赤き魔王デビュー戦
「す、すげぇ。誰だあれ?」
「……魔王だ」
「ケーミヒ隊長、魔王って、ギュンター様じゃ……?」
「変わったんだ。つい先日。赤き魔王、ジャスティスセイバー。元、人族の勇者だ」
ケーミヒってのは魔将の一人だな。生き残っていたらしい。
暑苦しそうな赤髪の男はズボンだけを身に付けた半裸状態で部下に肩を貸して貰っていた。
だいぶやられているみたいだけどなんとか生を拾ったようだ。
迫り来る男二人と切り結ぶ稀良螺を見ながら魔法使いにだけ注意を向ける。
男二人は接近して来た稀良螺に戸惑いを浮かべているからあのまま撃退できるだろう。
問題は遠距離に居る女生徒だけだ。
メガネの大人しそうな少女は黒ローブに三角帽といった魔女ルック。
ローブの隙間からはセーラー服が見える。
最近は私服の学校も多くなったからなぁ、結構貴重になって来てるんだよな。
ブルマも絶滅危惧だし、日本の古き良き制服は徐々に消えているらしい。
コスプレ衣装で見るくらいか。
「ラ・グライラ!」
雷撃が放たれたのでハンドフリーシールドを発動。肩付近に浮かぶ二つの半透明なシールドが出現し、向って来た攻撃を自動で受け止める。
おお、結構良いなこのスキル。レベル25で覚えるスキルにしては使えるんじゃないか?
想定外だったのだろうか? 女生徒が驚いた顔をしている。
「琢磨君、伊丹君、逃げてぇ!」
稀良螺は二人の攻撃を受け止め反撃しながら必死に叫ぶ。
行動と言葉が全く合っていないのは、俺が命令を出したせいだろう。
「セイバー……」
「ん、うぉっ!? なんだよ矢鵺歌?」
「なんで、操ったの?」
「え? いや、だって、あの三人を引かせるのは一番良い方法かと……」
「やめさせて。貴方はあの魔術師とは違うんでしょ」
あの、魔術師……
はっとした。俺が倒した宮廷魔術師。
真名を操り、俺を矢鵺歌に殺させた奴だ。
人魚の血の御蔭で俺は復活したが、矢鵺歌はあいつに真名を操られて俺を殺してしまった過去がある。
今、稀良螺が直面しているのは、矢鵺歌が体験したことそのものだ。
俺はソレを悪と罵ったのに、なぜ、同じような事を自分が……
何やってんだ俺はっ。
「貴方が何をしたいかは分かってる。でもこの方法は、簡単だけど相手と敵対する方法でしかない。彼らが悪なのかどうかはまだ決まってないでしょう。魔族を滅ぼそうとしたからって、分かりあえないわけじゃない。道を、間違えないで」
「……すまない。俺は、あいつと同じ事をしてたのか」
クソッ、自分で自分を殴り飛ばしたくなる。悪だと決めつけた行為を自分でやってどうすんだ。
「桜井稀良螺に命じる。退け。矢鵺歌の側で待機だ」
泣き叫んでいた稀良螺が命令を受け飛び退き、矢鵺歌の側まで戻ってきた。
「貴様、稀良螺に一体何をした!」
「クサレた野郎め。テメェは必ずぶっ殺す!」
えーっと、あっちの主人公っぽいさわやかイケメンが琢磨君で、こっちの筋肉達磨っぽい男が伊丹君か。
俺は迫る二人を見ながら、セイバーを地面に突き刺し柄に両手を置く。
仁王立ちで二人に対峙し、精一杯に声を吐き出した。
「控えよ勇者共ッ! 真名すら知らん阿呆がほざくな! そこの稀良螺同様貴様等もいつでも操れるのだぞ!」
想定外のことだったのだろう。意味が分からず二人の男は立ち止まる。
俺が何を言おうとしているのか理解できなかったようだ。
「我はルトバニア国勇者にして現魔王の側近、ジャスティスセイバーであるっ!」
側近のところだけは、譲れない。魔王じゃないんだよ。俺は側近なんだよ。
「ま、魔王!?」
「勇者って、どういう事だよ!?」
いや、ちょっと、側近。俺、側近って言ったよな?
「斎藤さん、伊丹さん、一度引きましょう、今のままの私達じゃ桜井さん助けられません!」
「し、しかし……クソっ。稀良螺、待っててくれ、必ず、俺が必ず赤い魔王から助けてみせるから!」
いや、ちょ、話を……
「チクショウ、人族裏切って魔族の王になりやがるとはなんて非道な奴なんだジャスティスセイバー! 見ていろ、テメーは俺がぶっ倒す!」
だから、話、聞けよっ!?
しかし、三人は俺の話を聞くことなく撤退を始める。
矢鵺歌が対話を試みようとしていたけど、残念ながら向こうは聞く気すらないようだった。
そしてソレを俺のせいだと矢鵺歌が怒る始末である。解せん。
残された稀良螺が絶望に沈みそうな顔をしていたが、彼女は貴重な情報源なので矢鵺歌と若萌に任せようと思う。一応情報だけは先に入手しておくか。何にせよこの辺りの強化をしておくべきか。どうすっかな。ああ、そうだ。パーティー組ませて魔将数人にルトラ倒させよう。
レベル1000越えになってりゃなんとかなるだろ。
早速ディアに連絡を取りルトラをこちらに遣わせるよう頼む俺だった。




