外伝・国王陛下お確かに4
とある国の会議室。
物々しき雰囲気の中、無数の王族が椅子に座り、机を挟んだ他国の王と顔を突き合わせていた。
ルトバニア国王もまた、この場に座っており、大悟が借りて来た猫のように不安げにしている。
一応、付き人ということでルトバニア国王の背後に控えるよう言われたので、会議中彼はずっと立っておかねばならない。
できるならばソルティアラときゃっきゃうふふしたいところだが、彼女は国王留守中の国を動かすという重要な役割があるので今回は留守番である。
つまり、付き人の人たちこそいるが、実質大悟はルトバニア代表の一人として扱われるのだ。下手なことは出来ないため、ずっと立っていなければならない。
「こ、国王陛下、その、トイレ、いいですか?」
「さっきも行っただろう? 大丈夫なのか? すまんがそこのモノ、こやつをトイレに連れて行ってくれんか」
「え? また……あ、いえ、どうぞこちらへ」
驚いた顔をしたのは今回開催国に相当するメーレン国の執事の一人だ。
大悟が去って行くのを見ながら、国王は溜息を吐く。
大丈夫かあいつ。連れて来るべきではなかっただろうか? もう10回目だぞ?
そう思ったが流石にそう言う訳にも行かない。勇者がいるということが大切なのだ。特に本日は絶対にだ。
定例会議である今回、議題に上るのはおそらくルトバニアだろう。魔王との和平もそうだが、コーデクラが噛みついて来るのだろう。
後の問題があるとすればムーラン絡みか。
「国王陛下、こちらを。シシルシ様から定例会議の参考にと」
「ほぅ、シシルシ殿から……って、げぇっ!?」
国王は普通に書類を受け取り、ふと相手を二度見した。
インキュバスのロバートが側に控えていた。
「な、何故貴様がここに!?」
「いえ、お付きの方が体調不良になったそうで、そちらの奥方様よりぜひ主人の代わりにと。ガンキュと共に参りました」
「な、な、な……」
「ご安心ください。別に会議の邪魔はいたしませんよ。邪魔は……ね」
国王は驚き過ぎて過呼吸に陥っていた。
このままでは倒れる。それに気付いた国王は必死に呼吸を整える。
胸を押さえながらもなんとか自力で回復した国王は椅子に背もたれ天を仰いだ。
もう、どうにでもなるがいい……
ルトバニア国王は、考える事を止めた。
気は重いが書類に目を落とす。
成る程、今回の会議での情報戦には随分と役立つ情報だ。
これをなぜシシルシが把握できているのかが全く理解したくないのだが。やはりムーラン国の生き残り共と繋がっているのだろうと納得する。
報告が挙げられている内容は、ルトバニアがムーラン国の生存者を奴隷として送った国のものなのだから。
「有効に、使わせて貰うとしよう」
「それは僥倖。私めは勇者の横で立っておきますので何かあればいつでもご質問を」
コイツが居ることでおそらく魔族とつながりが本当に出来ているということを各国に知られたな。失策だ、と思いながらもこれはチャンスであるとも気付く国王。今回の定例会議の結果如何では、自国の進退が決まるだろう。
「おい、あれ魔族ではないか?」
「ルトバニアの後ろにいる男か。確かに人族には見えんが、まさか……」
「まぁ、そう焦るな。ここに連れて来るということは何かしら企みでもあるのだろう。まずは定例会議を始めよう。どうせ嫌でも話題に上る」
他国の会話が嫌でも耳に入る。
ルトバニア国王は各国が全員集まるまでの間、今しばらく天井を見上げるのだった。
やがて、最後の国王が入室し、ぎりぎりで大悟が戻ってくる。
隣にロバートが居るのに気付いて驚いた顔をしていたが、時間も無かったこともあり、慌てて定位置に立つ。
メーレン国王が代表するように全ての国王を見回す。
漏れは今回ないようだ。やはりルトバニアと魔族の和平が皆気になるのだろう。
本来遠すぎるからという理由で滅多に出席していないネンフィアス帝国の皇帝まで出席している。北のさらに最奥に存在する帝国で、魔王とやりあって疲弊しているノーマンデ王国が隙を見せるのを常に伺っておりいつでも戦えるよう戦準備を欠かさない国である。
「では、そろそろ始めさせて頂きましょう。今回は私、メーレン国王が代表と司会を務めさせていただく」
開催国の王が司会を務める定例会議。大国は別にそれでもいいのだが、メーレンなどの小国になると少し緊張したりあからさまにビクついてしまったりするのがなんとも言えない。
ルトバニア国王としては中堅所なのでまだ問題はないのだが、次に開催国となるだろうハーレッシュ国など会議になるのかどうかすら不安である。大国の話にはほぼYesマンだからな。と、一人心配しておく。
「まず最初の議題ですが、やはりルトバニア国と魔族領に付いてになりましょうか?」
「ふむ。妥当だろうな。どうかねルトバニアの?」
「儂としては構わんが、いきなりそこでよろしいので? 各国の報告などをなさってからの方がよろしいかと存じますがな。どうせ紛糾するだろう?」
ニタリと笑みを浮かべたルトバニア国王に、何かしらの切り札を感じた各国の王は息を呑む。
結局、現状報告から入ることになった定例会議が始まるのだった。




