ターゲットなき暗殺部隊
「来るぞ!」
俺の声と共に矢が放たれる。
毒付きの矢だ。
当然ながら物理結界を展開したユクリが御者台で仁王立ちする。
彼女に任せてしまってもいいのだが、俺は御者台に出るとそのまま幌の上に飛び乗る。
「何者だ貴様等!」
男達は俺の言葉には答えず、黒装束で口元を塞いで無言で矢を射る。馬で来ているせいでパカラパカラと盛大に音が鳴っているのが耳障りだ。
完全な手慣れの暗殺者たちだ。しかも全員死を覚悟してる。
おそらく魔王達に殺されることは既に想定済みなのだろう。チキサニさえここで殺せれば問題無い。そう思っているのだろうな。
「チキサニが狙いなら諦めろ。既にここには居ないぞ? なんなら幌を見てみるがいい」
俺の言葉に初めて動揺が見られた。
男達の一人がおっかなびっくり幌へと向かう。
力任せに幌内を隠す布を取り去ると、そこにはラオルゥとマイツミーアだけがいた。
当然ながらチキサニはいない。
「バカな!?」
「驚いている場合かお前ら。魔王の馬車に襲撃を掛けた以上どうなるかは分かってるんだろうな?」
「くっ」
慌てて逃走を図る黒装束の男達。馬首を返したその刹那、彼らの目の前にラオルゥが佇んでいた。
「どこへ行こうというのかね?」
おお、名ゼリフ。ラオルゥは知らないようだけどそれはフラグだよラオルゥさん。追い詰めたつもりで絶対取り逃がすな。
「くぅっ」
男達は動揺しながらも右回りにラオルゥを回避しようとする。いや、一部が左に回り込む。
しかし、右にはマイツミーア。左には宙に浮きながら滑空して来たユクリが現れる。
後ろには骸骨馬車と俺。
完全に囲んでしまった。
男達は諦めることなく、もはやここまで。とばかりに剣を引き抜く。というか、それ山刀だよな。短刀の。
どう考えてもレシパチコタン出身者ですと自己主張している暗殺者たちは、自分の失態を気付いていないらしい。
「愚か者どもめ。剣を抜いたらもう逃げきれんぞ」
逃す気はないけどな。とラオルゥが動き出す。
迫り来る黒装束たちを踊るように剣撃を交わしながらその腕を引き、馬から引きずり降ろす。
時に馬に拳を突き入れ押し倒し、蹴りを使い山刀を弾き、一人二人と男達を投げ捨てて行く。
ラオルゥが取りこぼした敵はマイツミーアが猫パンチ。
ユクリもマイツミーアの居ない方へと逃げた敵に魔法を打ち込んでいく。
一瞬で9人が無力化された。
残る一人が中心で佇んだまま、俺に視線を向ける。
「どうした暗殺者」
「チキサニを、何処へ?」
「お前らが来るだろうと予測してな。ディアリッチオに頼んで先に魔族領にお連れした。しかし、自国の姫巫女に対して随分な仕打ちだな。帰ってウェプチに告げるがいい、今回の魔王襲撃の件は厳重に抗議させていただくとな」
「なっ。我々は奴らとは関係が……」
「その山刀を使った時点で俺にとってはレシパチコタンの人間だ。特徴のある武器だからな。それに治安維持が出来ていない証明でもある。やはり注意させて貰わねば他国に示しが付かん」
「ぐっ……」
「折角レシパチコタンと関係ない感じにしてるところ悪いが、残念だったな。お前達の思惑はまるっとお見通しだ」
「くそっ、かくなる上はっ!」
馬を足場に跳ぶ黒装束。
山刀を構え俺に向って飛んでくる。
「消えろ魔王ッ」
「ロードセイバー」
「なっ!?」
武器を持ってないから丸腰とでも思ったか? 残念。俺はいつでも武器を呼び出せるんだよッ。
手にしたセイバーを思い切り振る。
咄嗟に山刀で受けた黒装束の男は、しかし山刀ごと切り裂かれ血飛沫を上げて絶命した。
「ふむ。前足に力を入れた見事な上段斬よ」
「いや、これは唐竹割りといって真上から降り下ろす技で……まぁいいか」
生存者はラオルゥが引きずり降ろした五人か。充分といえば充分だな。
ひとまず念話でディアをもう一度呼び出す。
流石に何度も呼んだせいかムッとしていらっしゃったが、魔木候補をお供えしたら喜んで回収していった。
折角なので一人だけ残して、仲間が魔木化する様子を見せておいてあげる。
これで魔王に攻撃したらどうなるか、レシパチコタンの奴等に知らせてくれるだろう。
ちなみに絶命した奴らもディアさんが生き返して回収していった。全員魔木化して飾るそうだ。
俺達は怯える黒装束の男一人を放置して再び馬車に乗り込む。
彼を放置して骸骨馬車は魔族領向けて発進した。
ただただ震える彼は、レシパチコタンへの連絡役として伝えるべきことは伝えておいたのだが、大丈夫だろうか?
まぁ、脅迫まがいに伝えておいたから死に物狂いで上司に報告してくれるだろう。
残念だったなウェプチ。お前の思惑通りに進まなくて。
地団駄踏んで悔しがるウェプチを思い浮かべながら、俺はマイツミーアを愛でるのだった。




