全国王会議2
会議室内はかなり険悪な雰囲気になっていた。
戦慄する空気に耐えきれず、数名の王が青い顔をしている。
対立しているのは、俺、魔王ジャスティスセイバーとエルダーマイア教国猊下。
エルダーマイアの猊下様からこちらに攻撃が来たので反論しただけなのだが、俺が悪だと告げた瞬間エルダーマイア猊下は儂、神様の声が聞こえるんだ、だから儂が善だ。などと言いだした。
正直こういうのは話を聞いてくれない狂人である可能性があるんだよなぁ。こんなの国の代表にしちゃうなよ。
「まるで狂人の戯言だなエルダーマイアの猊下様は」
「っ!!」
「だが、神が居るかどうかについては否定はせんよ。神と呼べる存在は俺も知っている。まぁ、アレを女神と呼びたくはないがな」
クラスメイトの一人を思い浮かべ、俺は深く腰を付ける。少し身を引き身体を正すと、エルダーマイア猊下を見下ろすような視線にする。
「で? エルダーマイア猊下。あんたは魔族と和平を結ぶことは絶対に無理だというのだな。エルダーマイアは魔族と徹底抗戦。どちらかが滅ぶまで闘うと?」
「ふ、ふん。こちらは既に魔将を倒す実力がある。拮抗する今、貴様等に媚びる必要などないのだ」
エルダーマイア猊下は何か勘違いしてないか? 俺は威圧的に和平を結ばせようとしてるわけじゃないと先程から言っているんだけど?
「陛下。どうやらあちらは兵士のレベルを700にしているから魔族など楽に滅ぼせるとでも思っているのではありませんか?」
「ディア? いや、さすがに一国の猊下様だぞ、そんなアホみたいな……」
「あ、アホとはなんだっ! 我が国の兵は本当に平均700レベルを超えている! 貴様等魔族など魔族領から駆逐してくれるわ! 我が神の名において、魔族は全て滅ぼしてくれる!!」
「いうじゃないか……」
感情を押し殺す俺に対し、激昂したエルダーマイア猊下はようやく自分が言いきった言葉を理解し、周囲の王族が非難めいた顔をしているのに気付く。
確かにエルダーマイアは700越えの兵士を要しているのだろう。しかし、他の国は100レベルを越えるだけでも数人居るかどうかである。
「で? 他の国々も同様なのかね?」
「それは、ノーコメントとしたいところだな。こちらはかの国程の戦力はないとだけ言っておく」
代表するように応えたのはネンフィアス皇帝。やはり帝国の主なだけはあり他の国よりも恐怖耐性があるらしい。魔族の群れが本気で攻めてくるかもしれないと恐れる各国が押し黙る中、一人発言して来た。
「だろうな。嘆きの洞窟を一人占めしていたエルダーマイアの暴走だ。井の中の蛙は自分は最強だと勘違いするモノだ。今回だけは狂人の戯言と受け取っておこう。メーレン王だったか? 次の議題を頼む」
「え? あ、はい。え、えーと……」
「次の議題など用意してはいないだろう。折角だ。今魔国と和平を結ぼうと思う者はこの機に魔王と和平交渉の約束でもしてはどうだ? どうだ魔王。我が国と交渉を行わんか? お前の領地からは北北西に存在するネンフィアスだ」
厳ついおっさんはクックと悪どい笑みを向ける。
「ネンフィアスか。少し遠いが海からいけなくはないな。南の領を使えば航路もできるか。いいだろう。次の交渉は貴国に向わせて貰おう。何時がいい?」
「国に戻ってからになるが、一週間程後になるな。馬車の移動時間がある」
「了解した」
と、一瞬でネンフィアスとの和平交渉の予定が決まった。各国が唖然とする中ネンフィアス皇帝はくっくと笑みを零す。
「今回の魔王はなかなか面白そうな奴だ。儂は気に入ったぞ。魔族についてもこの分なら共闘も可能やもしれん。なぁ、ノーマンデ王?」
言われたノーマンデ王ははっと気付く。
そう、北に位置するノーマンデは今、魔王軍と戦闘中なのである。
そのノーマンデの西に存在するネンフィアスが魔族と和平を結べば、彼らと魔族双方からの侵略が始まりかねない。
「こ、交渉する! 我がノーマンデも魔王国との和平交渉をしたい!」
「なっ!? ノーマンデ王?」
驚いたのは各国の王。しかし、良く考えればノーマンデが血相を変える理由など丸わかりで、かの国が和平を結ばなかった場合、魔族と争いながらネンフィアスとの戦争に突入しかねないのだ。
ネンフィアス帝国がかの国に攻め入っていないのはノーマンデを侵略した後に魔王軍と争わなければならないからであり、後顧の憂いが断たれれば、ノーマンデとネンフィアスの戦争はいつ始まってもおかしくはない。そうなればここ、メーレンとて無事では済まない。
メーレン王も動き出した国際情勢に思わず喉を鳴らす。既にカラカラに干上がった喉はひりついて喉を鳴らすのも一苦労だった。
だが、不安に思っていたのはメーレンだけではない。ノーマンデの近くに存在しているカーランやレインフォレストもまた、自国の身の振り方を考える段階に来ているのだった。




