魔王軍報告会4
―― 若萌様より内密の相談だそうです ――
不意に、そんな声が脳内に届いた。
かちりと回線が繋がる感覚があった。おそらくディアの念話だ。
『セイバー、聞こえる?』
『どうした若萌? 皆には言えない事か?』
『意味は分からないだろうけど話を合わせて。他の人に稀良螺の疑問を植え付けないように話を終らせたいの』
意味が本当に分からん。だが、若萌が珍しく俺に頼るのだ。稀良螺の疑問とやらは彼女にとってあまりいい事にはならないことなのだろう。
稀良螺に付いて疑問を後押しするべきか、若萌を信じて火消しに走るか。
ふむ……
『ディア、悪いんだがチキサニと直通で会話できるか?』
『畏まりました』
「ふおっ!? エヌワーっ!?」
「な、なんですかチキサニさん?」
折角話の腰を折ってまで疑問を提言しようとした稀良螺だったが、突然叫びだしたチキサニにより自分の話の腰も折られたようだ。
『あー、あー。聞こえるかチキサニ』
『お。おお? セイバーの声が頭の中に響く……喋らず思い浮かべろ言われた、こう?』
『それでいい。とりあえず俺がお前の身体に二度連続で触れたら話を中断させてほしい。得意だろ?』
『それだけでいいのか。クアニ了承』
俺達がそんな話をしている内に、稀良螺が話を始めた。
どうやら内容としては、ボス戦中、矢鵺歌の動きがおかしく、まるで仲間を危険にさらしているようだったのだとか。
若萌が反論して、矢鵺歌がゲームに熱中した時と同じ感覚で動いたせいだと告げる。
矢鵺歌を挟んで口論を始める二人、とうの矢鵺歌は困った顔で虚空を見つめている。
まるで肯定すべきか否定すべきか迷っているようだ。
つまり、迷うということは何かしら稀良螺の言葉に思うところがあるということでもある。
ふむ。何も知らなければ俺も稀良螺の言葉を促していただろうな。
「ふむ。矢鵺歌。少しいいか?」
「え? ええ。何?」
「お前もしかしてあれか、ギーエンとかいうおっさんに惚れて助けられるためにやってたのか」
「なっ!?」
「おや、赤くなるところが怪しいですな」
俺と若萌の話を聞いていたディアが乗って来る。
意味が分からず呆然とする矢鵺歌を放置して、稀良螺と若萌に声を掛ける。
「そら、アホな事で盛り上がってないで次行くぞ次。とりあえず若萌、話の続きを……」
「まだ私の話が終わってませんッ!」
食い下がったのは稀良螺。何でこいつはここまで矢鵺歌を敵視してるのだろうか?
いや、まぁ、自分達も殺されかねなかったのだから仕方無いのか?
「ふむ。もしかして稀良螺殿もギーエンを?」
「はあっ!? 違いますっ、何言ってんですかラオルゥさん! 私は……」
そこで俺はチキサニの背中を二回トントンと叩く。
「クアニ、エソイネ!!」
「へ?」
突然上げられたチキサニの声に稀良螺が言葉を止めた。
「あ、あのチキサニ、さん?」
「オソマ行きたい、オソマ、オソマッオソマッオソマッ! 魔王、オパタッチェ出そうっ!!」
「あーうん、ペリカ、たぶんトイレだ。連れてってやってくれ」
「あ、はいっ」
チキサニよ。話の腰を折れとは言ったが、はしたないぞ変態娘め。
ペリカに連れられ去っていくチキサニを見送り、俺は溜息混じりに若萌に促す。
稀良螺がまだ何か言いたそうだったが、取り合ってくれる気配がないと気付いたようで押し黙る。
若萌を睨んでいたが、若萌はただただ淡々と話を行うだけだった。
「では私の番ですね」
若萌が報告を終えると、嬉々とした表情で庭自慢を始めるディア様。ペリカ達が戻って来るまでしばし楽しげなディアの歪な魔木設置状況を聞くことになった。
エルフの楽園がなんか酷い感じになってそうだな。
まぁ、その辺りは死ぬことと比べればいいほうだよな。
「ルトラが随分やつれて見えるが、大丈夫か?」
「き、気にするな。僕様は丈夫なのさ。ディア様の作業を手伝えるのだからむしろもっと役に立ちたいくらいさ」
「ほぅ、では魔木として聖樹の色どりに……」
「ディア様。僕様はもっと自分の足で歩きながらディア様の役に立ちたく思います!」
「ふむ。確かにルトラ程必死に働いてくれるものはいないな。これからもよろしく頼むとしよう」
「は、はいっ!」
あー、これはもう完全に下っ端根性植え付けられてるな。
可哀想だが幸せそうなルトラを拝んでおいてから、俺は次の報告者、ロシータに視線を向ける。
彼女が今まで何をしており、どうやって戻って来れたのか。
さぁ、話して貰うとするか。
俺は別に戻って来れただけで問題はないと思うのだが、一応、何してたか聞いておかないとな。アンゴルモアが関わってるらしいし。
しかし、あのみか……名前なんだったっけ。まぁアンゴルモアでいいか。あの野郎本当にこの世界に来てるってことでいいんだよな?
本日のアイヌ語
エヌワ=どこから
オパタッチェ=下痢・下痢便




