魔神の庭のエルフ達3
エルフたちとの話し合いは、先程の広場で行われるようだ。
お前らふざけんな。と思わず言いたくなったのだが、さすがにいきなりそんなことを言う訳にも行かない。
MEYを助けてくれていたこともあるのだし、落ち着こう。まずは深呼吸だ。
こいつ等は悪じゃない。悪じゃないんだ。怒るな俺。
広場には大量のエルフが座っていた。
男女分け隔てなく座っているし、子供エルフもかなりいる。
どうやら本当に全員集合しているらしい。
MEYも女エルフと隣合って座っており、俺達と眼が合うとにこりと笑みを浮かべた。
「お待たせしたなお客人」
「本当にな。まぁ、こちらもアポ無しで来たんだ。仕方無いと思っているさ」
「あぽ? 何かしらの種族言語かな? まぁいい。とりあえず、要件をお聞きしよう」
「ふむ。要件と言ってもな。魔神ディアリッチオが大切に育てている庭に巨大な木が生えている事に気付いてな。ディアが景観を損ねるから破壊しようとしたんだ」
ざわつくエルフ達。中には憤慨している奴もいるが、お前ら今どういう状況か全く分かってないだろう。
「魔神ディアリッチオの森。本当に、ここはそのような場所なのですか」
「ああ。ソレは保障する。こちらの主張は簡単だ。ディアの怒りに触れないよう早急にこの森から出て行って貰いたい」
「ふざけるなっ! いきなり現れて景観を損ねるから出て行け、だと!?」
「もちろん、我が魔族領にいる住人として場所は用意しよう。住みやすい環境の場所に住居を移すだけだ。何か不満があるとは思えないが」
「ふむ。魔族は我等を殺そうとしていると思っていたが、生存を保障するというのかね?」
「長老!?」
エルクス煩い。さっきから若者代表みたいにいちいち突っかからないでくれます? そろそろムカ着火ファイヤーぐらいの怒り具合だよ?
というか、一昔前のこの怒り具合の台詞、全然怒りを表現できてないよなぁ。余裕あり過ぎる怒りだよ。
「魔族がエルフを攻撃していたのはあの森にいたからだ。あそこは人族との境だったからな。まぁ、今は人族の砦が立っている訳だが。要するに、エルフ自体をどうこうするつもりは魔族には無いのさ。奴隷化する必要性もないしな。なんなら魔王国の城下町にでも住むか?」
「我等は森の民。残念だが魔族の暮らしに慣れるとは思えんよ。森の方がいい。そして、ここから出て行く事も無理だ」
「ん? どういう意味だ? 出て行きたくない。ではなく無理?」
「我等エルフは聖樹と共にある。聖樹が枯れる時エルフ達もまた死滅する。その聖樹様がこの地に根を降ろされた。ならば我等は聖樹と共にこの地で生きるしかない。例え魔神の怒りに触れて滅びるのだとしても、な」
なんか、ややこしいなエルフ。聖樹がこの地に根を降ろしたから動けないってか。
俺はユクリとラオルゥを見る。
「ふむ。そういう種族だというのならばあそこに見える聖樹が動かねば動くことは出来ないと言う事だろう? ならばもう、諦めるしかなかろ」
「ディアを説得するしかないのではないか。セイバーに任せるぞ我は」
うーん。とりあえずディアを呼ぶか。
と、俺が念話を入れようとした時だった。
「長老、このような輩に媚び諂う必要はありません。我等は誇り高きエルフ族。最後の一人となろうとも魔神と刺し違えるつもりで闘いましょう!」
いや、お前、俺がわざわざ交渉しようとしてんのに、根本から潰すなよ。
「エルクス。控えよ。お前は魔神という存在の恐ろしさを知らなさすぎる」
「魔神などに怯えるなどどうかしています。魔王だろうが魔神だろうが、邪魔する存在は叩き潰しエルフの森の平和を守るべきなのです。そこの赤い悪魔! この森にエルクスありと知れ!」
「いや、あのな……はぁ。面倒臭ぇ。わかった。お前を叩き潰してから話をしよう。エルフのプライドは最初にへし折っておかないと話も出来んらしいしな」
「なんだと貴様。先程から偉そうにして、貴様のプライドこそへし折ってくれる」
激昂したエルクスが立ち上がる。
長老が困った顔をしていたが、直ぐにエルフ達に指示を出して広場に戦場を作りだす。
「しかし、よろしいのですかな? エルクスはこの集落最強の存在でありますがな」
「ほぉぅ。そのエルクスがセイバーに勝てると本気で思っているのならお笑い草だな。良いぞ。あのエルクスとやらが我が夫に勝てると言うのならば余が率先してディアリッチオ様に懇願してやるさ。それよりも覚悟しておいた方がいいぞ。お前達のどうでもよいプライドが、折角差し伸べた手を払いのけている事実に。どうなるか余は楽しみだがな」
ユクリと長老が隣合い、エルフと魔族軍に分かれて観戦するらしい。
今回は真名命令はなしだ。実力で潰してやろう。
『それはいいけどさぁ、手加減してやれよ。今のお前のレベル。ディアとの対戦で4000越えてんだからさ』
ああ、そうだった。一撃当てたら殺しかねないんだ。手加減に気を付けないと。




