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将軍の本音

「失礼いたします」


 ルーフェンが去ってしばらく、カルヴァドゥスが天幕へとやって来た。

 俺に椅子を促されて座った彼は、まさに偉丈夫。

 椅子に座っているのに座高が高いせいで見上げなければならない。


「個別面談という事ですが、それ程声を潜めねばならぬ事がおありでありますか?」


「いや、率直に一人一人の意思を確認したかったからな。お前はどうする? これからの任務についてだが、戦闘がしたりないというのならば北か南の戦地に、あるいは……」


「魔王陛下……」


 俺の言葉を遮り、カルヴァドゥスは少し悲しそうに告げた。

 なんだ? 俺何かマズいこと言ったか?


「皆に聞いているので形式的だということは理解いたします。しかし、私にまでその問いを告げるのはあまりに酷でございましょう?」


 ん? どういうこと?

 意味が分からず混乱しているが、スーツ越しなので俺の戸惑いを察せられなかったようで、カルヴァドゥスはそのまま言葉を続ける。


「本音を言えと言うのならば言いましょう。私は闘いたい。もっと人族を消し炭と化し魔族の繁栄に一役買いたいのです。しかし、私はこの東を守るリーダーなのですよ。北や南に別のリーダー格が向えば要らぬ反感が、引いては魔王陛下への反乱となりましょう。退役も然り、私が居なくなればルーフェンの独壇場。己の信念で突き進むアレがここのリーダーとなればどんな暴走をすることか」


 やべぇ、全然考えてなかった。

 カルヴァドゥスの言う通りだ。彼が北や南に向えば向こうも気を使うだろう。なにより降格処分と蔑まれかねない。それはカルヴァドゥスに反乱を起こすがいい。処分してやるから。と俺が言っているようなモノだ。あまりにも卑劣。それは悪だ。


 そしてこの地からカルヴァドゥスを引き離すことも危険だ。ルーフェンは俺が真の魔王とやらになった時に呼応するための戦力を整えていると言っていた。おそらくカルヴァドゥスもそれを掴んでいるのだろう。やり過ぎない範囲で彼が引きとめているとすれば、今ルーフェンの手綱がなくなるのはマズい。


「では、率直に聞くことにする。ルーフェンがお前が戦争の用意をしている、我に叛意ありの可能性があると言っていた。真か?」


「いや、魔王陛下。それを私自身に聞かれるので?」


 苦笑いしながらしばらく、考えたカルヴァドゥスはふぅっと息を吐く。


「では、こちらも正直に申しましょう。私は陛下を信用しておりません。いきなり人族から魔族の王となり人族と和平を結ぶ。まるで王を倒した勇者が魔族をも滅ぼそうとしているようではございませんか?」


 本当に正直に言って来たな。下手したらこれだけで叛意ありと言われても仕方無いぞ。


「なるほど。確かに俺は信用ならんだろうな。勇者として召喚された存在だ、この和平が人族の策略ではないかと思っても仕方無いだろう」


「はい。陛下だけであれば私は反旗を翻し、魔王城を奪還するつもりでありました」


「ほう?」


「ルーフェンから聞いたのは人族から来た勇者である陛下が魔王となられた。それだけでしたため、その後にいきなり人族と和平。となれば怪しんでも仕方ありますまい」


「なるほど。確かに俺がお前でも怪しんだ。というより反旗を翻しただろうな。で、お前はどうする?」


「ルーフェンの話が本当か。まずは情報を探ることから始めました。同時に戦の準備も始めましたが、どうやら彼は意図して報告しなかった情報があったようです」


「ふむ?」


「ギュンター前魔王が御生存のまま、あなたを魔王に押された。つまり前魔王陛下のお墨付きで魔王となられていると言う事実です。この事実があるだけで貴方の人物評価は変わってきます」


 確かにその通りだ。人族と徹底抗戦派だったギュンターが率先して俺を魔王に押し上げたのだ。つまり、彼が認めた人物が、魔族を破滅させるためだけに魔王に成った訳ではないと言えるだろう。

 もしそうであればギュンターは殺されているはずである。

 ギュンターが生存している事、その事こそが俺が魔族をないがしろにしようとしていない証明でもあった。ギュンター真名無効持ってるしね。俺の傀儡にされていないことも直ぐに分かる。


「そのため、私に叛意はない。と申しておきましょう。戦の準備もこの情報を知った時に取りやめました。集めた資材などはルーフェンに接収されましたが、この辺りは別に問題は無いでしょう。彼が行おうとしている事は一応魔族のためではありますし」


 ふむ。ルーフェンにとってはカルヴァドゥスは目の上のタンコブ。こいつが居るだけで思うように動き切れないのだろう。だから、言葉巧みに俺にカルヴァドゥスを処刑させられればラッキー程度であんな話をして来たらしい。

 ふむ。カルヴァドゥスは現状維持にしておくか。ルーフェンが暴走し過ぎないように見といて貰おう。


「私が信用出来ないと言うのであれば、そこにいるアウグルティースのようにしていただいても構いません。いかがなさいますか?」


「ならば命じようカルヴァドゥス。ルーフェンが暴走し過ぎないよう見張っておけ。あと東の守りは頼んだ」


「仰せのままに」


 胸に手を当て、深々と礼をするカルヴァドゥスだった。

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