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魔王軍報告会5

「まず、自宅で魔王陛下を持て成したあと、自宅で一息ついていた時のことですわ」


 昔を懐かしむようにロシータが告げる。

 そういえばコイツが連れ去られたのは俺達と会った直ぐ後だったな。引き返した時にはもう全てが終わっていた。


「勇者の一人でしたか、あの男のスキルで男に惚れ、屋敷内の男達が殺される姿を笑いながら見ていました。今でも自分の下劣な行いを思い出してしまいますわ」


 忌々しそうに告げるロシータ。確かに辛いだろうな。

 自分と共に過ごしていた部下達が死ぬのを、自ら望んで見ていたことを覚えてしまっているのだから。正気に戻った後、どれ程の後悔があったことか。


「それからメイドたちと共にあの男に付いて行き、ムーラン国の牢屋に繋がれましたの。おそらくもうしばらくすれば真名を奪われ傀儡と化していたでしょうね。それが嫌で、私は私自身を真名で縛ろうとしましたわ」


「おや、それはおかしいのでは、自分で真名を縛ることは基本出来ないはず。いえ、まさか、自爆するつもりだったので?」


 顎をさすりながらディアが尋ねる。ロシータは神妙な面持ちで頷いた。


「はい。私は次に真名を奪われた場合自害するよう自分を縛るつもりでした。ですが、死を覚悟した次の瞬間、空から彼が現れました。不幸神アンゴルモアが」


 ゴクリ。矢鵺歌の喉が鳴る。アンゴルモアに何かしらあるのか? 目が恐くなってるぞ?


「ふむ。奴が現れたのならお前達が消失した理由は不幸に巻き込まれた。と見ていいのか?」


「彼は言いました。もしも死ぬ事こそが幸せと思うのならば、自分の手を取れと。彼の言葉はずっと覚えております。不幸を願え、絶望を願え、死を願え。ならばお前に不幸を与えよう。飛びきりの不幸をくれてやる。俺の名はアンゴルモア。不幸に付き纏われし男だ。と。あの時の私にとって、彼の言葉はあまりにも救いでしたわ」


 まるで愛しき者を思い出すように、瞳を閉じて胸に手を当てるロシータ。


「それで……なにがあったの?」


 矢鵺歌がかすれた声で告げる。

 その言葉には、なぜか棘が混じっていた。


「世界を、飛び越えましたの」


 は?


「突然牢屋を包み込む魔法陣が現れ、私と、メイドたち全てを巻き込んで、異世界に勇者召喚されましたわ」


 魔族が勇者召喚って……アンゴルモア、お前の不幸は世界すら飛び越えるのか……


「その世界で人族の王に救いを求められ、魔王軍と闘うことになりましたの。相手のレベルは100にすら満たないモノでしたので闘い自体は問題ありませんでしたが、途中でアンゴルモア様とは離れ離れになってしまいまして。魔王を撃破した私たちは一足先にこの世界に戻ってきましたの」


 んで、アンゴルモアは若萌たちがキマイラだっけか? ソレと闘ってる場所に現れてキマイラ連れて行方不明と……ホント忙しない男だ。おそらく、いや確実に俺の知っている奴なのだろう。

 この世界で不幸に成りながら、周囲の人々に幸福を分け与えているんだろうな。


「戻って来たのは何も無い荒野でしたの。周囲を探りましたがムーラン国の影も無く、しかし地理的にその辺りだと思われますのよ。そこから海に向って北側に海辺を沿って移動しましたの」


 南に行けばもっと早めに着いてたのか。その場合ルトバニアに保護されていたので向こうに弱みを一つ握られていただろうが、ノーマンデ側から戻って来たのでむしろ結果オーライだ。

 ノーマンデはギーエンみたいな陽気なおっさんが多いらしいからな。和平が成った今なら喜んで通してくれたことだろう。


 その後はサイモンの報告にあったとおりだろう。彼女の闘いに付いても聞いてみたくはあるが、その辺りはガールズトークで盛り上がればいいと思う。

 さて、後は俺の報告でいいかな?


「じゃあ、俺から……」


「イランマッカオソマ ポロンノ アシニ」


 俺が話すタイミングでチキサニが戻って来た。

 腹を満足げにさすりながらやって来たチキサニは、迷うことなく俺の膝に座って来る。

 定位置のつもりかコラ?


「さっきから何なんですかその人は。オソマオソマって、トイレのことですかっ」


 稀良螺がなんか切れた。いや、気持ちは分かるよ。お前話を悉くチキサニに潰されたもんな。俺も今のかなりイラッと来たよ。


「ん? オソマはウ○コのことを差すレシパチコタンでは普通に言うぞ?」


「魔王さん、そもそもその変な女性は何で連れて来たんですか! 会議を中断するしかしてないじゃないですか! しかもなんでそんな汚い言葉連呼してるんですか!」


「いや、こいつは……」


 一応レシパチコタンの姫巫女様なんだけどな? 


「レシパチコタンでは幼名に汚い言葉を使用する。小さい頃から友人や自分がオソマなどと呼ばれているし呼んでいるからオソマに対してクアニはそこまで忌避感はない。ちなみにクアニはオパタチェプルセプ。下痢便をオパタッチェ口に含んで吹きかけるエプルセと呼ばれていた」


 嫌な幼名だな。


「ちなみにウェプチはフチヤイコオソマ。祖母の寝糞と呼ばれてた」


 俺、レシパチコタンに生まれなくて良かったと思った。


「何でまたそんな名前を……」


「レシパチコタンでは子供の頃に病魔が近づかないよう、汚い名前を付けることにしている。六歳頃に性格やその子供の起こした出来事等にちなんで正式な名前を付ける。私は黒の聖女に会ったことでチキサニの名を貰った。ウェプチは自分で名前付けた」


 いろんな名付け方があるんだなぁ……そう感心するくらいで、俺にとってはどうでもいい話だった。

 本日のアイヌ語

イランマッカ=立派な、素晴らしい

ポロンノ=たくさん

アシニ=出る

エプルセ=何かを口にふくんで吹きかける

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