表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

288/337

北方攻防戦6

「オラァッ!」


 信也の一撃をギーエンがいなす。合間を縫って羽根を飛ばすメロニカ。

 避けた場所から急襲するペリカ。

 ダメージ自体はほとんどないが、それでも信也のフラストレーションは徐々に高まっていく。


「クソッ、クソッ、寄ってたかってテメーらッ!!」


「おー、どうした勇者様よ。ずいぶんとお顔が真っ赤だぜ?」


「調子に乗るなよ裏切り者がァッ」


 苛烈に攻め立てる信也。しかしその剣撃はあまりに拙く、ダメージを殺していなすくらいはギーエンの技量を持ってすれば難なくできた。

 ダメージを喰らえば一撃死の危険があれど、喰らわなければ問題はないのだ。


 ギーエンが受け、メロニカが体勢を崩し、ペリカがダメージを与える。

 三人が協力して初めて互角の戦いが出来ていた。

 だが、やはり実力差は埋めがたい。

 ちょっとしたミス一つでギーエンの剣が折れる。


「マジか!?」


「死んじまえクソがッ!」


「させ……るかぁッ!!」


 ギーエン向けて攻撃を放つ信也。そこへ、猛然と突撃するブルータース。

 既に攻撃モーションへと移行していた信也に巨体が激突した。

 ブフゥと荒く息を吐き、新たな参入者は吹き飛んだ信也を睨みつける。


「どうだクソッタレッ!」


「ぜんっぜん効かねぇよ牛野郎ッ」


 怒りと共に信也の身体から闘気が立ち上る。


「スラッシュザンバーッ」


 ゾクリ。危機を感じたギーエンは咄嗟にメロニカを突き飛ばす。

 メロニカの目の前で、ギーエンが二つに分かれた。


「ストライクザッパーッ」


 加速した信也がブルータースに突撃する。

 避ける間も無かった。

 ブルータースの中心に風穴が空き、ブルータースが斃れる。

 さらに一足いっそく。メロニカに迫った凶刃が彼女の眼前に突き出された。


 死ぬ。

 逃げる暇などない。

 やはり勇者相手に勝つなど無謀だったのだ。


 血飛沫が舞う。

 終わった。そう、思った。

 でも、信也の剣が突き刺さっているのはメロニカではなかった。


 彼女をさらに突き飛ばし、ペリカが代わりに犠牲になっていた。

 メロニカの口から声にならない悲鳴が漏れる。

 ごぷり、ペリカの口から漏れた血がメロニカに掛かる。


「ペリカ……なんで……」


「姉さ……生きて……」


 どさり、倒れたペリカからアイテム入手確認のダイアログが出る。

 見れば、ブルータースにも、ギーエンにも、それが出てしまっている。

 一瞬だった。勝てると思っていた。だけど、勇者の強さを見誤った。


 魔王の言う通り、勇者とはムリに闘わず逃げるべきだったのだ。

 本気になった信也は無言で倒れたペリカを踏みつけ、メロニカへと向かう。

 勝てるわけがなかった。もう、無理だ。

 せめてサイモンが生きてることだけは幸いだろう。あいつだけでも……逃げれば……


「おい……これはどういう状況だ?」


 不意に、信也の背後から声が聞こえた。

 ばっと振り返った信也の顔面に、拳が突き刺さる。

 もんどりうって倒れた信也を蹴り転がし、その女が悠々と現れた。


 魔王の娘、ユクリティアッド。

 希望の光とも思える存在が、ついに到着してくれたのだ。

 だが、もう、遅すぎた。

 ペリカも、ギーエンも、ブルータースも、もう……

 それに、自分も……


 ユクリの攻撃は遅かった。

 信也の一撃がメロニカの胸へと突き刺さっている。

 命が抜けるのがわかった。


「ペリカ……ごめん。お姉ちゃんも……そっちへ……」


 思わずペリカへと手を伸ばす。

 せめて、死ぬ時は一緒に……


「お、おい、死ぬなっ。クソッ。遅すぎたのか!?」


 ユクリの声が聞こえる。

 胸から異物が引き抜かれる。

 でも、もう、遅すぎた。

 ペリカの手を握り、メロニカもまた息絶える。


 間に合わなかった現状を見せつけられ、ユクリは羅刹の形相で信也を睨む。

 信也もまた、自身を虚仮にされまくったことに怒りを覚え、立ち上がると共にアイテムボックスから予備の剣を引き抜く。


「次はお前か魔族女ッ」


「よくも、魔将達を殺してくれたな……楽には殺さん」


「ソレはこっちの台詞だッ。楽に死ねると思うなよッ。テメェも、魔王も、全員だ。全員俺が殺してやるっ。テメェらの首を晒して魔族共に見せてやるッ」


「アイテム化するから無理だがな。だが、いいだろう。お前の首を他の勇者共に見せてやる」


 信也が剣に力を込める。

 ユクリが魔力を高め強大な力を振るう。

 双方がぶつかろうとしたその瞬間、戦場に魔法陣が迸った。


 二人揃って驚き警戒する。

 相手からの攻撃か。思ったものの、相手も驚いている事に気付く。

 ゆらり……驚く二人の視界の隅で、そいつは静かに立ち上がった。


 己が森を自らの手で消し去った魔神、ディアリッチオが動き出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ