。


「永遠が、死んだ?」


「じゃねーとお前に危害加えられねーだろ」


「う、嘘だろ? 何死んでんだよあいつは!? こんなゲーム世界で死亡とかバッカじゃねーの!」


 槍を引き抜き投げ捨てると、新たな槍を手にする名偉斗。

 レレアとゲドを放置して、ルトラに向き直った瞬間だった。


「リザレクション!」


 突然、女の声が聞こえた。

 名偉斗の背後で誰かが立ち上がる。


「おい、おい待て……誰だ今の、それで、誰を回復して……」


「余所見している場合ではあるまいっ」


 すると今度は側面から聞き覚えのある男の声。

 嘘だ。思った名偉斗の脇腹に、カルヴァドゥスが蹴りを叩き込む。

 ごっふと崩れた名偉斗の背後から彼の首を掴んだゲドの手により背負い投げで頭から地面に突き刺さる。


「っし! なんか知らんが九死に一生!」


「一生、じゃないわよ。私が来なきゃあんたたち死んでたのよ」


 地面から首を引き抜いた名偉斗の元へ、そいつはついに現れた。


「テメェは……」


「私? 異世界から来た勇者、若萌よ」


 ルトラ、カルヴァドゥス、ゲド、若萌に囲まれ、名偉斗は愕然とする。

 いつの間に自分が追い詰められていたのだろうか?


「若萌殿、私まで復活させていただき恐悦至極にございます」


「全く、セイバーから聞いていたでしょう。勇者には勇者をぶつけなきゃ倒せないから無理に闘うなって。毒殺出来るわけでもないんだから、さっさと引いて私を待てばよかったのよ」


 溜息吐いて、若萌は告げる。


「正義! 執行! ジャスティス、アイゼンッ!」


 戦隊ヒーローと化した若萌に、今度こそ名偉斗は戦慄した。

 嘘だろ? そう思うのも無理はない。

 彼だって昔はヒーローもののテレビを見て育ったのだ。

 そんなヒーローが、目の前に、しかも敵として出現する。赤い悪魔だけなら偶然だと思えたが戦隊ヒーローの変身シーンまで見せられれば、相手が正義の味方であると確定してしまう。

 すなわち、自分は英雄になったつもりで悪逆の存在として正義に退治される側に回っているということを見せつけられたからだ。


「さあ、始めましょうか女神の勇者」


「クソッ、いいぜ、倒してやる。俺が勇者だ。テメーは悪だ。絶対に、負けるわけにゃいかねぇ! 俺が正義側の人間だッ」


「若萌、援護するぞ。僕様もこいつ等には怒りしかない!」


「仕方無いわね。カルヴァドゥスは全体指揮に戻って! ゲドさんは彼女さん守ってなさい! あとムイムイは後で御仕置きね。どこまで逃げたんだか」


 若萌とルトラのタッグVS名偉斗。今までの攻守が完全に逆転した不利な闘いを強いられる名偉斗は思わず死んだらしい永遠に悪態を付く。

 なに死んでやがんだあの馬鹿。御蔭で俺様がピンチじゃねーか。と。


 白と黒の剣を引き抜き、ジャスティスアイゼンが走る。

 一度の攻撃で二つの剣が別々の場所に攻撃が来る。

 慌てて受ける名偉斗だが、流石に二連撃を防ぐ事が出来ず、一撃を貰う。


「ぐふっ!?」


 当っても大したダメージにならないだろう。そう思っていた。

 しかし、実際にあたった攻撃は彼の防御を貫通し、傷を負わせていた。


「クソがッ!」


「リフレクトシールド!」


 反撃とばかりに槍を突き出せば、ルトラの魔法で反射され、全て自分への攻撃となる。

 血反吐を吐きながら、コレ、マジでヤベェンじゃね? と今更ながら自覚する名偉斗だった。

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