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東の決戦3

「ひゅー……ひゅー」


「はは。参った……」


 地面に仰向けに倒れたラオルゥは自身に刺さった剣を引き抜く。

 致命傷なのは直ぐにわかった。

 魔神となった彼女なのでしばらくは持つだろうが、死ぬまでの時間が長くなっているだけだ。


 最後の一撃、ラオルゥの振るった一撃は大悟に回避され、両手からすっぽ抜けた剣ははるか遠くへと飛んで行ってしまった。

 大悟の一撃を喰らったラオルゥは何も出来ずに倒れ、ただただ空を見上げていた。

 まさか人間に負けるとは思わなかった。

 しかも満身創痍の勇者クンである。


「まいった……」


「あんたの負け、だ……」


 自身に回復魔法を使う大悟が視界に映る。

 成る程、満身創痍で自分も死に掛けだったとしても回復ができるのなら無茶もできるということか。ラオルゥは自分の敗北を納得する。


 だが、それもまた、違った。

 納得しかけたラオルゥの目の前で、回復中だった大悟が突然血を吐く。

 あれ? と呆然とする大悟が、まるで突然死するようにその場に倒れた。

 アイテム入手ダイアログが開かれる。


 一瞬、何が起こったか理解できなかったラオルゥは目を見開いていた。

 だが、唐突に納得する。

 理由など簡単なことだったのだ。


「ああ……そういうことか」


 魔力感知を使えば即座にわかった。

 先程の闘い、手放した剣が何処に向ったか。

 それは一直線に飛び、背後で見ていたソルティアラに突撃したのだ。


 レベルすら上げていないソルティアラが満足に避けられる訳もなく、致命傷を受けていた。

 そして、ソルティアラと真名交換をした大悟は、彼女の死と共に自分も死ぬようにしていたのである。

 だから、ソルティアラの死とともに大悟もまた、死を迎えていた。


「クク、ははは。なんだ。我は一応殺せたわけか。クク、あはは……はは……」


 誰も動かなくなった大地で、ラオルゥだけが涙を流しながら空を見上げる。

 復讐をしたはずだった。

 しかし、自身には達成感も何も無い。ただ、自分は死ぬのだという現実だけがのしかかって来る。


 相討ちである。

 ソルティアラを殺すことで結果的に大悟も死んだが、ラオルゥもまた、大悟に殺されるのだ。

 相手が居ないので入手されるアイテムはこの場にぶちまけられるのだろう。

 誰にも回収されないというのも少し哀しい話である。


「セイバーと……一緒に居れば、こんな寂しい死に方はなかったかな……」


「クケケ。やられたなぁラオルゥちゃん」


 ふいに、誰かの声が聞こえた。

 誰かの声は聞き覚えのある声だった。

 その声は、猫かぶりを止めたシシルシの物。


「なんだシシー。来たのか」


「永遠ちゃんやっちまったからな。ルトバニアにはもう居られねぇっつの」


「あー、視線合わせないよう気を付けてくれ。我ではどうにもしかねる」


「ほいほい。それ」


 ふぁさりとラオルゥの目元を隠す布。

 裸眼から魔力感知に切り替えシシルシの姿を捕える。

 少し離れた場所にシシルシの魔力を感知した。


「一人か……」


「まぁな。喜べ、モルガーナの奴が王様を暗殺に向かっているよ」


「そうか。じゃあ我の目的は達せたか」


 勇者の血筋を絶やすことになるのだろうと思いながらも、あの王の血筋が絶えると思えばそこまで悪くない人生だったと思う。

 惜しむらくは子孫を残せなかったことだろうか?

 そればかりはもはやどうしようもない。


「シシー」


「なんだよ?」


「セイバーに伝えてはくれないか?」


 そろそろ、身体に力が入らなくなった。

 もう、自分の死が近づいているのが分かる。

 ソルティアラと大悟のアイテムが手に入ったが、直ぐに手放すことになるだろう。


「我は、封印されていた我に世界を見せてくれたお前が好きだった、と」


「はっ」


 鼻で笑うようにシシルシがラオルゥへと歩み寄る。

 顔が見える位置まで来ると、足を振りあげた。


「やなこった」


 バシャリ

 一度だけ、何かの液体が弾ける音が聞こえた。




「クケケ。まぁったくラオルゥちゃんもセイバーちゃんも爪が甘ぇんだよなぁ。まぁいいんだけどさぁ」


 シシルシは一人、歩き出す。

 手ぶらの彼女は鼻歌を歌いながら魔王領へと向かって行く。

 その歩みを止める者は一人もいない。


「さぁーてセイバーちゃんでもからかいに行くかぁ。もう自由にやっても良さそうだし、適当に楽しませて貰うぜぇ。なー、赤いおぢちゃん」


 三つ目の少女は一人、旧エルフの森へとやって来る。

 未だに呆然としているコーデクラとハーレッシュ国の兵士達を放置して、水場を思い切り助走を付けてジャンプすることで飛び越える。


「シシルシ様!?」


「えへへ。戻って来ちゃった」


「これはシシルシ様。お勤め御苦労さまでございます。ところで、道中ラオルゥ様にお会いしませんでしたか?」


「ラオルゥちゃん? んー、どうだったかなぁ?」


 口元に人差し指を当てて考え込むシシルシは、深淵が覗く瞳で不気味に告げた。


「んー、知らなーい」

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