魔王VS女神の勇者4
「あ、やっべ殺しちゃったか?」
「あ、でも兄ちゃんあいつからダイアログでてないよ」
「じゃあ生きてんのか。流石にこれ以上するとイジメになっちまうな」
くっくと嗤いながら剣を引く信也。
うぐ……今ので一度死んだらしい。
憤怒と憎悪で染まっていた思考は一気にクリアになった。どうやらあの状態も一度死んだことで解除されたようだ。
「よぉ魔王。流石にこんなどうでもいいところで決着付けちまうとぜんっぜん面白くねーからさ。今回は見逃してやるよ。ちゃーんと玉座にいろよ。追い詰めてぶっ殺してやっからよ」
「ルトバニアの方に魔神が一人いるらしいんだよね。そっち行こうぜ兄ちゃん。カードにするんだ!」
「でもいーのかよ。ルトバニアの奴等に恨まれんじゃね?」
「何、恨まれるのが嫌なの失敗面」
「テメェにまで言われたくねーよサド女。俺ら最強だし、別に恨まれても問題にゃなんねーけどメンド癖ーの嫌だぜ?」
「問題無いさ。何しろ魔王を倒す勇者様が魔神をテイムするんだ。誰が恨むって言うんだ」
信也は他の三人と合流すると、もう魔王に一瞥すらくれずに去って行く。
彼らにとってはこの世界は遊びなのだ。
最強の力で好き勝手に出来る。この世界で生活する者全てが玩具。
遊んで飽きれば捨てて、代わりがいくらでもいるから好き勝手出来る。そんな状況なのだろう。
最終目的である魔王を倒すのもいつでも出来ると確信し、信也は魔王城で決着を付けるまで俺を見逃したようだ。
悔しくてたまらない。だが、対峙して理解した。
奴には勝てない。絶対に勝てない。
俺がいくらこれからレベルを上げたところで、決定的に勝てないチート力の差がある。
よろめきながら立ち上がる。
人魚の血の効果で復活したため体力は全快だ。それでも、今は背を向ける信也たちを見逃すしか出来ない。
悪であるはずなのに、手が……出せない。
ああ、これ程悔しい事があるか? 俺は……やはり正義に成れないのか?
「誠ぉぉぉっ」
「っ!?」
はっと我に返った。
聞こえた声は玲人の物だ。
ガルムが俺に向って来ている。
本能で身体が動いた。
セイバーを作りだし一気に振りあげる。
ぎゃうっと声をだし二つに切り裂かれるガルム。
「テメェ! よくもっ」
「よくも、じゃねぇよ!」
勇者四人が居なくなっても依然俺のピンチはそのままだ。
ただし、玲人が声掛けしてくれたせいでガルムの奇襲に対応できた。感謝しといたほうが良いか?
「玲人、ありがとな、お前の声でガルム倒せたわ」
「ブチ殺すぞ貴様ッ」
自分が声を掛けたせいで自分の配下が死んだと教えられたせいで憤怒に染まった玲人が走る。
俺に向って来た彼の背後から、犬耳女が跳びだした。
危険を察して咄嗟に左に飛び退く。
そこに魔法の着弾。
光子たちがまだいるのを忘れてた。
幸いシールドが仕事してくれたせいで無傷だが。今のタイミングはドンピシャだった。
「魔王、これって不利なんじゃないのか!?」
琢磨の言葉は俺も思った。玲人だけ、あるいはエルダーマイアだけならなんとかなるんだけど……
「大悟っ、戸惑ってるだけなら誰でもできる。シシルシを頼むっ」
「え? あ、ああ」
俺の声にどうすべきか迷っていた大悟が踵を返して勇者たちを追って行く。
これで一人消えた。
あとは遠慮なく倒してもいいんだけど、流石にエルダーマイアの三人は寝ざめが悪いな。あの猊下をどうにかするべきだろう。
となると後は玲人をどうするかだが。
ここで決着を付けるのは他の三人のせいで難しい。一度体勢を立て直すのが得策か。ならっ。
俺はセイバーを手放し後方に飛び退く。
「行くぜ、ジャスティス。轟け、セイバー!」
「逃げる気か!?」
目敏く気付いた玲人が駆け寄って来るが遅い。
「ギルティーバレット」
「ぎゃぅっ!?」
一瞬早く気付いたのは犬耳娘だった。
セイバーが動き出すより速く反応し、玲人の首根っこ引っ張って飛び退く。
玲人の顔面向けて担い手の無いセイバーが突撃するが、ぎりぎり回避されてしまった。
ただ、逃げるだけの時間は稼げたので俺はひたすらに魔王領を目指す。
ルトバニアの関所が見えた頃、向こうが邪魔しようとして来たが、同じくギルティーバレットで切り抜ける。
こうして、ようやく俺は魔王領へと脱出することに成功した。
魔王領側では既にユクリとラオルゥが戻っていたようで、砦を抜け出て来た俺を見つけて寄って来た。
どうやらここで待っていてくれたらしい。
ホルステン達も既にここを抜けて魔王城へ向ったと教えて貰った。
クソ、たった一日で一気にひっくり返された。
女神め。やってくれたな。
この恨みは絶対に返す。百倍返しでだ。
誓いを胸に、俺は魔王城へと帰還した。




