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魔王の少女補完計画

 チキサニの願いは袖を振るには少々見過ごせない願いだった。

 電波系少女を救うかどうかなのだが、下手に救うとレシパチコタンとは敵対する事になるだろう。なにしろ巫女様を拉致するわけだし。


「ふむ。拉致というが、それでは我が国とここが敵対関係になるだろう」


 頭の丸ごと煮を俺達の視線が逸れた瞬間ラオルゥのお椀に入れたユクリが告げる。

 ラオルゥは丸ごと煮が気に入ったらしく喜んで食べていたので、マイツミーアもラオルゥに差し上げていた。

 お前ら、やっぱ喰う気にならなかったのか。美味しいらしいのに。


「別にクアニ……私一人いなくなろうとウェプチは気にしません。むしろ自分が名実ともに実権を握れて喜ぶでしょう」


「なんだ。その、実権はもう掴んでるんじゃないのか?」


「いえ。我が国はあくまで巫女の言葉優先です。クア……私がいる間は彼は自由に国を動かせません。でも、彼はすでにウェングル。テイネポクナモシリへ向う悪しき者です。だから……人を殺す事に躊躇いはありません」


 つまり、巫女が邪魔だから排除する。そのくらいはあのウェプチという男が迷わず実行出来ると。


「なら、なんであんたは今まで生存できている?」


「まだ、毒が致死量になっていないだけです。ある程度はオソマと一緒にアシンルに流しました」


 意味が分からなかった。思わずオウム返しに毒? と尋ねてしまう。


「私の食事には毒が混じっています。口に付ける箸にもお椀にも。少量の毒は既に私を蝕み。やがて死に至るでしょう。先代も同じように死にました」


 おい、待て。それは……毒殺か。こいつはそれを気付きながらも毒を摂取し続けてるということか?

 本当に、救いがねぇなこの世界は。

 震える腕を必死に止める。心の奥底で悪を倒せと何かが叫ぶ。


 押さえろ。今は奴らを悪だと断罪すべきじゃない。

 そもそもこの女が嘘を言ってる可能性だってあるのだから。いくら酷い話を聞かされようと相手を一方的に悪と断罪するわけにはいかない。

 俺が悪だと納得できる存在以外に、正義は振るわない。振るってはならないと……


 ――だからお前は偽善者なんだ――


 いつか、首領と呼ばれた女から言われた言葉がフラッシュバックした。

 ラナリアという名の秘密結社に所属した時、面接で言われた言葉だ。その時は俺自身が正義を信じられなくなっていたので反論すらできなかった。たぶん、今なら図星を突かれたようでくってかかっているいるだろう。どの道、俺は偽善者だ。俺の正義は多分どこかが間違っている。それは分かっている。分かっていてその正義を貫いているのだ。


「わかった。ただし、拉致はしない」


「それは……」


「チキサニが魔国に興味を示した。だから連れて行く。チキサニが満足したら帰す」


 そう、別にわざわざ拉致をする必要はない。彼女から魔国に来たい理由を作り、連れて帰ることにした。それでいい。


「チキサニはユクリとマイツミーアを連れて荷物を纏めておいてくれ。ウェプチには俺とラオルゥで対応する」


「よかろう。ところで厠はないか?」


「厠? アシンルのこと? ならメノコル案内する。ついでにエ オカケ アノカイ エソイネ」


「む、我はこちらか?」


「荷物纏めるの手伝えるのか?」


「手伝えはするが見えないからな。面倒臭い」


「時間もかかるだろうしな。今回はこっちを頼む」


「仕方無い。まぁ、セイバーと二人きりだと思えば。よいかなぁ?」


 くっくと笑いながら身体を寄せて来るラオルゥ。マイツミーア分の頭の丸ごと煮をここで食べる。やめて、そんなリアルミイラ俺に見せないで。


「失礼、お待たせした」


 ウェプチが戻ってきた。


「こちらが我が国からの要望書。あとこちらは了承可能なものと不可のものです」


「ふむ。軍同士の合同演習はなし。商人の流通も不可か」


「我が国は我が国のみで成り立っておりますので、未知の食材や道具を持って来られるのはむしろ迷惑なのです。よって大使館の設立も、申し訳ありませんがお断りさせていただきたく思います」


「ふむ。しかし要望書には我が国の武器を輸入したいとあるが?」


「弓矢が欲しいのです。狩りに使うのですが、我が国では鉄製武具を作成できないので、二、三あればそれでよいのですが、いかがでしょう?」


「ギュンターと相談になる。一度持ち帰ることになるがいいか?」


「構いません。出来れば、でよいものですので」


「あと、この生贄をささげないというモノだが……」


「我が国では神に生贄を捧げる風習がございます。奴隷はいませんが生贄は許容されておりますので、魔国に生贄を送れ。ということを禁止にするという言質をとってほしいと。長老会が」


「ふむ。ああ。そうだ。先程チキサニと話していたのだが、彼女が魔国を見てみたいというのでしばらく連れて行くのは生贄に当るのか?」


「チキサニが?」


「うむ。俺以外にも異世界の者がいると言ったら是非にと。もう約束した手前連れていかない訳にはいかないのだが……」


 うわ、露骨に嫌そうな顔したぞこいつ。隠れて舌打ちまでしやがった。


「それは……彼女を下手にこの国から出すのは……」


「なんだ? 王と王の約束を違えろと? それとも巫女は王としての能力を持たんのかな?」


「い、いえ、巫女の言葉が我が国では絶対で……わかりました。しかし早急に戻っていただくように……」


「彼女が満足したら帰そう」


 ぐっと言葉を飲み込むウェプチ。俺はスーツの中でニヤリと笑みを浮かべるのだった。

 本日のアイヌ語

ウェングル=悪人

テイネポクナモシリ=地獄

アシンル=便所

メノコル=女性用便所

エ=おまえ

オカケ=~後に・~のその後(オカケヘとも言う)

アノカイ=私・我々(直訳では、「私も~」)

エソイネ=ウ○コしに行く


ちなみに作者にアイヌ語の会話知識はないので単語をくっつけただけです。

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