表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

256/337

若萌の秘密

「お父……さん?」


 今、若萌ははなんと言った?

 オウム返しに尋ねてしまったが、聞き間違えだっただろうか?

 それとも、危機感を覚え思わずガンナーに助けを求めた……とか?


 狂おしいほどの激情は一瞬で霧散した。

 自分は何をしているんだという葛藤と困惑。若萌の言葉は俺を一瞬で動揺させ、動きを封じてしまった。

 頼む。誰でもいい、俺に説明してくれ。どういう、状況なんだ今は?


 若萌も言ってしまってからしまったといったバツの悪そうな顔で視線を背ける。

 しかし、直ぐに溜息を吐き、観念したように俺を見た。


「お父さん、真名命令、解いてくれる?」


「え? あ、お。おぅ。河上若萌、先程の命令を解除する」


 思わず解除してしまった俺をそのままに、若萌はアイテムボックスから封筒を取り出し俺に見せた。

 女の子がラブレターを書いて好きな人のロッカーに入れるような長方形の便箋だ。

 質素な飾り気のないソレは、封留め用のシールすら貼られておらず、名前も書かれていなかった。


 俺は受け取って封書を開く。

 出て来たのは折りたたまれた手紙が一つ。

 なんだ? と開いて見てみれば……


 ―― やぁ、ジャスティスセイバー。実の娘をレイプ未遂した感想はどうかね。――


 書き始めっ!? まるでこうなった状態を分かっていたようなタイミングの書き方である。

 思わずくしゃくしゃに丸めて投げつけたくなったが、続く文字を見てその手を止める。


 ―― 俺の名はジャスティスセイバー。つまり未来のお前だ。どうせ煮詰まってる状況で若萌に八つ当たりしてんだろうからちょっとアドバイスしてやろうと思う。お前のことだ、いきなり若萌が自分と萌葱の子供だと言われても信じられないだろう。だからその辺りの説明は端折る。どうせなるようにしかならないし、詳細説明すると未来変わるみたいだからな。――


 若萌が……俺と萌葱の、子供?

 俺は思わず若萌に視線を向ける。


「黙っていたのは、お父さんに口止めされてたから……そっちの方が面白いからって」


「未来の俺ェ……」


 自分だけにこう、怒るに怒れないのが何とも言えない。


『つかよ、これ、俺も見ちゃってるけどいいのか?』


 そうだった。こいつ女神の犬だぞ。未来のこと知ってしまったら、ああ、そう思えば若萌が俺に言わなかったことも納得できるのか。


 ―― まず、最初に伝えるべきことは、ナビゲーターは信頼できる。そいつは信じてやればいい。女神への報告も気にするな。報告が向かった時にはもう、奴は詰んでいる。――


 詰んでる? 奴が? いや、今のどう見ても、そうなる要素0だろ。


 ―― 詳しくは未来が変わるから省く。お前がやるべきことを列挙しておく。的確にこなせ、大丈夫、お前はお前の正義を信じるだけでいい。女神に打ち勝つ力は、既にお前に備わっている。何せ俺は、正義の味方、ジャスティスセイバーなんだからな。――


 その根拠の意味がわからんのだが。コイツ本当に未来の俺か? それ自体が一番信用できないぞ。


 ―― 信頼できる者は同じ勇者だ。ギュンターやユクリはこの世界の存在、女神にとっては子供のような者、彼らが闘えるのは同じ子供の人族だけだ。敵の勇者を相手どるならこちらも異世界から召喚された者をぶつけろ。そういう意味で魔神も女神の勇者にぶつけるべきじゃない。――


 それは俺も理解している。それに既に残っている魔神はラオルゥだけだ。

 同じ魔神であるディアと闘えるのが彼女くらいしか居ない以上、勇者共にぶつけるのは確かに得策じゃない。多分そう言う意味ではないのだろうが、俺は勇者にぶつける気はない。


 ―― お前がやるべきことは四つだ。最初にチキサニの話を聞け。彼女の話は若萌では聞けない。聞かせたつもりだろうがお前が直接聞いておけ。重要な話だ。――


 若萌に聞いて貰った筈なのだが、視線を向けると「聞いてないわ」と普通に返された。どうせ此処で聞くことになるだろうから聞かなくてもよかったとか言われても、オイッとイラつく以外に俺が取れる行動は無かった。


 ―― ルーフェンを総大将、副将をムレーミア、軍師に若萌。このメンバーでエルダーマイア近郊にある村を襲え。率いる軍はゴブリン、オークなど、数の多い魔物だけだ。――


 なんだこの命令? 何の意味があるんだ?


 ―― チキサニをフラージャの洞窟に避難させろ。彼女の護衛には稀良螺とテーラ。あと数人は適当に決めてくれ。 ――


 適当ってなんだよ。お前名前書くの面倒になっただろ。どうせ過去の俺が誰を選ぶかは知ってるから名前書かなくてもとりあえず同じ奴選ぶだろ、とか気楽に考えたろ!


 ―― 最後に、シシルシに連絡員を送れ。連絡員はモルガーナ。シシルシへの差し入れとして魔国特産の魔苺大福を送ってやれ。そのうちの一つに化けさせろ。配置は右下端から上に二番目だ。モルガーナにはチキサニ製の毒を持たせろ。それで、決まる。――


 何が決まるんだ? まぁいい、意味は分からないが、とりあえず未来の俺からだというのならこれは信頼出来ることなのだろう。

 まずはチキサニの話を聞いて、毒を分けて貰うか。苺大福に化けるモルガーナが持てる程度だから毒の量はそこまで要らないだろ。その辺りはモルガーナと相談だな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ