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外伝・シシルシの危機

「ったく、なんで魔神が貴族院なんぞにいるんだっつの」


「他の魔族いつの間にか帰ったってさ。ちぇっ。カード少しは揃うと思ったのに」


 女神の勇者四人は魔王を見逃した後、すぐさまルトバニアに引き返し、王城で国王に魔神シシルシを出すように告げた。退治してやると告げる勇者たちに、王は貴族院に送ったと告げる。

 しかも他の魔族は既に魔王城に戻ってしまったらしい。


 武闘大会も途中で散々な結果となり中止。何よりネンフィアス帝国の皇帝が暗殺されたのだ。ルトバニア国内で起こった事だけに後始末に追われており、ルトバニア王に勇者たちへ対応する余裕などなかったのである。

 ソルティアラもいつの間にか姿を消しており、大悟も魔王の元へ向った以上、ルトバニア王のみで後始末をしなければならず、それを終えて城に戻ると勇者たちの謁見申請。まだまだ書類の山との格闘も残っているだけに時間を取られている余裕はなかった。

 なので後は当人同士でなんとかしてくれ。と貴族院の場所を教えるに留めておいたのである。


「ふふ。貴族院と言えばお高く止まったお嬢様たちの秘密の花園。ああ、滾るわ」


「黙っててくれ蛭子さん」


 貴族院の門に勇者たち四人が差しかかった時だった。

 門の内側に沢山の人間がいる。

 なんだ? と思いながら近づいて行くと、学生たちであることがわかった。

 この学園の学生全員が集合し、勇者たち四人の前に立っていたのだ。

 もちろん。歓迎してくれるような雰囲気ではない。


「なんだこいつ等」


「あんたたちにシシルシを倒させないために皆が集まってるのさ」


 校門に隠れていた男女が勇者たちの前に現れる。


「お前、確か魔王と闘ってた場所にいたな。ルトバニアの勇者か」


「ああ。あんたたちがシシルシをカード化するって言ってたからな。ソルティアラと共に貴族院に先回りさせて貰った」


「なんでぇ、勇者の癖に魔族を守んのか?」


「シシルシは世間知らずなだけだ。人の世界で充分暮らせる。戦闘に巻き込むな」


「それに、彼女は既にルトバニアではかなり友好的に受け入れられているわ。下手に殺したりすると人族からも反発者が出かねませんわよ」


 ソルティアラの言葉に、彼らは皆鼻で笑う。

 人族が反発するなら潰せばいい。それだけだ。

 何しろ彼らに敵う存在がいないのだから。どれだけ好き勝手やっても誰も彼らを止められない。


「まどろっこしい。こいつ等ぶっ殺して魔族も殺しちまおうぜ」


「短絡的過ぎよ。女の子は残しといてよ。私がいたぶるんだから」


「お前ら黙ってろ。ルトバニアの勇者と王女さん。俺達は何も君達に敵対しようとしてるわけじゃない。でも魔族は悪なんだろ。だったら倒さなきゃ。いくら無害に見えても魔族なんだ。さぁ、連れて来てくれ。じゃないと、本当にこいつらが動きかねない」


「それでも……」


 貴族院の皆が勇者たちに帰れと睨む。

 これを面白く思わなかったのは永遠だった。

 即座にカードを切ってディアリッチオを呼び出す。


「お呼びですか主」


「面倒なんだ。ここ、潰しちゃってくれる?」


「よいので?」


 確認しながらもディアリッチオは掌に炎を出現される。

 それで攻撃が来ると知った学生たちが青い顔になる。だが、誰も逃げ出そうとしなかった。


「待って」


 ディアリッチオが攻撃をする直前。少女と思しき声が聞こえた。

 永遠もそれを聞いてディアリッチオを制する。


「シシー、ダメよ!」


「戻って。行かないでっ」


 ゆっくりと、皆の制止を振り切って現れる魔神の少女。

 三つ目の彼女は泣きそうな顔で人垣から前に出る。

 その顔を見た瞬間だった。永遠の身体を謎の雷撃が襲った。


「シシー、出て来ちゃだめだ。カードにされる!」


「それでも。皆が殺されちゃうよりは……いいよ。あの、お願いします勇者様。皆には、なにもしないでください」


 儚く微笑むシシルシに、永遠はただただコクリと頷くしかなかった。

 そして、彼女は悟ったように瞳を閉じる。

 肩が震えていた。恐怖に怯え、それでも皆のために自分を犠牲にするのだと強い意志を持って永遠に対峙する三つ目の魔神。そんな彼女を永遠は……


「ディアリッチオ」


「何です主?」


「カードにしたら、この娘はどうなるの……かな?」


「貴方様に忠誠を誓う従順なる魔神となりましょう。その力を存分に振るい、あらゆる敵を排除します」


「止めてっ! シシーにそんなことさせないでっ。もう、これ以上シシーを虐げないでっ」


 学生の一人が悲痛な声で叫ぶ。


「彼女の……人格は?」


「今の彼女……という人格は消えるでしょうな」


 事実、カード化されてしまえば元の性格のシシルシで忠誠を誓うことになる。今の姿のシシルシを今後見せてくれることは無くなる。そういう意味で伝えたディアリッチオだったのだが、永遠には別の意味で捉えられた。

 つまりは、彼女の自我が消されてしまう。


「……だ。ダメだっ。そんなのダメだっ」


 突然叫んだ永遠はシシルシに走り寄る。

 ひっと怯えるシシルシの両肩を掴み、永遠は叫んだ。


「シシルシちゃん。君をカード化はさせない。代わりに、僕のお嫁さんになってくれっ!」


 風見永遠、異世界に来て初めての……初恋だった。

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