表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/337

少女の正体

「あ、その……ありがとう」


「お礼を言われる筋合いはないわ。パーティーメンバーとしてやることをやった。それだけでしょ?」


「あ、ああ。まぁそうなんだけど……」


 言いたいことは結局聞けなかった。

 俺は疑問の解決よりも、現状維持を取ったのだ。

 情けないとは思うが、もしかしたらと思う事情を考えると尋ねるのが怖かった。


 だけど、彼女の姿が、武器が、彼女の存在の可能性を俺に明示してくるんだ。

 さっさと聞けと、いつでも聞いて来いと。

 だからこそ、俺にはまだ時間があるのだから聞くのは後でもいいだろうとついつい思ってしまう。


 そんな俺を察したのだろう。

 若萌は自分のステータスボードを表示して俺に手渡しながら、熊の死骸からアイテムを入手する。

 渡されたステータスを見る。隠されていた場所が全て開示されていた。


 名前:河上かわかみ若萌ももえ 真名:河上かわかみ若萌ももえ

 Lv:20

 状態:ふつう

 スキル:剣術Lv3・弓術Lv1・光魔法Lv3・状態異常無効・変身・救世主エァレーザ降臨アトヴェント・二連撃・スラッシュ・十字斬・V字斬

 マジック:光玉リヒト光のニンプスプファイル正義のゲレヒティヒカイトフンケルン

 魔法:ビ・ハ、ビ・ハナ、ロー・ハー、ロー・ハート、ヒール

 装備:服?・靴?・アイテムヴェルクツォイクボックスカステン・変身ブレスレット・コバルトアイゼン、セレスティアルフェザー


 ……なんだよ、これは?

 これじゃ、これじゃまるで、救世主と正義の味方を掛け合わせたような……

 じゃあ、じゃあ彼女は本当に……


「若萌……これ……」


「知りたかったことは知れた?」


「……」


 覚悟を決めよう。

 彼女の素性を知るべきだ。いや、俺は多分、知らなきゃいけない。

 例え彼女が誰と結婚し、子を残していたのだとしても。


「矢沢萌葱を、知ってるか?」


「ええ。知ってる。やっぱり貴方なのね。ジャスティスセイバー。母さん、ずっと貴方を恨んでいたわ。そして悔やんでもいた。あの時魔法陣に消える貴方の手を取っていれば、一緒に異世界にいけてればって」


 少し恨みのこもった彼女の言葉に、俺は思い違いをしていたことに今更ながら気付く。

 きっと、あの少女は本気で俺を好きだったんだ。

 ジャスティスガンナーじゃなく、俺を。

 でも、結局あの世界に俺は戻れなくて、彼女はしぶしぶガンナーと結婚し、若萌を産んだ。


「初めましてジャスティスセイバー。ジャスティスレンジャーの後継者、ジャスティスアイゼンよ」


 そして俺がいつ異世界から戻ってきてもいいように、自分の娘に分かりやすい名前を付けた。河上

若萌と。名字が俺と一緒になってるのは多分自分が俺を好きだったんだぞっと告げるための符牒か何かだろう。


 ああ、畜生。もっと萌葱を信じてやればよかった。

 俺はなんで……

 でも、本当に、本当にベストカップルに見えたんだ。ガンナーの隣で笑い合う萌葱はとても眩しくて、居場所の無い惨めな俺なんて比べるべくもないくらいに輝いていた。


 俺なんて眼中にないってわかるくらいに、夢中に正義の味方を目指してたんだ。

 そんなアイツの背中を見て、居場所の無い場所に居座る意味など見出せなかった。

 だから俺はラナリアに身を置いたんだ。


 俺の勘違いだったのか? 劣等感だったのか?

 でも、でもっ。そんなの分かるかよ。萌葱が俺をそこまで意識してくれてたとか、分かる訳がないだろ?


「それより誠、そろそろ戻った方が良さそうよ。日が暮れるわ」


「あ、ああ。そうだな。その……若萌」


「何? 言っとくけど私は貴方に何も言う事はないわ。ただ知り合いの知り合いだと言うだけ。違う?」


 言われてハッとする。

 確かにその通りだ。彼女は萌葱の娘なのだろうが、俺とは今回が初顔合わせ、思うところはあるだろうけど、面識がないのだから恨みも憧れもないだろう。


「ひ、一ついいか?」


「ええ。二つ目だけどなにかしら?」


「皆は? 地球のその後は、どうなったんだ?」


「それを知ったところで今の貴方に意味はあるの?」


 そう言って踵を返す若萌を、俺は追う事など出来なかった。

 自問自答する。自分はソレを確認してどうしたかったんだろう?

 若萌がいることであの激戦を抜けた萌葱がいたという確認はできたのだ。


 ならば、あのしぶといクラスメイト達が全滅する未来等描けようもないだろう。

 きっと向こうは大丈夫だったんだ。

 そう思って俺は自分の現状に意識を向けるべきだ。


 俺が生きてるのはあちらの世界じゃない。この世界なのだから。

 でも。俺はこの世界で生きていけるのだろうか?

 能力が封印された今、武器を使えると言ってもいつ折れるか、替えの利かないショートソード一本がとてつもなく頼りない。


 自分の剣を、セイバーを手にしたい。

 何度折れても生成出来た武器が、恋しいと思えるのは初めてだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ