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この中に裏切り者がいる2

「また、ですか」


 書類と格闘していたシオリアが煩わしそうに顔を上げる。

 目の前にやってきた俺とディアとラオルゥを見て溜息を吐く。


「お前が隠し事をしているのが悪い。さっさと全部吐け。このたらい回し、そろそろ俺もキレて良い気がするんだが、そこんとこどうかなディア」


「お気に召すように」


「キレればいいのではないか?」


 ディアもラオルゥも酷いと思うんだ。マジでもうキレていいかな?


「そうだな。もう、面倒だし……強制ステータス閲覧」


 名前は……ん? これは……

 真名が灰色表示になってる?


「どうかなさいましたか陛下?」


「あ、ああ。彼女の真名が灰色表示になってるんだ。普通は白色表示なんだけど……」


「おそらく、別の誰かに真名を奪われているのでしょう。今矢鵺歌殿や稀良螺殿を見ても同じ表示になると思われます」


「つまり、シオリアは真名を奪われている。となると……」


 じぃっと見ると、シオリアはただただ俺を見つめ返す。

 何かを訴えるような、しかし無表情にも見える。


「シオリア殿。一つだけ、答えられないならば無言でいいのですが。貴女の御主人は、魔族ですか? 人族ですか?」


 シオリアは答えなかった。いや、答えたくとも答えられないのかもしれない。

 しかしだ。こいつが真名を奪われ誰かに操られているとなると、そいつがレーバスに教えたってことになる。

 人族が襲ってくる事を、一体誰がシオリアにレーバス経由で伝えるように言ったんだ?


「陛下……」


 不意にシオリアが何かを投げる。

 紙? どうやら羊皮紙を数枚丸めて投げたようだ。

 開いて見るとそこにあったのは……


「これは……」


「こうなる前に、書いたモノです」


 つまり、真名を奪われる前に書いたモノ。それはとある人物について調べている調書だった。

 どうやらゼオラムも裏切り者を察知していたらしく、怪しい人物を探っていたそうだ。

 気付いたのは数日前。俺が魔王になるよりも前らしい。

 そして俺が魔王になったことを皆に告げるためにゼオラムたちを呼び寄せた前日で途絶えている。ああ、ゼオラム自身は残ったんだっけか。


 それはなぜか。

 簡単だ。魔将達八名が居なくなったせいでそいつが自由に行動できる時間が増えたからである。

 ゼオラムは結局最前線の指揮をしていただろうし、そいつはまずシオリアの真名を奪い傀儡にしたのだ。

 つまり犯人は、現存している奴らの中で、新魔王のお披露目会に出ることのなかった人物。

 そして、そいつは今もなお生き残っている魔将であり、シオリアではなく、彼女の真名を奪えた人物である。

 そいつはもう、一人しかいない。


「シオリア。君はここで書類整理を頼む。ディア、ラオルゥ、広場に皆を集めてくれ。戦場の魔将三人もだ」


「ふむ? だがセイバーよ。手薄になった前線が人族に奪われんか?」


「ルトラを防衛に向かわせようと思う」


「良いでしょう。ルトラは私が連れて行きます」


 俺の言葉にディアとラオルゥが去って行く。ディアはルトラを連れて戦場に、ルトラを残して三人を広場へと連れてくるのだろう。

 ラオルゥの方は別の天幕に待機中の他の皆を呼びに行ったようだ。

 俺は広場に向かい仁王立ちで待ち望む。


 初めにやって来たのはペリカとハゲテーラと矢鵺歌。ついでにいつの間にかエルジーが俺の後ろにいた。もしかして気配殺して付いて来てた?

 遅れて稀良螺と満足げなマイツミーア。そしてラオルゥと共にムレーミアが面倒そうにやってきた。


「陛下、流石に苦言を言わせてください。重症患者の手術中に呼び出されると彼らを死なせかねません!」


「儂が回復魔法使ってやっただろう。アレなら部下に任せれば問題あるまい」


「回復魔法は感染症には効かないんですよ! むしろ悪化しかねません」


「あー、まぁその辺りは後で……お、来た来た」


 ルトラを戦場に残してきたのだろう。ディアが魔法で瞬間移動して来た。

 ディアの身体に触れていたホルステン、レーバス、ケーミヒが突然切り変わった光景に呆然としている。

 そんな三人を放置して、ディアは俺の隣に来ると、一歩退く。どうやら俺の背後に控えておくつもりのようだ。

 ソレを見たラオルゥもまた、同じように逆隣りに立つ。

 もともと後ろに立っていたエルジーが凄く所在なさげに俺の背後に押し込められた。二人に囲まれ逃げ場がなくなったようだ。冷や汗混じりに居場所失敗した。みたいな感情が背中から伝わってくる。とりあえず放置の方向で。


「忙しいところ集まって貰ってすまない」


「ほんとにね。何のために集められたんですかね。患者が待っているので早く終わらせて下さい」


「ムレーミア。あまりカッカするな。アレは腐っても魔王だ。機嫌を損ねると取り出しの刑に……」


 食ってかかりそうになっていたムレーミアをホルステンが窘める。

 事情を知っているケーミヒがホルステン共々青い顔になり、レーバスがアレ、気持ち良さそうとか恍惚の笑みを浮かべ出したが放置することにした。


「集まって貰ったのは他でもない。今回七名の魔将と数多くの兵士が死ぬこととなった人族の奇襲。これがとある人物により仕組まれたことがわかった」


 ざわつきだす皆に、俺は正面切って宣言する。


「犯人は、この中にいるっ!!」


 一度、言ってみたかったんだこの言葉。

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