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外伝・シシルシさんと魔神の集い

「皆ー一つづつだからねー。右下端から上に四つは残してね」


 本日のお茶会で、魔界から送られてきたシシルシのための苺大福を、シシルシは早速皆に配って回っていた。

 そして残った四つを、永遠が召喚したディアリッチオとルトラが上から二つ。


「永遠ちゃんもどーぞ」


「あ、うん」


 実に自然に残った右下から上に二つ目の大福を手に取る永遠。残った一個をシシルシが手にする。


「あーん。えへ。おいしーっ」


 椅子に座ったままのシシルシは美味しさを体中で表現するように両足をばたばた動かし幸福感を目一杯に体現する。


「うっ……!?」


 大福を口に放り込んだ瞬間、永遠が突然呻いた。

 皆がどうした? と注目する中、永遠は……


「うへぇ。噛む前に飲み込んじゃった」


「あはは。油断するとつるんって行くよね」


 クスクス笑うシシルシ。その瞳が一瞬だけ深淵を覗かせたのをクラスメイトのハルツェが見てしまい震えていたが、誰もそれには気付かなかった。


「でも驚いたなぁ。ルトラちゃんもカードになってたんだねー」


「ふん。僕様は予想通り過ぎて吐きそうだ。御主人にテイムされるまでは魔王軍のために。なんて思っていたのに今はソレを壊滅させることに毛ほどの辛さもない」


「そっか。やっぱりカード化すると僕の命令最優先になるんだね」


 はぁ。と溜息を吐く永遠。

 ルトラは魔王軍を撤退させるために一人勇者達と闘った魔神である。

 当初はぜひとも手に入れたいからとアルティメットマスターカードをわざわざ使ったというのに、レベルが2000代と物凄く低かったために落胆したものだが、シシルシの知り合いで彼女の笑みが溢れる事を思えば、捕えたことは間違いではなかったと安堵している。


 あのままカード化しなければルトラは自爆してでも死ぬまで勇者と敵対していただろう。

 そして滅びる未来に比べれば、こちらの方が幾分はマシだ。

 ルトラをカード化した永遠だったが、カード化のデメリットについては全く考えていなかったな、と精神を変えてしまったルトラを見ながら思い至っていた。

 彼は今、ゲーム世界で遊ぶという思考から、ここは現実世界で皆生きているという思考へとシフトしはじめていたのだ。


「そう言えば御主人よ」


「ん? 何かなルトラ?」


「他の勇者達が居ないようだが、どうした?」


「え? あー。兄ちゃんたちは魔王軍を包囲するからって各地に呼びかけを行ってるらしいよ。もうすぐ来るんじゃないかな?」


「てひー。ちょっとオハナツミ行ってきまーす」


「あ、ディア、ルトラ、二人はシシーの護衛してきて」


 と、自然に魔神二人を護衛に回したのは、シシルシがそうなるように言動を誘導していた事を、永遠は知らない。彼は全く気付いてなかったが、既にシシルシにより幾つかの誘導が行われていた。

 そんな永遠を茶会の会場に残し、魔神は三人揃って校舎内へと向かう。


「なかなか、驚きの手腕だな」


 一部始終を見ていたルトラが呆然と呟く。

 シシルシはふふんっと胸を張りトイレへと入って行く。

 と、言っても実際にトイレの個室に入る訳ではなく、トイレに向かうと見せかけての会話だ。


「オレ様にかかればこんなもんよ。モルガーナの奴が来た時は驚いたけどねー。無事に勇者様毒殺計画は遂行できたし、あとはオレ様がキーワードを言うだけって訳だ」


「まさか自分が選んだ大福に毒が入っているとは思うまい。実にうまい場所に擬態したものだ。魔王陛下もよく考えなさった」


「それにルトラちゃんも言葉の演技おつかれーぃ」


「ふん。なにが壊滅させることに毛ほどの辛さもない。だ。自分で言っておいてなんだが、僕様は魔族の平和優先なんだぞ。なぜそれを自分で破壊せねばならんのだ」


「不本意でしょうがカード化された以上我々はあの小僧の奴隷扱い。シシーとこうして話すくらいしか出来ないから仕方はないでしょう」


 楔は既に打ち込んだ。

 後は絶妙のタイミングを見計らうのみ。

 今、この茶会で暗殺するわけにはいかない。

 勇者たちが各地に散らばっているとはいえ、もう一度集まって来るのだ。

 彼らが居る場所で倒す訳にはいかず、かといって見逃すという手も魔神達には無かった。


「魔王軍との戦いのために勇者達が戦に赴くその乱戦、シシルシのキーワードで永遠を殺しカード化を解く。ディアリッチオ様の拘束さえ解ければ魔王軍は再び盛り返す。勇者共の好きにはさせない。だろう?」


「シシルシ、もう一度確認しておきます。永遠を殺して、後悔はしませんね?」


「後悔? 後悔ならもう既にしているよ。赤いおぢちゃんを殺した時に、ね」


 ニヤリ、少女の魔神は深淵を覗く瞳で笑みを浮かべる。

 勇者と魔族、闘いの駆け引きはまだ、始まったばかりであることを、勇者たちは知らない。

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