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魔神の庭のエルフ達6

「じゃあ、魔木の世話頼む」


「え、ええ。毎日三食の水。それだけでよろしいのでしたな?」


 俺は湖の畔で長老さんと会話していた。

 少し離れた場所には青い顔をして魔木化したエルクスを呆然と見つめているエルフ達。

 まさに一瞬だった。

 自分たちの見知った仲間が、次期族長とされていたエルクスが木へと変化する姿はエルフ達のトラウマと成っただろう。


 噛みつく相手を間違えたことによる代償はあまりに大き過ぎたようだ。

 どうもMEYの知り合いの女エルフがそのエルクス君の妹さんだったらしく、縋りついて泣きついていたが、ディアの怒りに触れたということで魔木化を戻す事はなくディアは去って行ってしまった。


 あまりうざったくディアに泣き縋ると彼女まで魔木化させられかねなかったのでMEYが引き止めた。御蔭で彼女は無事だし、一週間程したら自動で解けるようにしておきましたと後から念話が届いたから問題は無いだろう。

 ちなみに、他の三つの魔木化した魔族たちもエルフ達により世話されることとなり、エルクスの横に並んでいる。正直この魔木が聖樹の近くに存在しているというのが驚きだが、ディアさん曰く、ここは仮置き場で、いい場所が決まったらそっちに持っていくそうだ。


 一応女エルフの方には一週間後に元に戻ること告げてやったので暴走する事は無さそうだ。

 あとはエルフとディアの話し合いになるのだろうが、人族領で決まったように、ディアの森は人族も手を出す事は無いので安全性は世界で一番有ると思われる。

 多少の不自由はあってもディアの機嫌を損ねずここに居付いた方が安全だろう。


「ところで、今更なのですが、あなたは結局何者なのです?」


 去り際、長老様が不安げに聞いて来たのでジャスティスセイバー、ただの勇者だと告げようとした。けどなぜか稀良螺さんが魔王ですよ。と気を利かせたようにして告げていた。

 そう、長老様は知ってしまったのだ。エルクスが噛みついていたのは太古の魔神様だけでなく、現魔王様にも噛みついていたのだと。

 平伏する長老様に他のエルフが気付かない内に、俺達はエルフの森を後にした。


「誠っ」


「ん? ああ、どうしたMEY」


 森に入り少し歩いた時だった。

 後から追って来たらしいMEYが走り寄って来た。

 俺達が止まったのを確認して、立ち止まって息を整える。


「い、行っちゃうのか、もう?」


「一応これでも現魔王様なんでね。この後人族領の王様連中と和平交渉しなきゃならないんだ」


「い、一日位、別にいいんじゃ……」


「それに、エルフ達も俺達とは居たく無さそうだからな」


 危険人物扱いされてしまったからな。まぁ、仕方無いっちゃ仕方無いんだが、俺らが来なかったらディアさんがなんだこの邪魔なものは、消えろ。くらいの気安さで殲滅してただろうし。

 でも、これからはエルフの集落には来づらいな。


「で、でも、折角会えたのに……」


 残念そうに告げるMEY。その彼女に、俺ではなく矢鵺歌が口を開く。


「なら、一緒にくればいいわ」


「矢鵺歌?」


「でも、MEYさんは来る気は無いんでしょ?」


 それは、俺達全員が感じたことだった。

 MEYはエルフと俺達の話し合いの時、殆どエルフ側に居たのだ。

 つまり、彼女もまた、既に居場所を選択した身なのである。


「そ、それはその……」


「いいんじゃないですか。エルフの生活、MEYさんには合っているんでしょ」


 MEYは迷った顔で視線を彷徨わせる。俺達と一緒に行きたい思いとエルフの集落にずっといたい。その思いはきっと同じぐらいなのだろう。

 彼女自身その思いの大きさに戸惑っているようでもある。


「そうだな。ディアの方に伝えておくか。魔王城の謁見の間に直通出来る通路か何か出来ないか聞いてみよう。別にこれが今生の別れってわけじゃないんだし」


「そうです。ロシータのような事にはならないですから」


「ろしーた?」


 ぽかんとしたMEYの顔に、あっと困った顔をする矢鵺歌。言うべきじゃなかった言葉を言ってしまったようだ。


「その、もう会う事も出来ない命の恩人なんです」


「……えーっと、そうじゃなくて。あのさ、もしかしてだけど、アレの理由、あんたたち知ってるんじゃない?」


「あれ?」


 何かを思い出したようにMEYが歩き出す。付いて来て。と言われてしまうと、行かない訳にはいかなそうだ。俺達は折角の別れをキャンセルして、再びエルフ村へと戻るのだった。

 戻った先に居たのは家に戻って来ていたらしい女エルフ。MEYと共にやって来た俺達を見て眼を白黒させていた。


「おいおい、なんだこりゃ?」


 エルフの住居。ログハウスのように建てられた家の中央に、御神体よろしく飾られたロシータのパンティは、シュールを通り越しある種の神々しさを発していた。

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