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爆裂熊・後編

 光の矢が熊の眉間に突き刺さる。

 悲鳴を上げて仰け反るエクスプベア。

 この隙に逃げようとする俺の横を駆け抜け、若萌が虚空から剣を取りだす。


 あれはっ!?

 それは見覚えのある剣だった。

 別の人物が持っているはずの剣だった。


 俺が異世界に飛んで来る前、一人の女が二つの剣を持っていた。

 別の異世界で俺が勧誘して、正義の味方になるように自分の部隊ジャスティスレンジャーを紹介したのだ。そして部隊に受け入れられた彼女は、正義の味方の一員となった。だが、俺が異世界から戻って来た時、その部隊に俺の居場所はなかった。


 部隊のリーダーレッドとして存在していた俺が異世界に行っていた間、ジャスティスレンジャーはジャスティスガンナーというブルー枠の存在が皆を率い、悪の怪人たちと闘っていたのだ。

 彼の元、ジャスティスレンジャーは纏まっていた。

 実力も付けていき、闘い方も覚え、皆が纏まった後だ、俺がメンバーのもとへ戻ってきたのは。


 普通のメンバーとしてなら受け入れられただろう。

 でも、既に代理だったリーダーはガンナーが正式に受け継いだような状況で、俺が再びリーダーをする意味はすでになかった。混乱するだけなのだから。

 否、素人みたいな俺よりも、ガンナーがリーダーになった方が実質ジャスティスレンジャーはよく行動できるのだ。つまり、俺はリーダーという役職を失った。


 そんな場所に、団員の一人としてガンナーに従いながら正義の味方をやれと?

 元リーダーとか言われながら皆に接しろと?

 自分から降りてガンナーにリーダー枠を捧げたならまだいい。俺からすれば奪われたようなものなのに、下に付くことを甘んじろと?


 だから、俺は正義の味方であることを止めた。

 他にもいろいろと理由はあったけど、結局流れ着いたのは当時日本を牛耳る程に力を付けた秘密結社、ラナリアだった。

 ラナリアの首領、当時は確か、ラナだったか? 彼女は秘密結社として世界の裏側に居た秘密結社を引き継ぎ、ラナリアとして表舞台に台頭してきた。


 ラナリアは怪人たちを人々の役に立つ存在にすると宣言し、日本を瞬く間に支配下に置いたのだ。

 あの手腕は鮮やかだった。たとえ影の首領に操られていたのだとしても、正義の味方達まで登録する怪人ギルドを作り上げたのは彼女の功績だろう。


 情報を報酬とする現代型冒険者ギルド。

 俺も、結局そこに身を置き、フリーで怪人と組んだりしながら人々を助けていた。

 時にネコを探し、悪の怪人を倒し、仲の良い怪人と食堂で食事をし……

 畜生、嫌なこと思い出した。


 とにかく、その時俺の代わりにジャスティスレンジャーの団員になった女、矢沢萌葱の持っていた剣を、彼女、河上若萌が持っていたのだ。

 両手で構えたのは鍔に羽が生えた神聖そうな剣、セレスティアルフェザー。

 あり得ない剣の出現に戸惑う俺を放置して、若萌は雄たけびと共にエクスプベアへと突っ込んだ。


致死之痛撃アゴニー・アグレシオン


 本来の剣であれば分厚い肉の塊であるエクスプベアに切り傷すら付けられないはずだった。

 しかし、セレスティアルフェザーはやすやすと肉に食い込み切り傷を作り出す。

 そして、絶叫が響いた。

 今まで聞いたことのないような絶叫が森を震わせる。


 木々が慄き鳥が飛び立つ。近くに居た小動物は我先にと逃げ出す。

 悲痛な叫びを上げるエクスプベアに、若萌はさらなる一撃。

 喉元を切り裂く一薙ぎを、エクスプベアは避けることすらできなかった。

 盛大に血飛沫を上げながら後ろ向きに倒れて行く。


 剣を振り抜き血飛沫を散らす少女の姿は、なぜか俺の印象に残る程に綺麗に見えた。

 振り抜いた剣を追うように黒髪が流れる。

 その姿を思わず目で追ってしまう。


 ぴっと血飛沫を飛ばして剣の血糊を無くすと、若萌は剣を鞘にしまって虚空に消した。

 ふぅっと息を整え、こちらに視線を向ける。

 凄いな。まるでヒーローじゃないか。俺がヒーローであるべきなのに、助けられる側になってるなんて、はは、ザマァねぇや。


「なんとか倒せたけど、怪我はない?」


「あ、ああ。そっちは?」


「大丈夫。貴方が助けてくれたから落下ダメージもないわ」


 そして、しばし無言が続く。

 聞くべきだろうか? でも、聞いてしまっていいのだろうか。

 もしかして、俺の居なくなった後の世界で、萌葱を殺して奪ったとか? それだと聞いた瞬間、俺まで殺されかねないぞ。


 いや、でも……彼女の名前が真名が、確認しなけりゃいけないと俺の心をざわつかせる。

 やや硬い顔でこちらに近づいて来る若萌に、俺は……


「若萌、一つ、聞いていいか?」


「……なに?」


 立ち止まった若萌は俺の直ぐ目の前だ。剣を取り出せばいつでも殺される位置で、俺達は向い合う。

 聞くべきだろうか? 尋ねるべきだろうか? お前は誰だと、聞いてしまっていいのだろうか?

 戸惑いながらも俺は……

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