北方攻防戦2
「わ、私の森が……霊樹が……倒れた……」
「御待ちなさいMEY。何処へ行く気です!」
呆然と呟くディアリッチオと、走り出そうとしたMEYを引き止めるサイモン。
「どこって、決まってるでしょ! あの樹を破壊したクソ野郎を許す訳ないでしょッ」
「くっ。仕方ありません。坂本芽衣に命じる。動くな!」
「っ!?」
びくり、駆けだしたMEYの身体が硬直する。
「サイモン、何を……」
「今のあなたが行ったところで意味はないでしょう。返り討ちにあうだけです」
「でも、でもラオラがっ」
叫ぶMEYを無視し、ラオラが消えた場所に落ちていた短剣と弓矢を拾うサイモン。
身動きの取れないMEYに装備させ、回復魔法が使える魔族を一人呼んで来る。
「坂本芽依に命じます。これより私と魔王陛下以外からの真名命令に従う事を禁じます。これは私が死んでも陛下が存命の場合彼に命令優先権が発生します。また、他者からの精神異常攻撃に掛かる事を禁止します。これも魔王陛下が存命の間続きます。そして……」
一度目を閉じ、覚悟を決めて、サイモンは告げる。
「三度、私を殺し、生き返してください」
告げた瞬間、MEYの身体は真名命令通りに手にしていた短刀をサイモンの胸へと突き立てる。
驚くMEYは一瞬で怒りが吹き飛んでいた。
倒れるサイモンからアイテム入手のダイアログボックスが浮き出る。
連れて来られた魔族が慌てて復活魔法を唱える。
息を吹き返したサイモンに、MEYの身体は再び動き、彼にトドメを刺す。
意味が分からない。
何故自分はサイモンを殺しているのか、身体に伝わる誰かを殺す感覚に怖気が走る。
「止めてっ、止めてよっ。何させてんのよッ!!」
二度目の復活。また殺害。
三度殺されたサイモンが回復魔法で復活する。
ようやく自由になった身体で、MEYはサイモンを睨む。
「何がしたいのよ、あんたはっ」
「ぐふっ、はぁ、はぁ。内臓を取りだされることに比べれば、ただ死ぬことのなんと味気ないことか。死ぬのには慣れたくないですね。ですが……これであなたのレベルは2000を超えました」
「……え?」
「おそらく、ディアリッチオ様の森に居るのは勇者の一人、魔物使いでしょう。姿が見えなかったのでアレが秘密裏に動いたのだと思われます。相手は複数。レベルくらいは、圧倒しておいた方が、良いでしょう?」
「あんた……」
「いいですか。激情に駆られてもいい事はありません。追い詰める時こそ、怒り狂う時こそ冷静に。冷静にです。さぁ、行ってきなさい勇者MEY。命じます坂本芽依。自由に動き、行きたい場所に向かいなさい」
「……ありがとぅ、サイモン」
サイモンにお礼を告げて、MEYは走り出す。
もう、一度も振り返る事はなかった。
ラオラの短刀を振るい、血糊を飛ばすと、鞘に仕舞って胸元に仕舞う。
これはお守りだ。ラオラの仇を討つための、お守りだ。
ディアリッチオの森を駆け抜ける。
途中幾つかの魔物に出くわしたが、邪魔だと蹴り飛ばし、クマすらも足蹴にして先へと急ぐ。
森が途切れ、湖へと辿りつく。倒れた霊樹の枝葉がMEYの前にあった。
倒れた霊樹が湖に橋でも掛けたように倒れてしまっている。
太い幹が圧し折られ、もう、既に取り返しがつかない状況なのだと理解させられた。
残された切り株はでこぼことしており、その中心に、奴らはいた。
MEYは迷わなかった。枝葉の飛び乗り、幹を駆け抜ける。
倒木の橋を駆け抜け、背中に背負わされたラオラの弓を手に取る。
矢筒から矢を引き抜く。
エルフ達から教わった。
一緒に狩りをして、生活するための術。
動物向けて射る技術。今、ここでっ。
「玲人ぉぉぉぉっ!!」
「あん? なんだぁ? MEYじゃねぇか」
ゆったりとくつろいでいた玲人は走り寄って来るMEYに無警戒に立ち上がる。
彼にとってMEYは死んだはずの勇者だった。
それが生きていた事に気付いてあー生きてやがったか。その程度の感想だったのである。
だからこそ、彼女の怒りなど彼は知る由も無かった。
ヒュン
風を切り裂き一筋の矢が迫る。
気付いた魔物が咄嗟に動いた。
身体を盾に、玲人を守る。
「なっ!? MEYっテメェいきなり何しやがるッ!!」
守った魔物が死んだのを見て激昂する玲人。
しかし既に怒っているのはMEYの方である。
無言で弓を引き絞り、矢を放つ。
「ギャゥッ!」
犬娘が玲人を守るように前に出た。その直ぐ横にいた魔物が眉間に矢を受け死亡する。
「クソッ、奇襲か!? お前ら俺を守れ!」
「玲人ぉぉぉぉッ」
「MEYッテメェよくも俺の魔物をぉぉぉっ!!」
怒りの咆哮と共に懇親の矢が放たれる。
犬娘が爪で切り裂き迎撃。
続けざまに放たれた矢で別の魔物がまた死んだ。
MEYと玲人。同時期に召喚された勇者が、今、互いの怒りをぶつけ合う。




