外伝・魔王陛下のお楽しみ
「解せん」
ラオルゥは思わず呟いた。
両腕を組んで仁王立ちしながら矢鵺歌とペリカ、エルジーに不満をぶつける。
理由は簡単だ。魔王であるセイバーが寝床を別にすると言ったせいである。
彼の言い分としては女性だらけの所に男一人は外聞悪いから。とのことだが、ペリカまでこちらに回してしまっては彼の護衛が居なくなってしまう。
「やはり、奴め何かを企んでいるのではないか?」
「考え過ぎではないですか? セイバーだって一人になりたい時くらいありますって」
矢鵺歌が苦笑するが、ラオルゥはそれを信じ切ることは出来ない。
今までずっと寝床は同じで文句を言っていなかったのだ。それがなぜ本日のみ?
しかもセイバーはもふもふもふもふと訳のわからない事を呟きながら自分の天幕に向って行ったのである。怪しいことこの上ない。
「エルジー、人族のスパイとして魔王の行動を類推できんか?」
「別に魔王専属とはいえ、私は情報収集専門、類推は得意ではありませんよ。ただ、マイツミーアでしたか、魔王と密談をしていたようですが? なにやら夜になにかあるようなことを言ってましたね」
「あ。それ私も気付きました。小声過ぎたから何言ってるのか分からなかったけど、マイツミーアさんが凄く驚いて赤くなってましたね。尻尾振れてましたよ」
エルジーとペリカの言葉にラオルゥはさらに疑念を深める。
セイバーはやはり何かをするつもりではないのだろうか。
しかも、マイツミーア? 夜中に他の女性陣を排し女性を呼び込もうとしている?
それはつまり……
「ま、まさか、奴の本命はマイツミーアなのか!? あんな雌猫の何処が良いというのだ。この四肢を見よ、数々の男を虜にする魅惑の肌ぞ! この顔を見よ、小顔美人というではないか! なぜだ。なぜ我ではなくあのような猫娘なのだ!? 肌色部分すらないではないか! やはり裸か? 裸がいいのか?」
こうしてはおれん! とラオルゥが天幕を後にする。
興味があるようで、矢鵺歌もペリカもエルジーまでもがラオルゥに続く。
魔王の天幕、そこに突入しようとしたラオルゥは思わず立ち止まる。
天幕から出た瞬間に立ち止まったラオルゥのせいで彼女の背中にぶつかった矢鵺歌とペリカが頭を押さえながらラオルゥの横から覗くと、丁度マイツミーアが周囲をしきりに気にしながらセイバーの天幕へと忍び込む所だった。
「は、入って行きましたね、マイツミーアさん」
「ごくり。や、やはりセイバーは……いや、待て。落ち付け矢鵺歌」
「ラオルゥさんが落ち着いてください。多分想定してる事にはならないと思いますよ」
「そ、想定とは、な、なんのことかね。ふふ。安心したまえ、我は全く気にしておらんよ」
そう言いながらふらふらとセイバーのいる天幕へと歩み寄って行くラオルゥ。
まるで誘蛾灯に誘われる蛾のようだ。
結果を理解した矢鵺歌が苦笑気味に、他の二人は興味津々ラオルゥの後をついていく。
「ところでラオルゥさん」
「なんだ矢鵺歌?」
「セイバーさんのこと好きなんですか?」
「うむ。好きだぞ。一緒にいて楽しいしな」
迷いなく告げるラオルゥに一瞬驚いた矢鵺歌だったが、どうにも自分の思い描く好きとニュアンスが違うようだと気付く。おそらくラオルゥは友人として好きとかそう言った感情なのだろう。
恋愛話に発展しないと気付いて思わず溜息を吐いてしまった。
「ん? もしかして矢鵺歌はセイバーを?」
「へ? いえ。友人としては好感が持てますよ。ラオルゥさんと同じで」
「くっく。成る程。報われんのぅセイバーは」
「その言葉だとまるでセイバーさんが私を好きみたいに聞こえてしまいますよ」
矢鵺歌の言葉に苦笑して、ラオルゥはセイバーの天幕入口へとやってくる。
声が、漏れ聞こえてきた。
「だ、ダメですにゃ陛下ぁ。しょこはぁ、ふにぃぃぃぃ~~~~っ」
「くく、どうしたマイツミーア。ここがいいのか? ほら、ここはどうだ?」
「ふにゅぅぅぅ、だ、ダメですにゃぁ、顔みにゃいれぇ……」
「熱に浮かされた良い顔だなマイツミーア。ククク」
なんだかイケナイ言葉が漏れ出ている。
赤面するペリカと戸惑い気味のエルジー。そしてごくりと喉を鳴らすラオルゥと矢鵺歌。
「や、やっぱりダメだセイバー。やるなら我をっ」
ばさっと天幕を開きラオルゥが突入。
慌てて矢鵺歌も後を追うと、ペリカとエルジーも遅れてたまるかと突入した。
「ふにぃっ!?」
突然天幕に入って来た闖入者たちに驚き、マイツミーアが呆然としている。
その濡れた瞳と上気した顔は、どう見ても幸福に塗れた雌にしか見えない。
しかし、行われていた行為は……
マイツミーアの顎をモフモフと愛でるジャスティスセイバーという謎の図式だった。
侵入したラオルゥもペリカもエルジーすらも想定外の光景に呆然としている。
事情を認識していら矢鵺歌だけが二人に近づきマイツミーアの背中を撫でる。
「うわぁ。本当にもふもふね。ね、ねぇマイツミーアさん。背中触っていい?」
「ふぇ!? あ、はい?」
「ふふ。やっぱり予想通りもふもふだったわねセイバー。好きなの?」
「向こうの世界じゃ家はペット禁止だったからな。猫が飼いたくてずっと我慢してたんだ。やはり喉を撫でるとゴロゴロ言うんだぜ」
「嘘っ、それはポイント高いわマイツミーア。もふらせてっ!」
モフラーが二人になった。マイツミーアは可愛がられる中、自分はどうしたらいいのかと戸惑っていたが、結局魔王達のされるままになることにしたのだった。




