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外伝・舞台裏

「はは、これ、どんな不幸?」


 アンゴルモアは目の前の建物を見上げて思わず呟いた。

 彼は一度死んだ。死んだはずだった。

 しかし、それは異世界の法則により仮死状態になっていただけであり、復活魔法さえあれば復活できるのだ。


 そして、彼を迎えに来てくれた女は、その魔法を使える別世界の勇者であった。

 名を、手塚てづか至宝しほうといった。

 彼女はアンゴルモアのクラスメイトだ。

 もともと異世界へと消えたクラスメイトの行方を探していたようで、先程、実にタイミング良くアンゴルモアに辿りついたのである。


 まるで死んでから彼の元へ幸福の波が押し寄せてきたかのようだった。

 気が付けば、あの世界で復活して貰っており、ムーブという魔法で昔懐かしい現代世界へと戻って来ることに成功した。

 今彼らが居るのは至宝の自宅前である。


「不幸じゃねぇよ。戻って来たんだ」


「はは。夢みてぇ」


「夢じゃねぇし」


「ああ。そうなんだけどよ。実際戻って来れると思ってなかった訳でさ、俺……ああくそ。涙止まんねぇ。手塚、ありがとな」


「気にすんな。もともとお前ら探しに行ってたわけだしな。お礼ならずっと待ってる妻の凛に言ってやれ。お前の娘、既に歩き出して言葉も使いだしてんだぞ」


「マジかよ。すっげぇ見たいっ」


「ああ。あたしもその光景見終わるまで見届けるからさ。不幸で風に攫われたとかいうなよな」


「それフラグになるから止めて? でも、確かにそれはあるかもな」


「ったく、お前も誠の奴も女残して異世界行きとか、マジ何してんだか」


「ん? 誠? あ。そうだ。あいつ。ジャスティスセイバーも俺のいた世界に居たぞ?」


「は? あの世界にか? 何だその偶然?」


 現代世界のため、異世界用の武器防具をアイテムボックスに仕舞った手塚が思わず拳を握る。


「っし。マロンのアホ女神に報告してさっさと見付けさせて連れ帰る。これであたしも自由になれるぜ」


「なんか。悪いな……」


「ムーブ使えて万一殺されても復活できるのがあたしだけだからな。マロンの奴に適当な異世界に放り込んで貰って、街やダンジョンをムーブに登録すれば異世界の行き来が可能になるのがいいよな。もともとマロンの能力消し忘れの御蔭なんだけどな」


「あいつ抜けまくってるな。でも、そうか。わざわざ時間を使って探して貰って悪いな手塚」


「そう思うなら無事、凛と命に顔を見せてやれ」


 当たり前だ。そう言いながら一歩、踏み出した時だった。


「そういや命の奴な。この前ヌェルの名を呼ぶ時、廚二廚二と呼んでるんだぜ。他の奴等に覚えさせられたようでバトルしてやが……なぁ、それ、なんだ?」


 手塚の言葉で踏み出した足元を見る。

 魔法陣が描かれていた。

 互いに顔を見合う。

 アンゴルモアはサトリを開いたいい笑顔を彼女に送った。


「行って……くるわ」


「お。おう……」


 魔法陣から光が漏れる。

 次の瞬間、アンゴルモアは現代世界から消え去った。

 ソレを見届けた手塚は視線を空へと向ける。

 現代世界の青空は、とても澄みきって綺麗だった。


「また、やり直しか……」


 溜息を吐き頭を掻き毟る。

 手塚至宝。異世界に向かった同級生捜索のために無数の異世界を渡り歩く勇者の旅は、まだ終わりという訳にはいかないようだ。


「とりあえず、先にジャスティスセイバーの方片付けるか」


 小柄な女性は歩き出す。その背中はとても煤けて見えた。


 -------------------------------------


「くくく、はーっはっはっはっはっ!」


 男がいた。

 白衣をはためかせ、盛大な笑い声を発する男は、額に手を当て自分に酔っていた。

 成功した。ついに自分の研究成果が実を結んだのだ。


「見ろ貴様等っ! 貴様らは私を止められん。止められる筈がない。この魔法陣は異世界の邪神を召喚する魔法陣。既に起動した今貴様等の未来は等しく潰えたのだ!! さぁ、目を見開け、座して迎えよ!! かの御方こそ、暗黒邪神、世界を滅ぼす異世界の神、アンゴルモアだ!!」


 巨大な魔法陣が光を発し、一人の男を召喚する。


「さぁ、アンゴルモア様! 目の前の雑魚共を一掃し我らが……は? 人間?」


 半身機械の英雄は、異世界に召喚された。

 意味はよく理解できないが、直ぐ横にいるこの男が自分を召喚したらしい。

 そして、彼を追い詰めるように小柄なメイド少女が一人。

 アンゴルモアの機械が彼女の情報を読み取り、オートマタなどという種族を提示する。

 その少女の頭の上には、ふわふわもこもこの白い動物。

 赤い目を間ん丸に見開きながら、長い耳ごと小首をかしげる。


 邪神というから恐ろしい容姿の見ただけで正気度が目減りしていく邪神を想像していたようで、アンゴルモアを見て、あれ? と思ったようだ。

 アンゴルモアとしても首をひねらざるを得ない。この二人が、敵? いいや、こんな円らな瞳の動物と機械少女が敵だというよりは、このマッドサイエンティストみたいな男の方が敵だろう。


「じゃあ、とりあえず、責任転嫁っ」


 だからアンゴルモアはスキルを発動する。白衣の男に向けて。

 謎の兎と少女との冒険が始まる。

 彼が現代世界に戻り、家族と再会するのは、まだまだ先の話のようだ。

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