武闘会昼の部5
「青の槍使い選手、退場を! 次の試合を始めますのでっ」
「うっせぇな。次ってなぁ魔物同士だろ。面倒だ。呼べよ。二匹とも倒しちまえば問題ねーだろ!」
「い、いえ、その。試合の形式上……」
呆然としていた俺ははっと我を取り戻す。
ディアに視線を向ける。
ディアも気付いたようで頷き念話を始めたようだ。
「おうおう、テメェ、人族の癖に舐めたことしてくれたなァ」
「ブッコロ確定ですにゃ!」
呼ばれるより早く会場入りするゴルドンとロロン。
「お、来た来た。リザードマンとワーキャットか!」
「ディア様から撤退命令来たけど我慢がならねぇ。魔王陛下、こいつは俺がブッ殺しますぜ!」
「ズオゥの仇打ちですにゃ」
俺が止めるより早く、二体同時に襲いかかる。
しかし、失敗面の槍使いはひゃはっと笑い、一閃。
二体の魔族が血飛沫と共に崩れ落ちる。
「ディアッ!」
「承知」
俺の叫びと共にディアが瞬間移動でロロンとゴルドンの遺体を回収に向う。
一瞬早くゴルドンがアイテム化される。
やられたっ。
ぐっと拳を握る。これは完全な人族からの裏切り行為だ。いや、女神からの宣戦布告だ。
すでにペリカたちの撤退がディアから告げられている。あと残っているのはここに居るメンバーだけだ。
「申し訳ございません。ロロンしか回収できませんでした。今生き返しま……」
「ディアちゃん後ろ!」
珍しく焦った声で叫んだのは戻って来た大悟と一緒にいたシシルシ。
言われたディアが後を見れば、ディアに張り付いている一枚のカード。
「これは……しまっ……」
次の瞬間、ディアの姿が掻き消えた。
「ディア……?」
次々に起こる意味不明の現象に理解が追い付かない。
これも、あれも……お前の仕業か矢鵺歌ッ!
怒りと共に振り向いた先に、そいつは居た。
こちらを見て嗤って……など居なかった。
まるで手持ちの駒が暴走したと言った顔で舌打ちして立ち上がったところだ。
どうした? とネンフィアス王が告げた次の瞬間だった。
ネンフィアス王に、矢を突き刺す矢鵺歌が居た。
「や、やか?」
「御免遊ばせ皇帝陛下」
クスリと嗤い、こちらを見た。
呆然とする俺に、矢鵺歌は今度こそ嘲笑うように笑みを浮かべ、大声で告げる。
「魔王陛下っ、あなたの真名命令によるネンフィアス王暗殺、ここに成就致しましたッ! どうですか陛下! 私、勇者矢鵺歌は、あなたの人形となりネンフィアス王の元に身を寄せ見事信頼を勝ち取り暗殺を成功させましたッ!!」
あ、あの野郎……やりやがった!?
チキサニの矢だ。見つけた矢と同じ形状。見間違う訳が無い。
猛毒付きの矢をネンフィアス皇帝に刺しやがった!?
倒れるネンフィアス王に手を当て、矢鵺歌はアイテム入手ダイアログを引きだす。
待て、止めろッ、ソレ以上は……
俺は思わず掌を突きだす。届かない矢鵺歌を掴んでネンフィアス王から遠ざけようとするように、だが……無情。矢鵺歌はアイテムを入手してしまう。
消え去るネンフィアス王。
魔族にとっては人族の武闘大会で仲間を殺され、人族にとっては魔族が裏切り和平第一人者のネンフィアス王を弑した信用ならない国と認識される。
ああ、確かにこれでは人族と魔族の溝は確実に深まる。
しかも……
ディアを吸い込んだカードが舞台に向って行く。
そこには、青の槍使いの他に、三人の男女が集っていた。
イケメン系の男、ギャルがそのまま大人に成ったような気の強いお水系女、そして、小学生くらいの少年。
少年の元へ向ったカードを彼は人差し指と中指で掴み取る。
事態が動き過ぎて思考が追い付かい。
でも、やらなければならない事だけは理解している。
逃げるんだ。今は逃げなきゃならない。まずはラオルゥとルトラとユクリを……
「おおっ。ラッキー。見てよ兄ちゃん、レベル9999だって! アルティメットマスターカード使っただけはあるぜ! 他のカードだと絶対捕まらないレアものだよこれ! 五枚しかないカード使ったかいはあったね!」
「浮かれるな阿呆。名偉斗もやり過ぎだ。まったく、大会決勝まで目立つなと言われただろう。俺達は女神の使徒なんだからな」
「そうよ。全くこれだから男は。何で女の子が居ないのよ。仲間に女の子がいればよかったのに」
「はっ。むしろ居なくてよかったぜ。テメーと一緒だとズタズタにされるじゃねぇか」
「あら。だって綺麗な女の子の泣き叫ぶ顔とか最高じゃない?」
「黙ってろアバズレ。で、魔王はどこだ? 女神の話だとこの後来るらしい勇者と挟撃して討ち取れってことだけど……」
「へっへー。召喚、ディアリッチオ!」
少年が指先に持ったカードを右から左に切り裂くように動かしながら告げる。
動きの途中で光を放ったカードが人型へと変化。先程消えたディアが少年の直ぐ横に現れた。
それで、察した。
ディアリッチオが、最強の魔神が……敵になったのだと。




