東の決戦2
「うああぁぁぁぁぁぁっ」
大悟が咆哮と共に叫ぶ。
ラオルゥは余裕の表情で近づいて来る大悟を待つ。
気合い一閃、ななめ右上から振り降ろされた一撃をラオルゥは難なく受け流す。
剣を傾けただけの行動で一撃をいなされた大悟の身体が流れる。
「くっ!」
「どうした勇者クン。この程度でよくも我に盾突けたモノだな」
「う、煩いっ。ソルティアラは俺が守るんだ!」
叫びながら足を踏みしめ返しの一閃。
ラオルゥは剣を傾けるだけでコレをいなす。
「実力が足らんな。思いだけでは勝ちなど拾えんよ」
「そうだとしてもっ」
「だとしても、何も無い。お前が負ける。それ以外には何も無いのだよ」
大悟の上体が流れた。
その瞬間ラオルゥが動く。
巨大な刀が振りあげられ、まっすぐに真下へと打ち降ろされる。
ギリギリで回避する大悟。髪の毛が数本舞った。
「く、のぉっ!」
足に力を入れて回転しながら脇腹を狙う。
大悟の一撃に即座にバックステップで剣撃を避けるラオルゥ。
振り下ろした剣では回避に間に合わなかったようだ。
「二連斬!」
大悟がスキルを放ちだす。
大した一撃ではなかったが、思わずむっと唸るラオルゥ。
スキルは技後硬直ができるため強力な力を持つほど多用しなくなるのだが、それでも効果がないというわけではない。
むしろ素人だったとしてもプロ並みの動きが出来るスキルは大悟にとってはラオルゥに比肩するために必須の能力だ。
「ハードヒット」
思わず回避に回したラオルゥの剣が、強烈な一撃に弾かれる。
「ほぉっ!?」
「ゲイザーストラッシュ、グレ・ゴル」
地面に剣を打ちつける。
大地から噴き出す光の一撃を避けたラオルゥに、土魔法が襲いかかる。
「普通の相手には有効かもしれんな」
ゲイザーの一撃に加え死角からの魔法攻撃。
ソレを難なく叩き潰すラオルゥ。
もともとその感覚器は魔力を見ることに特化している。
ならばこそ、ラオルゥに最も効かない攻撃こそが、魔法なのである。
「失策だぞ勇者クン」
思い切り振るわれた大剣にとっさに剣で防御する大悟。
しかし、防御ごと剣が襲いかかった。
全身から骨が砕けんばかりの衝撃が襲いかかった。
「がぁあっ!?」
派手にふっ飛ばされた大悟は地面を転がりながらもなんとか立ち上がる。
たった一撃受けただけで全身ボロボロだ。もしかしたら脇腹当り折れているかもしれない。
「どうした勇者クン。もう終わりかね?」
「冗談じゃ……ないっ! 俺は、ソルティアラを守るんだっ。ソルティアラの勇者になるんだっ!」
「そ、そうですわ! 大悟は私の勇者なのよ!」
慌てたように同調するソルティアラ。
思わずラオルゥは舌打ちする。お前には聞いていないと顔が言っていた。
息を整えた大悟が動き出す。
多少よろめくのは痛みのせいだろう。
かなり動きに精彩がなくなっていたが、それでもラオルゥへと切り込む。
しかし、ラオルゥからすれば雑魚でしかない動きだ。
軽く剣でいなして返しの一撃で吹き飛ばす。
再び地面を転がる大悟。
それでも立ち上がろうとするのだが、残念なことに震える両手が彼の身体を支えきれない。
腕立て伏せ体勢のまま、両腕の力を無くして崩れた。
ラオルゥはソレを無言で見降ろす。
視界を塞ぐ布を取り払い、ソルティアラに最後の一撃を叩き込むべく歩き出す。
ラオルゥが裸眼になったので慌てて眼を瞑るソルティアラ。
このままではダメだ。それだけは彼女も理解していた。だから……最後のあがきを見せてみる。
「冨加津大悟に命じるっ、限界を超えて力を発揮し私を守りなさいッ」
「おいおい。ここで大悟君に真名命令かね。しかし、彼の身体は稼働限界だよ?」
その通り、大悟の身体はとっくに限界を超えている。
絶対に立てない程に筋繊維が断裂してしまっている。
なのに、そいつは立ち上がる。真名命令に従って、己の肉体限界を凌駕する。
「おいおい、無茶をする」
「ソルティアラは、俺が、守るッ!!」
走りだす大悟。その動きで口から血を吐きだす。
ゼーハ―という息使いは一瞬でコヒューコヒューと空気の抜ける音になる。
肋骨あたりが肺を突き破ったのだろうか?
それでも構わず大悟が走る。
「目を見れば死ぬぞ勇者クンッ」
だが、振り返ったラオルゥが見たのは、既に自分すらも見ていない大悟だった。
意識が無いのか、意識を失う寸前か、ただ只管に前に向かう大悟は、ラオルゥを殺す事だけしか考えていないようだった。
「デッドライン……アッパー」
軽く薙ぎ潰す。気楽に構えていたラオルゥの目の前で、大悟の身体が一瞬で消えた。
驚き眼を見開くラオルゥは、半ば本能で剣を振り抜く、その一撃の合間を縫って、大悟の一撃がラオルゥの心臓を穿った。




