魔王軍報告会2
「北はディア様の森から魔物を連れ出し人族にぶつける方法を止め、魔族領側に兵士二人、人族側に人族の兵二人を設置して関の代わりにしております。魔族領側キャンプに一応未だに兵士を配置したままにして、今はブルータースとメロニカを中心として見回りなどを行っております。今のところ人族領から攻めてくる気配はなく、つい先日エルダーマイア行きのノーマンデ軍とネンフィアス軍の帰還を確認、そのまま人族領に返しました。あと、そちらに居らっしゃるロシータさんが人族領からメイドたちと現れたので保護して魔王城にお連れしました」
「どうせ報告会が行われるだろうからと二、三日ここに泊って貰うことにした。北の方には連絡を入れているので大丈夫だ」
サイモンの言葉が終わるとギュンターが俺に告げる。
まぁ、そんな事はどうでもいいのだが……そうか、ロシータはそっち方面から戻って来たのか。
「ロシータが何故そちらから戻って来たのかは疑問だが彼女の話はまた後で報告して貰おう。サイモンからの報告は以上か?」
「はい。他に変化はありません」
「わかった。ではラガラッツ、頼む」
「はっ! ただ、私はこういう会合が初めてなので報告が上手くできるか不安ではありますが……」
「なに、今まで東の天幕で行っていた報告をそのまま言えばいいだけだ。もう少し気楽に構えろ」
物凄い汗を掻きながら告げるラガラッツにカルヴァドゥスが告げる。元上司の言葉に幾分顔を和らげ、深呼吸を一つ。ラガラッツが報告書に目を落とす。
「兵士達はケーミヒが隊長となり練兵中です。和平が結ばれたので時折ルトバニア王国の兵士と練兵等を行うようにしています。互いについ先日まで闘っていた間柄なので未だぎくしゃくとしておりますが、かなり両国の間柄は狭まっているかと」
「ふむ。だが相手はルトバニアだ。仲を深めるのはいいが情報を与え過ぎるな。いつ裏切るか分からん相手だから」
「はっ。その辺りはシオリアと話し合いながら特殊訓練など見せるべきではない練兵法は我が軍のみで行っております。また。一部不審な商人が出入りしようとしていましたので捕えてあります。どうやら奴隷商がルトバニアより流れて来ているようですが、いかが致しましょう? 一時的に捕獲しておくにもそろそろ限界で」
「ルトバニアに抗議文と共に送り返してやれ。文句をいうようなら魔族の奴隷売買は貴国とは行わないと契約書に有る筈だと言ってやれ。それでダメなら俺が出向く」
「ではそのように」
ラガラッツの報告は細かかった。しかし、彼らが何をして何処に金を振り込み何を目的としているのか、とても分かりやすく、不正すらできない事細かな説明に思わずギュンターやネンフィアス皇帝が唸る。
「魔王よ、あのゴブリンの男、ウチにくれんか?」
「誰がやるか。ネンフィアスの宰相が泣くぞ?」
「ハゲ散らかした男なんぞ泣かせておけばよい。あれほどしっかりとした文官は稀だぞ。今まで埋もれていたというのなら儂がほしいわっ」
ラガラッツの頭の良さと誠実さは俺が先に見つけたんだ。ネンフィアスにやるものか。
「さて、では次は私でよろしかったですかな?」
「ああ。南に赴任して早速で悪いが、頼むぞカルヴァドゥス」
「はっ。我が軍の平均レベルが上がった御蔭で橋の警備は今までより楽になりました。重症患者はディア様に治して戴いておりましたため南に移動しても問題無く、エルダーマイアとは敵対のままであるため攻め寄せて来る兵士達相手にミクラトルァやバロネット、メイクラブが喜んでおります。あと、初めから南に居たホルステンはなかなか使える武将ですな。腕力は高く知能も働きます」
ホルステンか、あいつ結構知能高かったのか。それは知らなかった。脳筋扱いしてたよすまん。
「エルダーマイアは未だに我が軍への攻撃を行ってきております。他国が魔王領を通る際紛れこもうとしたエルダーマイア兵が居ましたがルーフェンにより摘発され拷問。他にも数人いることを聞きだしそれらも捕えました。彼らは拷問は行わず纏めてエルダーマイアに送り返しておきました」
「そうか。ルーフェンよく摘発できたな?」
「はい。魔王軍への目を見れば直ぐにわかりました。奴等の敵意は他の兵と全く違っておりましたので。出来れば全員血祭りに上げてやりたいところでしたが拷問途中でカルヴァドゥス隊長に見つかってしまって……」
いや、むしろカルヴァドゥスが良く止めてくれた。
「まぁ、なんだ。よくやったルーフェン。工作員の混入を未然に防げた功は大きい。何かしらの褒美がいるかもしれんな」
「ベネーラコースト! 魔王陛下にお褒め頂くなど恐悦至極にございます。本来ならそれだけで満足といいたいところですが、ここは欲を出させていただき、できましたらアルダードを所望したくございます」
「アルダード?」
「我が国で採掘できる魔鉱石の一つだ。爆発しやすいので扱いが難しくてな。なかなか離れた場所に持っていくのが難しい」
ギュンターの言葉にふむと頷く。まぁ、そのくらいなら別にいいか。
でも、相手がルーフェンっていうのがなぁ、不安だ。




