全国王会議1
「さて、そろそろ本格的な会議を始めよう。全国が集まる会議を」
くっくと笑い、俺は周囲に存在する王族を見回す。
右にルトバニア、カーラン、レインフォレスト、メーレン、ノーマンデ、エルダーマイアにルインタ、ネンフィアスなどなど各国が固唾を呑む。隣のハーレッシュなど真っ青になっている。
まぁ、仕方無いだろう。何しろ完全に敵視している人族にとっての宿敵である魔王様が真横に居るのだから。
にしても……ルインタのお姉さん可愛いな。
それに……あそこのはどこの国だ? 念話だと話にすら加わってないから国の名前がわからないのだが、女の子がいる。この厳つい男達の中、たった一人、幼い少女がちょこんと座っているのだ。
ルインタと横にいればいいのに、隣のおっさんたちが物凄い厳ついから一際浮いて見える。
服装はなんだろう。どっかで見たような……ああ。アレだ。北海道のアイヌ民の服装だ。
あれに似てるんだよ。帯が赤いからなおさらだ。ヘアバンドみたいなのはなんだろう。緑の模様と山吹色か? もうちょっと濃いくらいの布だな。
「で、では魔王ジャスティスセイバーに聞くが」
言葉を切り、こちらを確認して来るネンフィアス皇帝。
俺は少女から視線をネンフィアス皇帝へと向ける。
「ふむ。なにかな?」
「ルトバニアの勇者である以上、そちらとルトバニアに繋がりがあると思うが、何ゆえ人族と敵対中の魔族の王となり人族との和平を?」
「ふむ。まず、前提として俺はルトバニアとの繋がりは召喚されたというくらいだ。そちらの宮廷魔術師が俺達勇者の真名を奪おうとしていたしな。勇者の一人と協力して信頼出来ない人族領を出ることは召喚後直ぐに考えていた」
まさかの言葉にルトバニア王の顔が青くなる。胃の辺りがキリキリしているようで、周囲に見られないように必死に隠しているが、隣の俺には丸わかりだ。
可哀想にな。でも自分たちが行った事だから仕方無いだろ。俺だってコレ説明しとかないとルトバニアと通じてると思われかねないし。
「で、では、ルトバニアは召喚した勇者を真名で縛っていたのか!」
「さぁ? ルトバニア王が関わっていたのか宮廷魔術師だけの独断だったかは知らん。俺が実際に体験したのは、宮廷魔術師に真名を奪われた勇者の一人に殺されかけた時だけだ。なんとか宮廷魔術師を殺して勇者は解放。そのまま魔族領に逃げ込んだがな。その後ギュンターから魔王としての力を受け継いだ。まぁ、その辺りは割愛させてもらうが。俺は魔王に成った後、人であり勇者である以上人族との和平を目指そうと思ってな。北から始めようかと思った矢先だ。丁度同じ勇者である大悟が魔族領に侵入して来て、もう一人の勇者が魔族の令嬢を拉致してムーランに逃げ込んだ」
ムーラン国滅亡の真相が語られる。
魔族の貴族ともなれば魔族だって黙って拉致られたままにするはずもなく、大事に成る前に俺が取り返しに向い、そこでルトラが暴走、国が一つ滅んだ事を伝える。
この過程でルトバニアとの繋がりができ和平を他の国に先んじて行った事を告げれば、俺とルトバニアにそれ以上の蜜月な間柄がないと分かってくれるだろう。
「となると、今回の魔王は我等人族全国と和平を結ぶつもりであると?」
「可能であればな。もちろん、本当に和平がなるかと思っている訳ではないがな。魔族という人族が治める国として魔族領を認めて貰うくらいはしたいと思っている。魔族だって人族のように多種多様であるのだ。互いの種族が違うだけでいがみ合う意味があるのかと思ってな」
「それは、そなたが異世界人であるから、か?」
「ふむ。ルインタの可愛らしいお嬢さん、それは確かにあるかもしれない。この世界の人族と魔族のいがみ合いの理由は俺には分からんしな。俺は俺のやりたい事をやるだけさ」
それが人族と魔族の和平。きっと正義に繋がるはずだと。そう思っているからだ。
「む、むぅ。な、ならば魔王よ。貴様は和平を結びたいと言うが、圧倒的力を持ち、和平を強要するのは武力行使と同じだとは思わんのか!」
ルインタ女王は少しうろたえるように顔を赤らめながら反論して来る。
成る程、魔神を引き連れ相手国へと向かい、和平を結べといえば、相手からすれば武力をチラつかせた無理矢理の和平に成る訳か。面倒だな。
「その辺りは交渉としか言えないな。我が国としての基本方針は和平を行える国とは国交を。敵対国は徹底抗戦。テロなど悪は滅殺だ」
「な、何が滅殺だ! 結局魔族による人族支配を言い変えただけではないか!」
「え、エルダーマイア猊下!?」
思わず叫んだエルダーマイアのお爺さんをノーマンデとメーレンのおっちゃんが慌てて諌める。
いや、そのくらいで怒ったりしないよ?
「ふむ。魔族の支配というが、結局魔族領に攻め込むお前達は魔族を支配しようとしているだけだろう? 自分は支配されたくないが相手は支配したい? その思考はまさしく悪だな」
「なっ。ふ、ふざけるな! 儂が悪だと! 神の声を聞くこの儂が!」
神の声、聞こえるんだ……




