辿りついた者たち
「陛下っ。こんな場所にいらっしゃったのですか!」
「テーラ? お前にはギュンターの護衛を頼んだ筈だが?」
絶望しかけていた俺は、慌てて四つん這いから立ち上がる。
まだだ。そうだ。まだこの子がいた。
「私はギュンター様の近衛騎士ではありません。魔王陛下を守る盾であり剣です。他の皆が戦場に赴いているのに、一度死んだからと安全地帯に居る訳には参りません。各地の戦況は聞きました。私も御一緒させてっ、……ください」
今、一瞬ため口になったな。
まぁいい。そんな事はどうでもいいのだ。
「ダメだ」
「っ!? なんでですかっ」
「今のままじゃ、勝ち目はないんだ。このままじゃ……魔王軍が全滅する。勇者には勝てない。俺は……今の俺は、自分の正義に自信がない。本当に、黒の聖女を信じていいのか。このままでいいのか。さっき、女神にあったんだ……言われたよ、俺が女神の勇者になれば、魔族は救ってやるって。死ぬのは四人の勇者たちになるって。これ以上、あいつらを野放しにしてれば魔族の被害はさらに拡大する」
「で、ですがっ。それでは私達が頑張って来た意味が……陛下の為に、私達は命を賭して闘っているんです。あきらめないでくださいッ。陛下ッ」
諦めるってのは、何を諦めるんだ? 俺は、お前達を救えるなら、自分が犠牲になるのも、一つの正義なんじゃないかって……
いや、これは弱気だ。女神に屈するなジャスティスセイバー。あいつは俺が絶望するのをみたいんだ。あいつの僕になったからって魔族が無事と言う可能性は低い。最悪目の前で殲滅させられて俺が絶望するなんてシナリオがあるかもしれない。
それでも……絶望的なこの状況に天空から蜘蛛の糸がぶら下げられている。
掴んでしまうしか、ここから抜け出すことは……
ぐっと、拳を握る。
「伝令ッ、南軍壊滅寸前、援軍をッ!」
「伝令! フラージャ洞窟が勇者により崩落っ。生存者は不明ッ!!」
「伝令ですっ、北軍魔将、サイモン様を残し全滅っ。ユクリ様と勇者が闘う直前ディアリッチオ様が……すいません。急いで来たのでこれ以上はわかりませんっ」
「伝令、ルトバニアより勇者が動き出すようですっ」
くそっ。北がサイモン以外全滅!? ペリカは? メロニカはどうなった!? ブルータースも負けたのか!? ユクリを行かせるべきじゃなかったんじゃ……
「陛下っ、私も北門にっ。ペリカ様の仇をっ」
ふざけるなっ。死にに行けなど言えるわけがないッ。
くそっ、どうなってる? なんでここまで追い詰められてるんだ魔王軍はっ。
やっぱり、俺じゃどうしようも……
『おい、セイバー』
「……ナビゲーター?」
『悪いが時間だ。女神様が一度戻られる。報告に向かわせて貰うぜ』
嘘だろ? ここで、ここでお前から報告が行っちまったら、もう、もう俺達は……
『じゃあな。さよならだ』
一方的に告げ、怪人、フィエステリアの姿をした、今までずっと一緒だった相棒が去っていく。
俺は力無く膝から崩れた。
「陛下ッ!?」
「ダメだ……俺じゃ、ダメだ」
やっぱり、俺じゃ駄目だったんだ。
武藤……なんでこの世界に召喚されたのがお前じゃなくて俺だった?
もしも、ああ、もしもだ。お前が召喚されていたのなら、きっとお前はもっと良い結末へと持って行けたんじゃないのか?
若萌と協力して、チキサニもペリカも魔神たちも、沢山の仲間を救って、女神を討ち滅ぼせたんじゃないのか。
俺じゃ、ダメだ。ダメなんだ。見てくれ武藤。ここまで追い込まれちまってる。有効な作戦なんざ思いつかない。ただ、ただ前に進め、正義を信じて闘え。そんな言葉しか吐き出せない。
こんな俺が正義の味方なんて、そんなこと、胸張って言えるわけがない。
「なんで俺なんだよっ。武藤っ。なんでっ、お前じゃなくて俺が召喚されてんだよっ。俺じゃ無理だ。正義の味方だって言ったって、アルバイトでしかなかった俺じゃ、魔族を救えないっ。女神に屈するしか、あいつらを救えないっ。どうすりゃいいんだよ――――ッ!!」
拳を握り、慟哭するように地面に叩き付ける。
「なんだよ正義の味方? お前の正義その程度だっけ?」
「煩いっ、俺はお前じゃないっ、お前みたいに仲間のピンチに颯爽現れて全部救っちまうような正義の味方なんてできないんだよっ。どうしてお前が怪人で俺が正義の味方なんだっ!? 逆だろっ。お前はどうして……っ?」
俺は今、誰に叫び返した?
あり得ない。そう思いながら、まさかと歓喜が湧きおこる。
恐る恐る、背後を見る。そこには三人の男女が立っていた。
ナビゲーターでも、幻なんかでもない。そいつらは確かにそこに、存在していた。
「よお、正義の味方。言われた通り、仲間のピンチに颯爽現れてやったぜ」
そいつは、まるで少し会わなかった級友に出会ったような態度で片手をあげる。
人間姿を見るのは久々な気がした。
武藤薬藻、怪人フィエステリア・ピシシーダがこの世界にやって来た。




