魔神の庭のエルフ達2
「MEY……?」
思わず生きていたのか。と続く言葉が出そうになって慌てて飲み込む。
その台詞は言ってはいけない気がした。
矢鵺歌からは行方不明、大悟からは死んだと聞かされていただけに、再会できた奇跡に反応が出来ない。
向こうも同じらしく、はらはらと涙を流しながら俺を見つめている。
「MEYさん……嘘っ、生きてたんですか!?」
気付いたのは矢鵺歌。思わず口から出た言葉で、MEYが我を取り戻す。
「ちょっと矢鵺歌、それってどういう意味よ! 勝手に殺すなしっ」
くってかかるMEYに矢鵺歌が謝っている。
突然の事に呆然とするエルフたちとユクリたち……ああ、ユクリはなぜかまた候補が。とか悔しげにMEYを睨んでいる。
何の候補だよ?
「あの、MEYさんはなぜここに?」
「え? あー、その。竜巻に遭ってね。エルフたちと巻き上げられてここに落下したのよ。エルフが言うにはアンゴルモア様のお導きだってことらしいわ」
「アンゴルモア?」
思わず聞き返す。
おいおい、アンゴルモアってどっかで聞いた名前だな。この世界でなんであの野郎の名前を聞くことになるんだ?
まさかと思うが、あの野郎この世界に来ちまってんじゃないだろうな?
同姓同名な可能性もあるし、俺の知ってる奴じゃない可能性もあるが、竜巻とアンゴルモアとなるとあの野郎しか思い浮かばないんだよなぁ。
「おい、MEY、知り合いなのか?」
「エルクス? ええ。こちらは誠で、こっちが矢鵺歌。あたしと同じ勇者よ」
「そうか。だが今は案内をせねばならん。再会うんぬんは長老との会議が終わってからにして貰いたい」
「あ……ごめん」
呆気に取られた顔で思わず謝るMEY。あの顔は意味分かってない顔だな。何で怒られたんだ? と疑問が浮かんで見える。
MEYを放置するように仏頂面で俺達に先を行くよう促すエルクスは、一瞬だけ俺を睨んできた。
……なんか俺、睨まれるような事したか?
MEYも付いて来るかと思ったのだが、重役会議に呼ばれる程の地位は無いとかで、同行させて貰えなかったようだ。
ちょっと憤慨気味だったものの、知り合いらしいエルフの女性が迎えに来たようで、避難場所に戻って行った。
案内されたのは木で出来た家だ。
周囲の木を切り開いたのだろうか? ディアさん怒らないかな?
とりあえず、案内されるままに来たのだが、どうやらここで会議が行われる訳ではないらしい。
待合室になるのでしばらく待っていてほしいと言われた。
これからエルフ全員で話し合いがあるんだと。
それってさ、MEYここに連れてきても良くね?
なんか、エルフって面倒臭い存在だな。ぴきっと青筋浮かんだぞ俺。
折角再開出来たのに、なんだろうねこのエルフの態度。
「それにしてもMEYさん無事だったんですね」
「ああ。矢鵺歌もこれで肩の荷が下りたんじゃないか?」
「……わかります? ふふ。ずっと皆がバラバラになったの私のせいじゃないかって思ってましたから。でも、MEYさんが無事でよかった。少しだけ、気が楽になりました。元気そうでしたし、あの様子ならエルフたちに無碍に扱われてると言ったわけではないみたいですし」
確かに、周囲のエルフに怯える様子も無く、まるでエルフの一員といった立ち振る舞いだったな。
あの様子なら元気に過ごせていたんだろう。
もしも虐げられていたならエルフ達はディアの怒れるままに任せるつもりだったが、MEYを保護してくれていたのなら無碍にする訳にも行かない。まぁ、これからの態度しだいだが。
「しかし、客に茶もでんとはエルフ共は何を考えておるのだ。仮にも魔王とその妻が訪ねておるのだぞ?」
「そうむくれるなユクリよ。我等がどういう存在かなど彼らに分かるまい? ディアがディアリッチオであると知っている者も少なかったようだしな。ただ、全員で行う会議だそうではないか、一時間以上かかるのではないか?」
「マイツミーア、悪いがしばらくモフらせてくれ。待ち時間が長引くとイラついてしまいそうだ」
「わ、私でよければどうぞですにゃ」
少し緊張した面持ちで床に座った俺の膝に寝そべるマイツミーアの背中を撫でる。
ああ、癒される。
やっぱり、元の世界にもし帰る事があれば猫買おうかな。
結局、会議が終わるまで二時間ほど待たされることになった。
暇と怒りが募る面々は、皆がマイツミーアをモフることで怒りを鎮めていたが、流石に二時間ずっとだとマイツミーアの癒しだけでは足りないな。
ユクリは俺の側にいることでさらに癒されていたそうだが、ラオルゥの奴にいじられた俺のイラつきは残念ながら増えただけだった。
エルクスに呼ばれ、激おこぷんぷん丸位の怒り具合で向う俺。エルフ共が話の分かる相手である事を切に願うよ。いや、マジで、なんかもう、滅殺でもいいんじゃないか。とすら思えて来てるし。待ち時間長いんだよっ。




