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外伝・国王陛下お確かに8

 ロバートの言葉に、無数の国家の王たちがえ? っと驚きの声を上げていた。

 慌てたようにエルダーマイア猊下が固唾を飲んで確認を取る。


「そ、それはどういう意味だね」


「ええ。ですから、今、この場に魔王陛下が来られるということです。全国の王が集っているのですから魔族の王も出向くべきでございましょう。こちらに居るガンキュによりこちらの状況はすでに伝わっておりますし、先程こちらに来ようかと陛下よりお声が掛かりました。いかが致しますか?」


 何でもないことのように告げるロバート。

 今、各国の王が頷くだけで、この場に魔王が降臨すると言うのである。

 誰も彼もが思わず冗談だろう? っと喉を鳴らす。


「ひ、一つ確認じゃが……」


「何でございましょう女王陛下」


「魔王が、来るのか? だが、どれ程の時間がかかるのだ。そ、そんなに待てる訳ではないぞ?」


「来るとなれば、一瞬で。ディアリッチオ様が送り迎えをなさるそうですから、魔王城から直接転移なさって来られるのでしょう」


「バカなっ!? 転移!? しかも一度も来た事のないこの場所に!?」


 メーレン王が激昂するように叫ぶ。気が気ではないだろう。一度も来た筈の無い魔王とディアリッチオが現れると言う事は、ここではなくとも、どの国の王城であれ自由に行き来出来ると言う事に等しい。暗殺だろうが、軍を直接城に転移だろうが、魔族がやりたい放題だということを証明してしまうのである。


「いかが、致しますか?」


「却下、却下だ! 魔王が人族国家会議に出席など……」


「おもしろいっ! 来ると言うならば来るがいい魔王。そなたも王であるならば、確かにこの会議に出席する権利がある!」


 慌てて否定するメーレン王を制するように、ネンフィアス皇帝が声を張り上げた。


「ネンフィアスの! 正気か!?」


「ふん、ノーマンデは否定か? だが良く考えて見よ。我々はギュンターは知っているがジャスティスセイバーも魔神ディアリッチオも見た事が無い。今、わざわざここに来ると言っているのだ。その顔、見定めてやろうと思わんか?」


「兵士もおらんこんな場所に呼び出せば、我等の命が危うかろう!?」


「何を馬鹿な。魔王がその気であれば既に許可なく転移して討ち取られておろうが」


 ごもっともだ。ルトバニア王も思わずネンフィアス王に同意するように首を振る。見れば他国も数名首を縦に振っている。


「ふ、ふむ。確かに魔王の顔を知らんと言うのもじゃしな。よかろ、ルインタは魔王の召喚に賛成じゃ。呼び寄せるが良い」


「我が国も、ルトバニアとの繋がりは確認したい。コーデクラも賛成だ」


 そうして幾つかの国が賛成を告げると、旗色が悪くなったメーレンたち魔王参加否定派が多数決の少数派になってしまった。

 最後に周囲を窺いながらハーレッシュが参加に同意したことで、魔王参加が決定した。

 その瞬間、ロバートの背後の空間が歪む。


 気付いた各国の王が驚きの声と共に息を呑む。

 歪みを発した空間に、次の瞬間二人の男が現れた。

 まるで初めからその場に居たかのように、一瞬にしてそこに居たのである。


 初老の紳士が魔法で座席を作りだし、ルトバニアとハーレッシュの間に置く。

 そこに、赤いスーツ姿の男が無遠慮に座り込んだ。

 静寂が支配する。相手が何者か、皆が理解しながらもその歪な姿に誰も何も言えなかったのだ。


「初めまして各国の王族の方々。我が名はジャスティスセイバー。異世界よりルトバニアに召喚された、勇者だ」


 大胆不敵に声を発する赤き魔王。

 その姿を見ただけで、ルインタ王女は全身から来る言い知れない悪寒に身震いした。

 この生物は、この世界に居てはいけない存在だ。漠然とながら、そんな危機感を募らせたのだった。


「き、貴様が……魔王か」


 最初に口を開けたのはネンフィアス皇帝。

 皇帝として民を引っ張る存在だからだろう。逸早くプライドが彼を立ち直らせたようだ。


「いかにも。と言いたいところだが、実際に表だって魔王として動いているのはギュンターだ。俺は魔族領を回ったりしているだけで実質的な活動はまだしていない。魔王と呼ばれ始めているが実際は魔将のような扱いだな」


「陛下、御冗談が過ぎますな。魔神四柱を従えし魔将などおりますまい。どれ程隠そうとしたところで魔王であるという事実は隠せないでしょう」


 彼の背後に佇む紳士が告げる。

 各国の王も既に理解していた。この男こそが魔神の中でも最強を関する神殺し、ディアリッチオ本人であるのだと。

 ロバートがルトバニア王から少し距離を取り、ディアリッチオの横に並ぶ。それを見た大悟が何かを口にしそうになったが、この場がどういう場所かを思い出し慌てて口を噤んだ。


 そして、気が気でないルトバニア王は自分は全く関係ないはずなのに全身から汗が噴き出て胃に鈍痛を感じ始めていた。

 なぜ、こうなった? 宰相でも居てくれれば苦労を分かち合えたのだが、ここに居る味方は大悟だけ。使い潰すつもりの勇者では、王の重荷を理解するなど不可能だった。

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