次への布石3
「よぉ……」
近衛騎士団に指示出しを終えた俺が自室へ向おうと会議室を出たところだった。
MEYとラオラが待っていた。
会議が終わるまで待っていたのだろうか? 若萌たちと話し合いはどうした?
「どうしたMEY」
「もう一度、確認したくて。ホントに、矢鵺歌が女神なの? あいつさ、あんたと若萌が居なくなった時、自分が悪いんだって凄く辛そうにしてたんだぜ。そのままふらふらと魔族領に向かっちまったし……信じられねぇよ」
「俺だって、あいつがとか言われても信じたくなかった。だが、実際ロシータの部屋にあいつはいて、その近くにロシータは居なかった。ロシータの血付きの毒矢が部屋から見つかっている。そしてあいつは真名を交換しようとしてロシータが破裂したと言った。どう、言い訳してもアイツが犯人にしか思えない。第一、俺の居た世界の未来から来た若萌がアレが女神だと認めてる」
「そりゃ、そうかもだけど……」
「それに、あいつは絶望的な状況を好んでる。本当に、辛そうにしてただけだったか?」
俺の言葉にむぅっと考え込むMEY。しかし、顔は見てないようだ。
力無く首を横に振る。
「私は、ちょっと信じたくないよ……」
「そうか。だが警戒だけはしておいてくれ。エルフの森だって安全ではあるが絶対じゃないんだ」
「うん、分かってっし」
肩を落としたMEYを労わるラオラが背中を押して若萌達の居る場所へと向かって行った。
「魔王、少し話ある」
「チキサニ? まだあるのか?」
MEYとの話の間黙って聞いていたチキサニ。俺の後ろに居たので気付かなかったが、こいつはやっぱり俺に着いて来るつもりのようだ。ほんと、なんでこんなに気に入られたのだろうか?
「誰にも言っちゃいけない。お前だけへの話だ」
「俺だけ?」
『あー、それって俺も知らない方がいいんじゃね? 俺、女神が起動したら全部報告しに行くことになるぜ? 俺って女神が与えたスキルだし』
ちょっと待てナビゲーター。お前それ、聞いてないんだけど!?
とりあえずチキサニと共に部屋に戻る。
チキサニが話すのをちょっと待って貰い。想定外のことをくっちゃべったナビゲーターを相手取る。
「おい、どういうことだよナビゲーター。テメェ女神のスパイなのか?」
『スパイも何も、俺はお前に与えられた女神からのスキルだっつったろ。お前の知った情報を逐一女神に報告するスキルでもあるんだよ』
「聞いてねぇよそんなこと。つかそれってつまり俺の行動筒抜けじゃねぇか」
『女神様がアバター抜けだした瞬間に向こうに情報が送られるんだ。俺ってば仕事に忠実だからな』
死にやがれ糞ナビゲーター。
へらへらと笑うナビゲーターを殴り飛ばす。当然ながら透過してしまいダメージにならなかった。
『ようするにだ。情報手に入れても俺が報告しちまうから今回の重要報告はお前が知らない方が上手くいくんじゃね? ってことだ』
「……お前、その情報、なぜ俺に言った? 言わなければ女神の一人勝ちだっただろ」
『今は、お前のナビゲーター。味方だからな』
こいつっ。本当に殴り飛ばしたいが、コイツからこの情報を聞けただけでも確かにこいつは俺の味方でもあるんだろう。
ともかく、コイツの居る場所で俺が重要な話を聞くのはマズい。
チキサニの話は、ディアに……いや、ディアは確か未来で……若萌が一番か。
念話で若萌に連絡する。
アイドルの話で盛り上がっていたようだけど、緊急要件で呼び出させて貰う。
チキサニに彼女が来る間に要件の重要性を訊ねておいたが、本当に知っておかないとマズい話らしい。
でも、今の俺にナビが居ると分かると、別の信頼できる勇者に伝えたいと言いだした。
勇者じゃなければいけないらしい。
「待った? 重要案件って聞いたけど、何?」
「ああ、チキサニがまだネタを持っていたらしい。俺も聞きたかったんだけど、ちょっとマズいことが判明してな」
ナビゲーターのことを若萌に伝える。
俺が一番信用できるのは、現時点コイツだけだろう。
何しろ萌葱の娘だと分かっているし、目的もはっきりしてる。
この世界の住人は女神が生み出した者たちなので土壇場で使い物にならない可能性がある。ディア達魔神にも伝えるべきじゃないだろう。なのでディアには若萌と俺の念話を全て切って貰った。
「なるほど、ナビか……スパイがこんな身近にいるとはね。まだ、いたのね」
「まだってなぁお前……」
「気付いてなかったみたいだから伝えておくけど、皆に配った書類は武闘大会から人魔戦争開始直後辺りまでしか書いてないわ。しかも、誤報も混ざっている」
「あん? なんでまた?」
「裏切り者がいるのよ。私も話を聞いただけだから誰かまでは分からないけど、未来でチキサニから貰ったノートの内容、全て女神に漏れて意味を成さなかったことを思い出したわ。思い出したといえるか分からないんだけど、父さんが呟いてただけだったからあまり重要じゃない話だと思ってた記憶があるの。考えれば女神側のスパイがまだ居るとしか思えないのよね」
「んなバカな。あの会議に出てた連中に女神側のスパイが?」
「たぶん。だから、武闘大会。きっと私達の目論見は向こうにばれて対策を練られてる。あいつのことだから今回であなたに女神とばれても気にせずアバターで居続けるでしょうね。ネンフィアスにいるし所詮ゲーム感覚だもの」
「となると、十中八九ルトバニア王が暗殺されるのか?」
「そこまではなんとも。どうにも最近記憶が曖昧になってるというか、もしかしたらこの時期の変革のせいで私の知識も代わりだしてるのかも。未来が着実に変わってるってことなのかしら? とにかく、スパイが判明しないと重要な話はできないわ。今回の予言の写しで分かればいいけど。難しいでしょうし」
女神の奴、いろいろ画策してやがるんだな。俺だけだったらまず間違いなく敗北ENDしかなかっただろう。若萌が居てくれてよかった。
俺はチキサニと若萌を残して部屋を出る。チキサニの重要案件はこれで若萌だけが知ることになるはずだ。




