北方攻防戦6
「オラァッ!」
信也の一撃をギーエンがいなす。合間を縫って羽根を飛ばすメロニカ。
避けた場所から急襲するペリカ。
ダメージ自体はほとんどないが、それでも信也のフラストレーションは徐々に高まっていく。
「クソッ、クソッ、寄ってたかってテメーらッ!!」
「おー、どうした勇者様よ。ずいぶんとお顔が真っ赤だぜ?」
「調子に乗るなよ裏切り者がァッ」
苛烈に攻め立てる信也。しかしその剣撃はあまりに拙く、ダメージを殺していなすくらいはギーエンの技量を持ってすれば難なくできた。
ダメージを喰らえば一撃死の危険があれど、喰らわなければ問題はないのだ。
ギーエンが受け、メロニカが体勢を崩し、ペリカがダメージを与える。
三人が協力して初めて互角の戦いが出来ていた。
だが、やはり実力差は埋めがたい。
ちょっとしたミス一つでギーエンの剣が折れる。
「マジか!?」
「死んじまえクソがッ!」
「させ……るかぁッ!!」
ギーエン向けて攻撃を放つ信也。そこへ、猛然と突撃するブルータース。
既に攻撃モーションへと移行していた信也に巨体が激突した。
ブフゥと荒く息を吐き、新たな参入者は吹き飛んだ信也を睨みつける。
「どうだクソッタレッ!」
「ぜんっぜん効かねぇよ牛野郎ッ」
怒りと共に信也の身体から闘気が立ち上る。
「スラッシュザンバーッ」
ゾクリ。危機を感じたギーエンは咄嗟にメロニカを突き飛ばす。
メロニカの目の前で、ギーエンが二つに分かれた。
「ストライクザッパーッ」
加速した信也がブルータースに突撃する。
避ける間も無かった。
ブルータースの中心に風穴が空き、ブルータースが斃れる。
さらに一足。メロニカに迫った凶刃が彼女の眼前に突き出された。
死ぬ。
逃げる暇などない。
やはり勇者相手に勝つなど無謀だったのだ。
血飛沫が舞う。
終わった。そう、思った。
でも、信也の剣が突き刺さっているのはメロニカではなかった。
彼女をさらに突き飛ばし、ペリカが代わりに犠牲になっていた。
メロニカの口から声にならない悲鳴が漏れる。
ごぷり、ペリカの口から漏れた血がメロニカに掛かる。
「ペリカ……なんで……」
「姉さ……生きて……」
どさり、倒れたペリカからアイテム入手確認のダイアログが出る。
見れば、ブルータースにも、ギーエンにも、それが出てしまっている。
一瞬だった。勝てると思っていた。だけど、勇者の強さを見誤った。
魔王の言う通り、勇者とはムリに闘わず逃げるべきだったのだ。
本気になった信也は無言で倒れたペリカを踏みつけ、メロニカへと向かう。
勝てるわけがなかった。もう、無理だ。
せめてサイモンが生きてることだけは幸いだろう。あいつだけでも……逃げれば……
「おい……これはどういう状況だ?」
不意に、信也の背後から声が聞こえた。
ばっと振り返った信也の顔面に、拳が突き刺さる。
もんどりうって倒れた信也を蹴り転がし、その女が悠々と現れた。
魔王の娘、ユクリティアッド。
希望の光とも思える存在が、ついに到着してくれたのだ。
だが、もう、遅すぎた。
ペリカも、ギーエンも、ブルータースも、もう……
それに、自分も……
ユクリの攻撃は遅かった。
信也の一撃がメロニカの胸へと突き刺さっている。
命が抜けるのがわかった。
「ペリカ……ごめん。お姉ちゃんも……そっちへ……」
思わずペリカへと手を伸ばす。
せめて、死ぬ時は一緒に……
「お、おい、死ぬなっ。クソッ。遅すぎたのか!?」
ユクリの声が聞こえる。
胸から異物が引き抜かれる。
でも、もう、遅すぎた。
ペリカの手を握り、メロニカもまた息絶える。
間に合わなかった現状を見せつけられ、ユクリは羅刹の形相で信也を睨む。
信也もまた、自身を虚仮にされまくったことに怒りを覚え、立ち上がると共にアイテムボックスから予備の剣を引き抜く。
「次はお前か魔族女ッ」
「よくも、魔将達を殺してくれたな……楽には殺さん」
「ソレはこっちの台詞だッ。楽に死ねると思うなよッ。テメェも、魔王も、全員だ。全員俺が殺してやるっ。テメェらの首を晒して魔族共に見せてやるッ」
「アイテム化するから無理だがな。だが、いいだろう。お前の首を他の勇者共に見せてやる」
信也が剣に力を込める。
ユクリが魔力を高め強大な力を振るう。
双方がぶつかろうとしたその瞬間、戦場に魔法陣が迸った。
二人揃って驚き警戒する。
相手からの攻撃か。思ったものの、相手も驚いている事に気付く。
ゆらり……驚く二人の視界の隅で、そいつは静かに立ち上がった。
己が森を自らの手で消し去った魔神、ディアリッチオが動き出す。




