全国王会議3
幾つかの国が魔族との和平を申し出て来た。
弱小国が多い、ネンフィアスという大国が和平を結ぼうとしているからだろう。この機に困窮している自国にも新しい風を受け入れたいと思う国が多いようだ。
殆どが君主制とか王様が国の方針を決める国だな。
と、ディアに相手国の名前と場所を記録して貰っていると、一人の少女が手を上げた。
今回唯一参加している少女だ。
注目を集めた少女に変わり、その背後のおっさんが口を開く。
「我がレシパチコタンは我々だけでは判断しかねる。一度持ち帰ることになるが、連絡する場合はどうすれば?」
「そうだなぁ。魔王領まで来いというのはアレだしな、ああ、ルトバニア王、ルトバニアに使者を送って貰っていいかな?」
「我が国にか!?」
「既に和平を結んでいる国であり人族領にある、魔族領に来るよりは来やすいだろ」
「確かにそれはそうだが……」
というわけで、後から和平交渉をしたい国があればルトバニアに使者を送るということで決まった。
これで、この機会を逃しても大丈夫、と聞かされた国々が安堵の息を吐く。
きっと自分の一存では決めたくない事柄だろうしな。一度持ち帰って自国でゆっくり考えると良いさ。
「ところで魔王」
「なんだ、ネンフィアス皇帝?」
「和平が成った暁には、合同で嘆きの洞窟に兵を派遣しないか? 少し前に各国で洞窟に兵を送れるという話になっているのだ」
「なっ!? ネンフィアス、正気か!? 魔族軍を嘆きの洞窟に入れるなど……」
「ふむ? 問題はあるまい。彼も国王であり、一つの国なのだ」
ニヤニヤと笑みを浮かべるネンフィアス皇帝。何のつもりで俺の兵を連れて行こうと居ているのか分からないが、ふむ。嘆きの洞窟か。
正直ルトラを撃破するだけで兵士については問題無いのだが……折角だし数名送るか。
でも万一の可能性あるしな。持ち帰って相談だな。
「流石に今直ぐに決める訳にはいかんがギュンターと相談してみよう。おそらくこちらの許可は取れるだろう」
「おお、素晴らしい。ならばぜひとも魔神の一人と洞窟に挑みたいモノだが、いかがだろうか?」
魔神と一緒に? ああ、なるほど、魔神の力をその目で見ておきたいということか。
「どう思うディア?」
「そうですな。私は魔王陛下と予定がありますし、ラオルゥあたりに話を振ってみては? ルトラでは暴走の危険がありますし、シシルシはルトバニアでしょう?」
予定? ああ、そう言えば森の探索行くとか言ってたな。アレって和平終わった後でいいのか?
ふむ、どうやらそれでいいようだ。
ラオルゥか。もしも可能だったら他にも数名送ってみるか。全員1500は行ってるからレベル上げにはならないけど。
「魔神からだと出せるのはラオルゥだろうか。本人と交渉することになるから確定は出来んがそれでよければ」
「それは楽しみだ。魔神と呼ばれる存在の力を一度見てみたくてな。かといって敵として闘うのは御免被りたい」
「確かに、我等の実力を知らせるには丁度良いかもしれませんな。私は別に気にしませんが。人族に魔神とはどういうものかを教えておくいい機会です。これで我が領地に紛れこむような人族が居なくなると思えば、ラオルゥにはしっかりと実力を見せつけて貰わねば」
俺よりディアの方が乗り気じゃないか。
でも、人族が魔神の力を知れば、その怒りを買う領地侵入はしないだろう。
といっても、見る限り、ディアの領地に向おうなんて国は居ないみたいだけど。
「ダメだ……」
ん? 不意に、かすれた声が聞こえた。
誰かと視線を向けると、おお、そういや居たなエルダーマイア教国。
既に交渉相手から外していたので忘れてたよ。
「絶対にダメだ! 魔族を我が国に入れるだと!? ふざけるなよ魔王、ネンフィアス!」
「あー、そういえばエルダーマイアの領地だったか嘆きの洞窟があるのは」
「よいではないか、魔族の力でさっさと滅亡させてやれ。なんなら手伝ってやろうか? 占領した領地の一部をネンフィアスが貰ってやるが?」
くっくと笑みを浮かべるネンフィアス皇帝。こいつは魔族云々よりも自分の領土を広げることしか頭にないらしい。隙を見せれば魔族領にも食い込んで来るな。その辺りだけ気を付ければ一番付き合いやすい国だろう。正義と呼べる存在ではないけど、俺の世界にもこういうのは居ただろうし。
「ネンフィアスは離れて居るではないか! 何が戦争だ!」
「ふっ。分かっておらんなエルダーマイア。我が軍は侵略するとなったら何処へでも向うぞ? 邪魔なモノを蹴散らしてでもな。ノーマンデは魔族領への橋を一時開け渡して戴きたいモノだが、どうであろう?」
「戦争前提で話を勧めるなネンフィアス。ノーマンデは貴様等に屈する気はないぞ?」
ネンフィアス皇帝のせいで再びギスギスし出した。
切っ掛けはエルダーマイアとも言えるけど、さて、どうするか?




