武闘会昼の部4
「大悟、不戦勝!!」
会場にどよめきが起こる。
王族がどうなってる? と聞いて来るが俺にもわからない。
バロネットの奴、何で居ないんだ?
大悟と闘う筈だったバロネットが会場入りして来なかったらしい。
昼の部開始時点では控室に居たらしいのだけど、トイレに行くと言って部屋から出て行ってから戻って来なかったそうだ。
なので試合はハゲテーラとネンフィアス王の闘いに舞台を移してい……ネンフィアス王っ!?
司会に呼ばれた瞬間、客席から立ち上がったネンフィアス王が服というかマントをばさりと脱いでゆっくりと歩き出す。
見学中の一般人を掻きわけるように観客席の縁にやって来ると、そのまま飛び降り会場入り。
王様が闘うとあって一般人から更なるどよめきが湧き上がる。
あの戦闘狂、参加してたのか……
ハゲテーラもといテーラは普通に控室の方から出現し、すぐ隣に降って来たネンフィアス王に驚いていた。テーラには荷が重いかもしれんな。
「がははっ、小娘が相手か」
「バカにしないでくださいっ。私だって魔王近衛兵ですから!」
「その意気や良し。ゆるり楽しもうではないか」
あの魔法を弾き散らす剣を手にして舞台中央にやって来るネンフィアス王。
もはや暴れる気満々である。
対するテーラも結構強気だ。この闘い、息巻いてるみたいだな。なんでだ?
『セイバー。緊急事態』
「若萌?」
『私達は一足先に脱出するわ。魔王城で会いましょ。ディア、魔王軍全軍に通達して、全軍、魔王領に帰還せよ。女神の勇者が会場にいるっ。バロネットがやられたわ』
は?
『予言の書が既に意味を成してない。このままだと、詰みかねないわよセイバー!』
え? どういうこと?
ちょっと待て。理解が追い付かない。
女神の勇者?
「勝者! テーラ!」
意味が分からず混乱した頭に、勝利宣言が響く。会場を見ればネンフィアス王が膝を付いていた。
どうやらテーラの勝利のようだ。
ユクリが俺の隣でこれでは余がハゲテーラより弱いみたいではないかっ。と憤慨していた。
「お次はズオゥ VS 青の槍使い!」
既に司会者は盛り上げるべき言葉すら言わずに形式的に告げて選手紹介省き始めた。
現れたのは巨漢で緑色の男。オーガのズオゥと、どっかで見たことのあるような青い服装のチャラチャラした男。
残念なことに顔は失敗面で、青く染めて無理矢理立たせた髪がまったく似合っていない。
手に持っているのは普通の槍を赤く染めた槍のようだ。ところどころが荒塗のために下地が見えている。本人はカッコイイとでも思っているのだろうがダサい。ダサさしかない。
耳にあるイヤリングは耳に穴を開ける勇気もなかったようで、マジックイヤリングを採用したようだ。
普通であれば、何処にでもいるコスプレ男なのだが……
名前:中原名偉斗 真名:隠蔽とのレベル差があり過ぎて表示できません
Lv:∞
二つ名:自称青の槍使い
スキル:隠蔽、真名無効、隠蔽とのレベル差があり過ぎて表示できません
魔法:隠蔽とのレベル差があり過ぎて表示できません
装備:隠蔽とのレベル差があり過ぎて表示できません
なんだ……こいつ?
「試合開始!」
試合開始と共に走り出すズオゥ。その巨漢から繰り出される一撃で早々決着を付けるつもりらしい。
「くけけ。その心臓貰ってやっぜぇ。なんてなぁ。ヒャハっ!」
迫り来るズオゥに加速した男は突きを放つ。
避けられる速度じゃなかった。
ズオゥの心臓に迷いなく突き入れられた一撃は容易く彼の命を奪う。
思わず俺は立ち上がる。
なんだあいつはっ!
死亡したズオゥを見た司会者が慌てて青の槍使いの勝利を伝えようとする。待機していた医療班もズオゥを生き返そうと向いだす。だが……
男は、アイテム入手ダイアログを出現させると、迷うことなく【はい】を選択する。
呆然と皆が見つめる中で、ズオゥがこの世から消え去った。
男はヘラヘラ笑いながら入手物を確認する。
「チッ。腰布とかいらねぇっつの」
ズオゥのこの世に生きた痕跡を、摘まんで捨てて、足で踏みにじる。
「……ルトバニア王。これは、どういうことだ?」
「わ、私にも何が何だか。ど、どうなっている? 選手には相手を殺した場合アイテムは入手するなと伝えているはずだ! 魔族との懇親会だぞ、こんなことしたら決定的な亀裂になるだろうっ!」
呆然とする俺達をあざ笑うように青い男は自分の勝利を一般人にアピールし始める。
自分は強い。すげぇだろと。唖然とする一般人も今のが異常であると理解しながらも、未だに理解したくないといった顔をした者多数。
そこでようやく、合点がいった。
これが女神の策略。本来、もっと後に呼ばれるはずだった女神の勇者、モシレチク・コタネチクチク・モシロアシタ・コタノアシタが、既に、この世界に呼ばれているということに。




