次への布石2
「神……ですか?」
良く分かっていないらしいトドロキが思わず告げる。
他にも数人理解していない顔の者はいるのだが、魔将たちは女神と言われても理解できないのは仕方無い。
一応共通認識しといて貰おうと思っただけだ。
「この世界の神……か。随分性根の腐った者のようだな」
「この世界を創造したのがそのような存在と言うのがまたなんとも……あの女勇者も女神のせいで? いや、でも……」
ギュンターが困った顔で、ラオルゥは何やら思案し始める。
「弓羅矢鵺歌は女神のアバター。この世界を自分の足で歩き嘆きを直接見て体感するための寄代だ。アレを殺したところで意味はない。女神が神である以上この世界に存在するもの全てが奴の掌の上だ」
「それは……どうしようもないということですか?」
ラガラッツは一番早く理解できたのだろう。青い顔をし始める。
「現状、彼女を討つ手はない。魔王軍の方針は見て見ぬ振りとなるだろう」
「随分と弱気だな余の夫よ」
「まぁな。今はまだ女神がアバター状態だからそこまでの被害は出てないが、下手に刺激して箱庭の外から干渉されると詰むのはこっちだ」
現状、本当に何も出来ないのが悔しい。
「とにかく、女神に関しては勇者で密談しながら対策を練る。それよりも今は魔王軍の基本方針だ。預言書を見てほしい。ルトバニアで行われる武闘大会の項目だ」
「対策を練るということは何かしら対抗できる可能性はあるのか?」
「蜘蛛の糸をたぐるようなモノだがな。細いが倒す術が無いわけじゃない」
「それより、大会に出場する者は特に良く聞いておいて」
「武闘大会の決勝終了辺りで勇者玲人によるルトバニア奇襲が行われるらしい。そこでルトバニア王が暗殺される。これが切っ掛けとなり魔王軍と人族軍に決定的な決裂が生まれる。和平交渉は全て白紙に戻り、玲人の操る魔物が魔王軍の差し金だとして魔王軍は人族の総攻撃に晒されるらしい。これを、魔王軍で阻止する。このためスクアーレ、カルヴァドゥスは大会出場する魔族に戦闘だけではなくもしもの場合にルトバニア王の護衛を行うよう徹底してくれ」
「「はっ」」
「魔王近衛部隊の方は後で詳細を詰める。特に出場予定のハゲテーラとペリカはその時の行動を決めるからしっかりと覚えておいてくれ」
頷くハゲテーラとそれを窘めながら返事を返すペリカ。ハゲテーラはまだ軍人としての気構えは希薄だな。
「ルトバニア王が危険なのでしたらシシルシに任せればいいのでは?」
「シシルシは王女の方の護衛に向ける。ここには書かれてないが大悟だけじゃ不安だからな」
それに、シシルシには他にも色々とやって貰っているのでこれ以上仕事を増やしたら怒りだしかねない。
「それで……玲人の出現方向なんだけど……」
大会の配置位置についてはこの辺りでいいだろう。
後はネンフィアスに身を寄せた矢鵺歌が問題になるのだが、犠牲者を出さないためにチキサニは俺の側に、若萌と稀良螺はペアにして、あとは……
色々考える事が多くて面倒だな。
これからの方針を色々と伝えて会議を終える。
内容は若萌としっかりと吟味して、伝えるところはしっかりと伝えられたと思う。
会議終了後、四方魔将は任地に返し、中央軍のスクアーレはギュンターと軍の打ちあわせ、これにユクリとコルデラも同行して行った。
魔神達はディアとルトラはディアの家に転移して、ラオルゥは少し考えたいと自室に戻った。
エルフ族には関係のない会議だったのだが、まぁアイドル系の話を詰めるってことで残っていたMEYとラオラだっけ? が稀良螺と若萌と一緒に若萌の部屋に向って行く。
そして残ったのがエルジーとチキサニ、ムイムイ、ペリカ、ハゲテーラ、マイツミーアである。
「魔王、少しいい?」
「エルジー? なんだ?」
「女神と言うのがどういう存在か、私には分からない。教団が信仰する女神と同じなの?」
「ああ。おそらくその女神だろう。この世界の女神様ってのはホント救いのない神だな。それを信仰してる奴等はなんと惨い仕打ちか……」
ふぅっと椅子に深く腰掛ける。
エルジーは冷めた目でじっと俺を見ていたが、不意に立ち上がると、すっと部屋を出て行く。
なんだ? 俺の監視してなくていいのか?
「陛下、近衛騎士団は別行動と聞きましたが?」
「ああ。と言っても基本俺の側で俺達の護衛をして貰うことになる。ペリカとハゲテーラは選手に選ばれているからそっちを優先だ。選手側から守れそうなら守る程度の心持でいい。それよりも重要なのが……ムイムイとマイツミーアだ」
「わ。私か」
「にゃーですにゃ。魔王陛下しっかりお守りしますにゃ」
「いや、俺を守る必要はない。今回の護衛対象はチキサニと稀良螺だ。ムイムイは悪いが稀良螺の護衛を頼む。稀良螺の場合は玲人の襲撃や女神だけじゃない。宗教国家エルダーマイアからの刺客もありうる。周囲全てが敵。くらいの思いで警戒してほしい」
「うぅ、また無理難題を……」
「マイツミーアはチキサニだ。こちらもレシパチコタンからの刺客が来る場合がある。とくに奴らは毒を得意とする種族だ。かすり傷一つ負わないよう、チキサニもそうだがお前自身も気を付けてくれ」
そう、今の俺には護衛は必要ない。何せ、まだ十回程死ねるしな。




