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懐柔作戦3

「え? 自由に動ける……の?」


 話を終えた稀良螺は、俺の言葉に呆然とした顔をしていた。

 捕虜として捕まったのだから強制労働やら夜伽を命じられると思っていたのだろう。

 拍子抜けしたというよりもあり得ないといった顔をしている。


 捕虜を自分の領地で自由に歩かせる。ソレがどれ程異常なことなのか。それも殺し合いをしている人族を魔族領で、である。

 流石に今は前線基地なので自由と言っても見る場所もないのだが。


「正直な話、稀良螺のいた国について調べたかっただけだからな。用事は済んだし、別に帰って貰っても良いくらいだ。俺としては人族と和平結べりゃいいんだけど」


「人族と魔族の和平? 正気なの?」


「正気さ。魔族も結構いい奴等いるんだぜ? 鼻もちならないのが多いけど」


 そう言いながら周囲を見回す。

 同じように見回す稀良螺。


「女性、ばっかりね。私もそのハーレムに加えたい。そういう事なんでしょ?」


 あれ? なんでそんな警戒度が上がってるのかね稀良螺さん?

 くっ、仕方無い。ここはもう奥の手を出して懐柔するしかないだろう。

 俺は苦渋の決断をして立ち上がる。


「仕方無い。ここまで譲歩してもダメと言うのならば。奥の手を切らざるをえんな」


 びくりと警戒感を露わにする稀良螺を無視し、俺は視線で命令する。

 気付いたそいつはゆっくりと前に進み出てきた。


「か、彼女が、奥の手?」


 その少女、マイツミーアは俺の指示のもと稀良螺の太ももに擦り寄る。


「こ、これは、まさか……」


「そうだ。猫獣人型魔族、マイツミーア。さぁ、思う存分モフるがいい。喉をモフればゴロゴロと言うぞ? ふふ。我が軍に入ればモフり放題だ」


「う、ぐ……こ、これは卑怯だわ……」


 膝上でごろごろとし出したマイツミーアに思わず手を出しそうになる稀良螺。なんとか理性で押し留める。

 どうやら彼女もケモナーだったようだ。

 さぁ、どうする稀良螺。頷くだけだ。頷くだけでお前は自由にマイツミーアをモフれるんだぞ。

 ところで、頷くのはいいけど何を頷くんだっけか?

 もはや手段と目的が変わっている気がしないでもないが、俺は稀良螺の動きに注視する。


 稀良螺はわなわなと震える手をマイツミーアに触れるかどうかのところでなんとか均衡を保っている。あと一押しのようだ。

 俺は無防備に膝上でごろつくマイツミーアの顔を上げると、喉元を掻いてやる。

 気持ち良さそうに鳴くマイツミーアの声で、稀良螺の理性は吹き飛んだ。


「ああ、もうダメ。猫ちゃん可愛い――――っ」


 ふっ。陥落完了。


「ふ、チョロインさんめ」


「何をしておるのだセイバーは?」


「知りませんよ。本人が満足ならそれでいいんじゃないですかね」


 さんざんモフモフされるマイツミーアだけを放置して、俺達は天幕を後にする。

 あとは満足したら二人が出てくるだろう。それまでは若い二人に任せてしまおう。


「セイバー。これからどうするの?」


「とりあえず、稀良螺の話では本日の奇襲は国の上層部が今日奇襲すると決めたせいらしい。しかも、我が軍の魔将が大多数集まる時間を狙ったらしい。一網打尽にしたんだろう。まるでこの入れ替わり時間を知っていたかのようにな」


「どういうことだ?」


 ラオルゥの疑問は、おそらくこいつさっきの話し聞いてなかったな。と思うのに充分だった。

 要するに、向こうの国王かその近辺の奴らがこっちの情報を察知してたってことだ。

 レベルをこちらより強くなるまで上げた部隊で丁度こっちの大戦力が集まった時点で奇襲して一網打尽にするベストのタイミング。ソレが向こうだけで掴めるはずが無い。


「裏切り者は、まだここにいる」


 ゼオラムたちを殺した奴はおそらくここにいるはずだ。一緒に殺されている事は無いだろう。次にここを人族に占拠させるため、今も何かしらの手を考えているに違いない。

 そうなるとレベルを上げたのは失敗だったか? いや、待て。ケーミヒが確か言ってたな。


 ゼオラム達が入れ替わりのタイミングはいつもバラバラにしていた。

 ソレは今回みたいな奇襲をゼオラムが可能性として考えていたかららしい。

 結構優秀だったようで、ゼオラムがいろいろと人族を苦しめていたようだ。


 ただし、この入れ替えのタイミング。事前に知っていた奴が一人いる。そう、ゼオラム以外に一人、把握してる奴がいるのだ。

 そいつは普段戦場に向かうことなく、この前線基地で皆の動きを纏めている人物。

 俺はディアとラオルゥだけを連れて歩き出す。

 他のメンバーには稀良螺が戻ってくるまでその場で待っておくように言っておいた。


 そうして向ったのは、本営の天幕。丁度ゼオラムが死んだせいで軍の全権指揮を手に入れた魔将がそこに居る。

 そう、今回、俺が一番疑惑を深めている魔族、シオリアだ。

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