フラージャ洞窟の攻防4
パルティが構えるのは薄緑の刀身を持つ剣。対する和美が持つのは二対の茨の鞭。
棘が付いた、相手を傷付けること前提の鞭を前に、パルティは剣では危険と別の武器を取り出し鞘に剣を納める。
取り出されたのは分銅の付いた鎖鎌。
「次から次へと武器を持ちかえやがってッ。あんたは忍者かっ」
「多武器使いって言うのよっ。それっ!」
分銅を振りまわして和美の左腕を拘束する。
思わず舌打ちした和美は、右腕を奮って鞭を動かそうとするが、振りあげた右手に鎌が襲って来た。
慌てて腕で庇うと、そのまま右腕に絡みつく。
一瞬で鎖鎌に拘束された。
「あんた拘束するのは好きみたいだけど、拘束された気分はどう?」
「最悪よっ! 私は甚振る方が好きだっつってんでしょっ」
ヒステリックに叫び魔法を発動する。
しかし光の魔法壁が全てを受け止める。
「私の邪魔を、すんじゃないわよ――――っ」
「何が邪魔よッ、あんたが一番邪魔なのよ!」
剣を引き抜きパルティが飛びかかる。
ふざけんな。とばかりに鞭を投げつけた和美は左手にもう一つの鞭を持ちながら必死に鎖を解き始める。
パルティが飛んできた鞭を切り裂き駆ける。
ようやく鎖を解き、やった! と喜び浮かべた和美の前に、既にパルティは辿りついていた。
焦って振るおうとした鞭を剣で切り飛ばす。
流れた身体のまま、アイテムボックスから斧を取りだすパルティ。
迷うことなく和美の脳天へと振り下ろす。
「あ、ああああああああああああああああッ」
思わず尻から倒れた和美の額を掠め、股に直撃した。
「ぎああああああああああああああああっ!? あ゛……がああああああああああああああああ――――っ!?」
悲鳴が漏れた。
流石にパルティもこんな一撃を見舞うつもりはなかったようだが、すでに結果はでてしまっていた。
飛び出んばかりに目を見開き、目元から痛みの涙が溢れだす。狂ったように和美の口から絶叫が迸る。
「あー、その、ごめん。股裂きするつもりはなかったんだけど……」
「痛い゛い゛だい゛い゛だい゛い゛だい゛い゛だい゛っごろ゛ず、お゛ま゛え゛、がな゛ら゛ずぅぅぅッ」
至近距離からの連撃魔法。
慌てて飛び退いたパルティが障壁を張るのが一瞬早かったためぎりぎり受け止められたが、先程のミーティア連撃よりも鋭い連撃が長時間パルティへと殺到して来る。
既に和美に余裕はない。壊れた憎悪の顔で殺す殺すと叫び出す。
下半身から大量の血を噴き出しながら、全ての魔力を絞りださんと魔法弾をひたすらに打ち込みだした。
「だ、大丈夫ですか、えっと、パルティさん?」
「稀良螺だっけ。とりあえず私は大丈夫なんだけど、ちょっと、ヤバいかも」
「え? ど、どういうこと?」
自分は大丈夫なのにヤバい。というパルティの言葉を理解できず、稀良螺はごくりと生唾飲んで続きを促す。
「私は耐えれる。でも、この洞窟は、無理っぽいかも……」
ビキリ
洞窟自体が悲鳴を上げ始めた。
周囲に亀裂が走り出すのが分かる。
いくらフラージャという巨体の塒であるとはいえ、もともと土や岩で出来ただけの洞窟だ。
高火力の連続魔法に耐えきれるようにはできてないのだ。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
「うぅ、これはちょっと面倒かも……あいつが出血多量で死ぬのが先か、洞窟が崩壊するのが先か……あ、いや、あいつが死ぬのはなさそうかも」
皆の見ている前で、和美の傷が塞がって行く。
女神の勇者は常時再生機能でもあるらしい。
本当に厄介な奴らだ。パルティは舌打ちしながら防御壁に魔力を込め直す。
神々から力を授かった彼女にとっては、既にこの防壁程度ではほとんど魔力を消費しないのだが、身動きできない程の弾幕を受けては彼女も防衛に回らざるをえなかった。
彼女一人ならば、神速突破という加速スキルで連弾を避けながら直進する事も出来るのだが、背後に守るべき者が四人もいる状況では難しいとしかいえない。
「ちょっと神様、ギブアップかも。助っ人お願いっ」
思わず呟いた瞬間だった、洞窟から致命的な音が響く。
「マズッ、四人とも、こっちに来て! 早く!」
チキサニ、稀良螺、フェレ、ポェンティムの四人が慌ててパルティの元へと集合する、その刹那。
ついに洞窟が崩落を始めた。
気付くことのない和美へと魔法障壁を紡ぎつつ、パルティは頭上に片手を向ける。
「セイクリッドシェルタ」
同魔法の重ね掛け。
二重に作られたドーム型の魔法に、無数の瓦礫が降り注ぐ。
当然、和美の周囲でも崩落が始まるが、彼女は全く気付いていない様子だった。
そのうち、後頭部に一撃を受けた和美が倒れ、魔弾が止まる。
だが、崩落を止めることはできなかった。
チキサニの悲鳴と共に、彼らもまた、瓦礫の中へと消え去った。




