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動き出すラオルゥ

「さて。どうなったかな?」


 ギュンターたちと共に骸骨馬車に乗った俺は、エルスタークに辿りつき、ロシータの屋敷にやってきた。とりあえずここにギュンターと側近を住まわせ、俺とユクリとラオルゥで酒場にやってきた。

 街中は魔王軍の魔王護衛部隊が占拠しているので物々しい。そんな中なので一般人は出てこようとすらしないようだ。酒場は閑散としていた。


「ふむ。それでも数人は飲みに来ておるな」


「そりゃまぁ、酒好きには関係ないはなしだからな」


 ユクリが適当なカクテルを頼んでいる間、ラオルゥは一言もしゃべっていない。

 しばらく観察していたのだが、何やら思いつめた雰囲気なので、ユクリも俺も話しかけづらいのだ。

 でも、このままだと話も出来ない。これからの事を相談するつもりなのにこれでは困る。


「ラオルゥ、何があった?」


「……あ、ああ。すまない。ちょっと」


「なんだ。脅されてでもおるのか?」


「違うのだユクリ。その、ルトバニアの勇者。我がパーティーに入った時の勇者のことなのだがな」


 どうしたものかと迷ったラオルゥは、溜息を吐いて俺達に顔を向ける。どうやら話すつもりらしい。


「ガンキュの見て来た書物の中に、あったのだ。あの時私を裏切るように告げた者の名。そして、そ奴が王族で、この国の昔の王で、あの優しかった勇者を無理矢理娶り、欲望の限りを尽くしたと……」


 バキリ。

 酒場のマスターが出した水の入ったコップを握りつぶすラオルゥ。

 どうやら怒りのあまり無意識でやってしまったらしい。


「あの国が……あの人を、滅茶苦茶にしていた。赤髪の男を勇者様から引き離し、我を引き離し、あの人を一人きりにしてたんだ。許せるかッ! あの国は、我の敵だったっ」


「だけどさぁ、その勇者さんの血脈でもあるんだろ。今のルトバニアの奴等には関係の無いことじゃね?」


「分かっている。だが、だがだっ。辻褄があった。あの王もソルティアラも自分たちのことしか考えてない。それはあいつにも言えた事だ。奴の血脈が生き残っているなど反吐が出る。勇者様の血脈でもあるのは分かる。だが、だが許せんのだよセイバー。すまない、あの国を……我にあの国を滅ぼす許可をくれないか?」


「許可って、でもシシルシも居るんだぞあそこ」


「それにだラオ様よ、別にセイバーの許可などいらぬだろう、魔神であることだし」


 なんだラオってラオルゥの略か? なんか親しみがあるし俺もそう呼ぼうかな?


「今の我はセイバーの物だからな。夫に許可を求めるのは当然だろう」


 ふふっと笑うラオルゥ。さっきの怒りはどこいったの?


「ちょ、ラオ様、セイバーは余の夫なのだがっ」


「くっくっく。何をいう。我の夫だろう?」


 なんだこれ?


「とりあえず、ルトバニアの国を滅ぼすのは反対だ。シシルシもいる訳だし、だけど、城だけなら……問題はないかもしれないな」


「……ふふ、話がわかる。恩に着るぞセイバー。無事生きて戻ったら我の処女をやろう」


「ちょぉっ。ラオ様っ!?」


「ふふ、冗談だ」


 決意が出来た。とラオルゥは立ち上がる。


「金はこっちで払っとくよ」


「そうか? ならばこれはお礼だ」


 ちゅっとスーツ越しの頬に違和感。

 何かが触れたと思った次の瞬間にはラオルゥが背を向けて歩き出していた。


「シシルシが押さえてるけどカードの勇者がいるはずだ。奴にだけは気を付けろ」


「わかってる。必ずお前の元に戻るさセイバー」


 ラオルゥが去って行く。きっと、全てを理解したうえでの決断だろう。

 ガンキュが齎した何らかの情報で、彼女の決意が決まってしまった。

 そして、おそらく、彼女は死んでも国を滅ぼすつもりだ。


「き、ききき、キスした!? 余もまだなのに、キスしおった!?」


 あ? なんかユクリが叫んでるけど、そうか、今のはキスだったのか。

 もしかしたら、ラオルゥは本気で俺に惚れてるんだろうか?

 少しは期待してもいいのか?


「セイバー。キスを、濃厚なキスを我と……」


「陛下! ここにいましたかっ」


 ユクリが唇をタコにして迫ろうとした矢先だった。

 コルデラが慌てたようにやってきた。


「どうした?」


「北軍が侵入されたそうです。勇者とディアリッチオ様により橋を占拠されました」


 チッ。ディアが早々に出てきたか。大方時間稼ぎで手間取る人族に痺れを切らせた勇者が居たらしい。随分と短気だな。


「他の軍は?」


「南は持ち堪えております。ただ、ルトラ様が敵軍に居られるようで、いつまで続くかは。西は敵影が海より見えたために大砲で迎撃中。東に動きはありません」


 動きが無い? どういうことだ?

 俺とコルデラが真剣な顔をし始めたせいでユクリが所在無げに立ちつくしていたのだが、それはもはやどうにもならないので放置することにした。すまんなユクリ。

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