魔王軍南方防衛線1
「戦況はどんな感じだレレア?」
「人族からの猛攻をホルステン様がよく凌いでいます」
カルヴァドゥスの質問に一つ目一角の胸の大きな女性が応える。
レレアは大きな眼でじぃっと見つめ、遠くに存在するホルステンの動向を見る。
「充分な闘いを繰り広げてますね。今のままなら多くの犠牲は出ますが、こちらが勝つでしょう」
「まだエルダーマイアの勇者も女神の勇者も来ていない。レシパチコタンもほとんど矢を放っていない。これで勝てるなどと言っていては足元を掬われるだろう。ムイムイ殿、陛下は本当に援軍を寄こすというのだな?」
「え、ええ。そう聞いてるわ。もうスパイが居なくなったから秘密裏に向かわせる必要ないって」
「エルダーマイアへの奇襲か。本当にあるのなら願ったりだが……間に合うか? そして成功するのか」
疑念を押し殺すようにカルヴァドゥスは戦端を見つめる。
そろそろ、次の段階に入るべきだろう。
一人無双するホルステンだけでは少々きつく成り始めている。
「伝令、ミクラトルァに連絡、進軍開始。ホルステンと合流して押し潰せ!」
伝令を走らせふむ。と頷くカルヴァドゥス。そろそろ来る。と考えた彼は隣のレレアに視線を向ける。
「レレア。ルーフェンが秘密裏に集めていた物の整備はできているか?」
「はい。一部理解不能な物もありましたが、それ以外は既に第三部隊に配布しています。それと、あちらにあるのが私達では理解できなかった道具です。活用するかどうかはカルヴァドゥス将軍にお任せ致します」
「了解した。ふむ。あれか」
戦線が見える丘を離れ、陣へと戻ったカルヴァドゥスは奥の手であるルーフェンの集めていた人族戦で使う手筈の武器防具。そして使い方の分からない道具が数点。
ルーフェンが居れば使えただろうが、今、彼と彼が組織した部隊が全て消えているため使用できる者がいないのだ。
それでも武器や防具は性能が良いので第三部隊に装備させておいた。
流石に数は足らなかったが多少なりとも戦力が強化できたはずだ。
ついでに魔将であるホルステンには硬く軽い防具を。ミクラトルァには破壊力の高い爪を装備させている。
「使い方の分からない道具は四つか」
一つは丸いもの。導火線が付いていることから爆発物と思われる。四つある。
もう一つは小さな無数の鉄塊。
突起が三つ突き出ているようだ。触ると痛そうだが、用途は確かに不明である。
何も書かれていないビンが一つある。内部には紫色の怪しい液体があった。
そして、最後にカルヴァドゥスと同じ高さの正方形の箱。手押しできるように底に滑車が付いているようで、両側面には手で回す取っ手が付いている。
正面には無数の棘が付いており、それが回転式の円筒状の物にびっしりと着いている。よくよく覗くと棘と思われたものは全て槍だ。
「これはもしや……」
右の取っ手を回す。どうやら円筒形のドラムが回るようだ。
左の取っ手を回す。その瞬間、前方側の槍が押し込まれるように引っ込んだ。
「これは、レレア、全て戦場に持ち運ぶぞ。これはかなり使えるものだ」
ビンの中身だけは分からなかったが、それは敵の捕虜に使ってみれば分かる事だ。
戦場に戻ると状況は一転していた。
戦場で猛威を振るう勇者たちと押され始めている魔王軍。
「しまった。まさかこの短期間で押し込まれるとは」
「あ、来た! 遅いわよカルヴァドゥス!」
「遅い訳があるか! ムイムイ殿、一分もかかっておらんぞ。どうなった!?」
「あの青い失敗面が出て来て情勢が一気に人族に傾いたわ! 何あの化け物!」
青い失敗面は赤い槍を振りまわし、高笑い上げながら魔族を屠って行く。
その少し後では勇者である琢磨と十三が魔族相手に戦いを始めていた。
カルヴァドゥスは思わず歯噛みする。
「だが、まだ充分手はある。ムイムイ、そちらの取っ手を回してくれ、位置はこちらで固定しておく。ただ回してくれればいい」
言われるまま、ムイムイは四角い道具の取っ手を回す。
前面に出ている槍が極限まで引っ込み、次の瞬間、一気に飛んだ。
無数の槍が空を切り裂き少し離れた敵陣、レシパチコタンの兵士たちに襲いかかる。
まさか自分達に攻撃が来るとは思っていなかったのだろう。避ける事も忘れた彼らは槍に貫かれ息絶える。
「うわっ、何コレ!?」
「名前は知らん。だがルーフェンが遠距離用狙撃道具の奥の手を手に入れてくれていたらしい。ありがたく遣わせて貰おう。レレア、余っている槍を持て!」
「は、はい!」
レレアが慌てて陣幕へと戻る間に、カルヴァドゥスが射撃位置を変え、ベーがドラムを動かし前面に槍の部分を持って来る。
ムイムイが槍を引き絞り、第二射。
風を切り裂きエルダーマイア軍へと向かうが、今度は勇者光子により迎撃されてしまった。
それでもエルダーマイア軍に数人の致命傷を作りだす。
「よし、行けるぞ! このまま後方を攪乱してしまえ!」
「そう言う訳にも、行かないみたいよ?」
ムイムイの声にカルヴァドゥスは気付いた。
青い失敗面が魔族をものともせずにこちらへと向かって来る。
どうやら最優先で破壊すべき場所と認識されてしまったようだ。




