魔王軍南方防衛線5
攻守は一瞬で逆転した。
名偉斗の連撃をゲドがいなし、べーが突く。
同じ槍を使うベーの攻撃は、型のなっていない名偉斗などよりも技術が優れ、いくら名偉斗が強いと言ってもベーの攻撃を避けることはできなかった。
それでも、ダメージは少ない。少ないながらも通っている。
「くっそ、針刺すみたいにチクチク突きやがってっ」
「どうした勇者? ベーの攻撃は通ってるぞ?」
「うるせぇっ! どうせ1ダメージづつだろが何万回突いたって倒れるかよ!!」
その言葉に思わず愕然とするゲド。しかし、可能性はあるということだ。自分ではダメージを与えられないがベーの鋭い突きならば……あとは互いに疲れる前に回復を受ける。その時に神官の元で回復を受けるのでその間一人でこいつと闘わなければいけない。それでも、勝てる目があるということはゲドにとって光明だった。
「しゃらくせぇっ」
だが、名偉斗が取った新たな行動が、彼らの勝機を一瞬で刈り取る。
あろうことか名偉斗は自分の武器を投げつけて来たのだ。
ぎりぎり避けた槍は、そのままゲドを飛び越え背後に、そして、小さな悲鳴が上がった。
まさかっと振り向いた先には、槍を受けて死亡する神官の姿。
思わず胸を撫で下ろしてしまったゲドだったが、回復役が早々に死亡してしまうと、べーと自分のどちらかが力尽きた瞬間に詰む。
「テメェ……」
「んはっ。そうだよ。槍ってのは投げることもできたじゃねぇか。いやぁ。これぞ発想の転換って奴だな。さぁ、第二ラウンドだ!」
そう言って、アイテムボックスから赤い槍を取りだす名偉斗。どうやら槍のストックはまだまだあるらしい。
思わず舌打ちするゲドも、べーも、内心は絶望が支配しかけていた。
女神の勇者。その実力はあまりにも理不尽。
「オルァっどうしたどうした? さっきまでより動きが遅ぇぞ」
疲れがでているのだろう。ベーの動きが少し悪くなった。それだけで押され始める。
ゲドの身体もだんだんと動きが悪くなっている。
さすがに疲れを無視することはできないらしい。
こりゃぁ、無理かもしれねぇな。
そう思ってしまうのも仕方無いことだった。
だが、チラリと背後を見る。
自分を心配そうに見つめる女がいた。
ああクソ。退けねぇな。
難儀な恋をしちまったもんだ。
自分の心情に思わずクックと笑みが漏れる。
「まだまだ。ああ、まだまだだ。俺はやれるッ」
汗ばむ手を拭き剣を握り直し、再び突撃する。
大丈夫、まだやれる。
べーの槍が破壊される。
その隙に懐に入り込み名偉斗の顎に掌底を叩き込む。
流石に直接的な攻撃なら食らうようだ。ダメージは少なそうだが、武器で切りつけるよりもダメージになるかもしれない。
御蔭で名偉斗の手から零れた槍をべーが拾う。
「がぁっ、いってぇ。今顎がガクッつったぞ!? って、オイッ、それ俺ンだろうが!?」
「ギギ」
赤い槍を巧みに使って名偉斗へと攻撃。しかし、先程よりダメージが入っていないように見える。
「ギ? この槍、安物ね」
「う、うるせぇ! 俺の槍使っといて酷評すんじゃねぇ!!」
そんな安物を使ってすら自分達は下手に攻撃されれば一撃死するのだ。全く持って不条理な存在である。
ゲドは萎えそうになる気力を背後を見ることで奮い立たせ、体術を駆使しての攻撃に切り替えて行く。肉体言語はネンフィアス軍の専売特許なのである。
「がぁっ、クソがっ。ただの拳で剣より……」
打撃に掌底、内発勁。あらゆる体術で青い失敗面をさらに整形していく。
むしろ不細工に拍車が掛かっているのだが、それはゲドにはどうでもいいことだった。
「だから……邪魔だっつってんだろが!!」
しかし、やはり勇者は勇者だった。あまりにも理不尽。
何も無い場所から、槍を取り出し迫り来たゲドに思い切り投げ付ける。
避けられるタイミングではなかった。
右肺に一直線に飛んできた槍が突き刺さる。
「がぁっ!?」
そのまま槍の威力でふっ飛ばされ、レレアのすぐ側まで転がった。
一撃で致命傷だと理解する。
ただ、しばらくは生存可能だということもわかった。
駆け寄って来たレレアに抱き起こされる。役得だ。
「ゲドっ!」
「下手打っちまった……ぐはっ。悪りぃな、あんたを守り切るっつったのに」
「喋るな馬鹿。私に告白したくせに、そのまま死なないでよっ」
無茶を言う。
だが、ゲドは満足げに笑う。
好きな女に抱かれて死ねるなら、俺の人生、悪くはなかったな……と。
「あんたの告白、受けるから。生きてよっ。結婚したげるからっ。こんなとこで死ぬな馬鹿ッ」
「……はは。よぉ青い失敗面。聞いたかよ? 童貞のテメーと違って……俺は勝ち組だ」
「テメェ……ぶっ殺すぞクソがッ」
血を吐き散らすゲドに新たな槍を取りだした名偉斗が迫る。
べーも既に投げ飛ばされたようで地面に横たわっていた。ダイアログが出てないのでまだ生きているのだろう。
ゲドの元へ辿りついた名偉斗が槍を掲げる。
レレアは思わずゲドの頭を抱きしめた。
絶対に離すものかと、名偉斗を睨みつける。
「チッ、見せつけやがって! だったら、テメェら纏めてブッ刺してやっよッ!!」
赤き凶刃が、ゲドとレレアに向け、振り下ろされた。




