表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

220/337

ウェプチの誤算

「それでは、行ってまいります」


 ふかぶかと頭を下げるチキサニ。その姿はまるで狩りにでも向うかのようだ。


「早く帰って来い。贄の儀は近い」


「……はい」


 ウェプチの言葉に沈んだ顔で応えるチキサニ。贄の儀。そこで贄になるのが誰なのか気にはなるが、まず彼女を戻す気はない。このまま魔王城で匿うことにするつもりだ。


「にしても、随分と重装備だな」


 ユクリの言葉にチキサニが頷く。


「武器としてシヤラハ、タシロ、メノコマキリは欠かせない。愛用のエキムネクワとツチアカシは持ったし、アイはツチアカシに入るだけ入れた。サラニプには必要な物全部詰め込んだし、イタニとシッタプはフチから貰ったモノ。このイタタニは外せない」


 順々に視線を動かしながら告げるチキサニ。弓。短刀二つ。山杖、矢筒に矢、サラニプはリュックの事らしい。祖母から貰ったらしい良く分からない二つと木で作ったらしい簡易まな板を確認し、満足げに頷く。

 準備は完璧らしい。


「全く、山籠りでもするつもりですか。魔王陛下。くれぐれもチキサニに怪我をさせぬように。移送中に万一死なせたとあっては外交問題ですぞ」


 心配そうにいうウェプチ。顔と言葉通りに受け取るのならチキサニを心配してのことなのだが、チキサニの言葉を聞いた後では別の意味に捕えてしまう。

 つまり、魔王国へ帰るまでの帰り道に気を付けろ。チキサニを殺しに行くぞ。と。そしてそれを魔国のせいにして自国に有利な和平交渉をもう一度行わせろと。


 骸骨馬車にチキサニを乗せ、ユクリ、ラオルゥが後に続く。

 ウェプチに形ばかりの挨拶を終え、俺が馬車に乗り込むと、マイツミーアが最後に入ってきた。

 一応護衛なので俺が安全に馬車に乗り込むまで周囲を警戒してくれているのだ。


 ユクリが馬車の御者台に乗り、馬車が発進する。

 それを見送ったウェプチは即座に近くに居た男に何かを告げている。

 そして足早に去っていく男。

 うん、物凄く怪しいな。


「あー、あまり今は頼るべきじゃないんだけど、ディア、聞こえるか?」


『おや魔王陛下。今丁度エルフの村で魔木の配置をしているところですが、いかが致しました?』


「ああ、これから魔王城へ帰るところ何だが、すまんがちょっと先に送って貰いたい者が居るんだ。悪いんだけど転移でこっちに来てチキサニをギュンターの居る場所に送って貰えないか?」


『む、仕方ありませんな。ほかならぬ魔王陛下のお頼みとあらば』


 ディアと俺は常時会話が出来るように回線を繋いでいる。これは俺が頼んだことだ。

 ディアと話したいと思うだけで普通に脳内会話ができるから楽なのだ。もしかしたら思考が駄々漏れなのかもしれないが、相手がディアなのでまぁいいかと思っている。


 しばらくして、ディアが転移でやってくる。

 なぜか他にも二人やって来た。MEYと彼女の知り合いらしいエルフだ。

 女エルフは俺を見付けると警戒感を露わにする。

 多分MEYに変なことしないようお目付け役感覚で付いて来たようだ。


「ディアは随分楽しそうだな。我はセイバーとラブラブちゅっちゅで楽しんでおるぞ」


「御蔭さまで、随分とインスピレーションを刺激されていますよ陛下」


「そりゃよかった」


 ラオルゥのどうでもいい話を無視して俺に一礼するディア。


「それで、いかがしました? チキサニとやらを魔王城に送れということですが。彼女はレシパチコタンの巫女ではありませんでしたかな?」


「ああ。なんか亡命したいらしい。で、これからこの馬車襲われるみたいだからさ、万一を考えて魔王城に先に向かわせようかと」


「成る程、流石は魔王陛下。襲撃した場所に目的の人物がいないとなれば意義が無くなってしまいますな。相手の目的がチキサニ暗殺から魔王暗殺になりますしね。それをダシにレシパチコタンを支配するつもりですか?」


「まさか。厳重抗議で済ますさ。これは後の貸しにする」


「支配するのではなく裏から操作ですか。流石は魔王陛下」


「悪どいなぁセイバー」


「魔王はウェンカムイだったの?」


「お前らな……」


 つかMEYとエルフさんが凄く所在無げにしてるじゃないか。何のために来たんだこいつらは。


「で、そこのエルフどもはなぜ来たディアよ?」


「ラオルゥには関係の無いことですが、せっかく行くなら陛下にお目通りしたいと言われたので、お連れしました」


「そっか。なんかゴタついてて悪いなMEY」


「いや、その。なんだ。ディアさんが魔王城へ時々連れて行ってくれると言ってくれてるからソレを伝えておきたくて」


 頬を掻きながら顔を赤らめ話すMEY。ラオルゥがムッとしていたが、ディアが魔王城に向う旨を告げると邪魔にならないようにと一緒に移動していった。

 チキサニも連れて行って貰い、この部屋に居るのはラオルゥと俺、そしてディアが来るので俺から離れて護衛任務に付いていたマイツミーアだけになった。


「セイバー、何か来るぞ!」


 御者台からユクリの声が聞こえた。

 どうやら暗殺部隊に追い付かれたようだ。

 俺は御者台の方に出て周囲を見る。

 1、2、3、4……10人はいるな。

 本日のアイヌ語

シヤラハ=弓

タシロ=山刀

メノコマキリ=女性用の短刀。男性用はマキリ

エキムネクワ=山杖

ツチアカシ=矢筒

アイ=矢

サラニプ=リュックのようなもの

イタニ=掘り棒

シッタプ=鹿の角で作った小型の鶴嘴

イタタニ=肉切り用まな板

ウェンカムイ=悪神

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ