武闘会昼の部2
「パリィ VS ホルステン、開始!」
第二試合はライジングウルフのパリィとホルステンの闘いだ。
中央軍の兵士と魔将の闘いということもあり、魔族的には注目の一戦である。
中央軍の練兵が勝つのか。はたまた地方で魔将となっている魔族が勝つか。
ここでホルステンが負ければ中央軍の兵士たちが横柄な態度を取って地方魔将を見下しかねないのでここはホルステンが勝ってほしいところである。
開始早々特攻を仕掛けるパリィ君。雷のようにジグザクに移動しながら瞬く間に接近。
パリっとホルステンの来ている防具が帯電した次の瞬間、パリィ君の雷撃。
驚くホルステンが痺れたのを見計らい一瞬で間を詰めての体当たり。さらに喉への噛みつきで勝負を決めにかかる。
「ブルォォォッ」
だが、体当たりを喰らったところでホルステンが咆哮と共に痺れを打ち破る。
噛みついて来たパリィ君の口を上顎と下顎を掴んで止める。
「スマンなパリィ。負けられんのだ。魔将だからな!」
思い切りスイング。
投げ飛ばされたパリィ君はなんとか空中で体勢を整えようとくるりと回るが、着地出来たのは地面であった。
石畳の舞台を飛び越え、会場の半ばまで飛ばされた彼は、満足に闘う前に場外になってしまっていたのである。
「勝者ホルステン!」
くぅーんとしょげかえるパリィ君に歩み寄ったホルステンは彼の頭を撫でながら退場していく。
その姿は犬と飼い主のそれであり、魔族を恐れる一般人達も謎の親近感を感じ始めているようだ。
魔族との垣根は確実に取り払われていると思われる。
「次はえーっと。ネンフィアス帝国兵士、ゲド VS 蟻人族の戦士ベー!! このべー選手、なんと魔族の一般兵だそうです。一般兵士同士の闘いは果たしてどちらが勝つのかっ!!」
ゲドさんじゃん。なんで参加したんだ?
出場して来たゲドは、なぜか俺へと振り向き大声で告げる。
「魔王陛下! この試合勝ったらあの一つ目のお嬢さんを紹介してくださいッ!!」
は?
「ああ。嘆きの洞窟向う時、南側の兵士の一人に一つ目の女の人が居たのよ。ゲドさん惚れたとか言ってて」
「ああそうかい」
若萌がそう言えば。と告げてきた。正直どうでもいい。
「まぁ、気が向いたら紹介してやってくれ」
「本人に伝えておくわ」
二人して溜息を吐く。
これから人族と敵対する事になるかもしれないのに、呑気なモノである。
だが、彼の叫びで一般人達は魔族への溝を少しずつだが確実に埋めつつある。
一つ目の魔族に告る気か? みたいにざわついていたが、妄想したのだろう、男達の数人がそれはそれでありかもみたいなことを考えたようで、妻やら彼女に睨まれていた。
魔族と人族の和平には貢献してくれているのだが、動機が不純なのが玉に傷だな。
ゲドは若萌が頷いたのを目敏く見て、満面の笑みを浮かべると、対戦者のべーへと向き直る。
「へへ、悪いなアンタ。俺の栄光のために死んでくれ」
「ギギ?」
「まーなんかよくわかんねーけどとりあえず始めっぜ。試合、開始ッ!!」
司会者が適当過ぎる。
誰だアイツを司会にしたの。
ルトバニア王に視線を向けると、なぜか視線を逸らすルトバニア王。魔族の闘いだからと適当な司会にしやがったな。
剣を構えるゲドに、べーは槍を構える。
ふぅっと息を整えたゲドが走る。
迫るゲドに槍を突きだすベー。ぎりぎり避けたゲドが剣を振る。
引きもどした槍を再度突き出そうとしたべーは、危険を感じて柄で受け流す。
「へっ、魔族は槍も満足に扱えてねーな。ネンフィアスの新人兵士の方が扱い上手いぜ?」
「ギゥッ」
舐めるなっ。とばかりにベーが槍を突きだすが、ゲドはそれをぎりぎりで回避する。
流石戦闘国家ネンフィアスの兵士と言うべきか、強いな。
べーは中央軍に入ったばかりの兵士だからアイツ相手はちょっと辛いかもしれない。
べー、ロロン、ゴルドン、ズオゥに関しては魔王軍の実力を人族に勘違いして貰うためにレベルをそこまで上げてないのだ。なので普通の兵士であるゲドでも充分に太刀打ち出来ているのである。
「勝者ゲド!」
そうこうしている内に、ついにゲドがベーの喉元へ剣を突きつけた。
そこで試合終了。ベーも困った顔で槍を手放し両手を上げる。
結構一方的だったな。ベーも結構頑張ってたはずなんだけど、終始ゲド優先だった。
「へっへ。これであの子に告白出来るぜ」
「ギギ。いろいろ勉強になりました。次会う時は必ずや勝ちます」
ゲドに礼をして、先に去って行くべー。これからまた基礎から鍛え直しだな彼女。頑張れべー。
ゲドは舞い上がるようにスキップしながら退場していく。
次はメイクラブとギーエンの闘いになる。空中戦になるだろうこの闘い、どっちが勝つか見物にはなるな。ところでチキサニ。さっきから何回オナラしたら気が済むんだお前はっ。




